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第2888号 2010年7月19日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《シリーズ ケアをひらく》
リハビリの夜

熊谷 晋一郎 著

《評 者》甲野 善紀(武術研究者)

身体と向き合うことの切実さ

 この本の書評を書いてほしいと依頼を受け,本書を読み始めたものの,著者である熊谷晋一郎氏の身体のありようなど,とてもわれわれに想像のつくものではないと思い,一度は断ろうかと考えた。

 それでも,せっかくのご依頼でもあるので,本書を少し拾い読みしてみたものの,やはり想像していた通り,人間が生きるということに本質的に備わっている苛烈さ,そして目もくらむような複雑さが,脳性まひという不自由な身体を持たれていることによって,より凄まじい形であぶり出されてきており,とてもじっくりと通読することさえ苦しくなってくるほどの困難さを感じた。しかし,同時にノンフィクションのみが持つ迫力に打たれて,「もう少し,もう少し」と読み進めていくうちに,人間というのは,さまざまな過酷な状況にさらされても,自分が生き続けようという意欲を持つために,当事者以外は想像もつかないような工夫をするものだということをあらためて教えられている気がして,ついついページを繰る手が止まらなくなっていた。

 そして,「もし健常者の常識を押しつけるようなことをやめて,例えば温水プールを基盤とした水辺の町のような環境をつくり,それぞれにかなった暮らし方,過ごし方をしてもらい,そこから気付いた道具の工夫や思想,文学などを社会に還元してもらったら,現代の常識として固定化している人間の幸福感などが根底から変わってくるような,新しい価値観が生まれるのではないか」などという夢想も広がった。

 ここまで書いて,私の文章が「ある本についての印象を読者に伝える」という書評の体をとても成していないのではないかという思いにとらわれた。本書『リハビリの夜』の持つ極めて詳細な客観的観察に基づく記述が冷静で詳細な分,いっそうリアルでナマナマしい迫真力を持っており,読んでいるとそれに打ちのめされてしまって上手くこの本の感想を伝えられない自分を自覚せざるを得ないのである。そのため,中途半端であるが,このような文章での,本書の紹介をご容赦いただきたい。

 個人的には,私自身の技がかつての武術の名人達人に比べてはるかにレベルが低いということを常日ごろから口にしていながら,その事実に対する認識が甘かったことを,あらためて痛感させられたように思う。健常者の身体が基準とされる世界において,脳性まひの身体と向き合い続ける熊谷氏の生きざまを思うと,「必要は発明の母」というが,すべての学びの成否は「いかにしてそれを学ぶことに切実さを持たせるか」ということにあるのだということを深く思い知らされた気がしている。

 より幅広い分野の方々に本書を読んでいただき,どのように思われたか,感想を聞かせていただきたいと思う。

A5・頁264 定価2,100円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01004-7


ナースのための臨床試験入門

新美 三由紀,青谷 恵利子,小原 泉,齋藤 裕子 著

《評 者》大橋 靖雄(東大教授・生物統計学)

看護師,さらには広く医療関係者に読んでほしい本

 本書の帯には「患者と家族を支える看護師に読んでもらいたい」との記載がある。4人の著者はいずれも,相当な看護実務経験を持っておられ,その後は「黎明期」のわが国の臨床試験の現場で奮闘し,さらに臨床試験コーディネーター(CRC)の教育を引っ張ってきた方々である。その思いが書かせた文章であろう。

 筆者と4人の著者の方々には「臨床試験」を通じた深いかかわりがあり,このような本が誕生し,そして書評を書かせていただくことは,唐突かつ奇妙な表現であろうが,良くできた「孫」を見る思いである。

 新美氏は看護短大からの東京大学健康科学・看護学科第1期編入生かつ筆者の教室の卒論生であり,面接時に臨床試験のGCP(Good Clinical Practice)の質問をしたときからこの世界に入ることが運命付けられたようである。修士の学生であった齋藤氏には厚労省のCRC育成パイロット事業に参加することを勧め,その後氏は日本のCRCの草分けの1人となられた。米国で臨床研究マネジメント修士課程に在籍されていた青谷氏には,西海岸でお目にかかり,当時立ち上げたばかりの「がん臨床試験CRCセミナー(財団法人パブリックヘルスリサーチセンター・CSPOR主催)」においてカリキュラム紹介をお願いした記憶がある。筆者が立ち上げに参画したJCOG(Japan Clinical Oncology Group)でCRCの中心として活躍された小原氏を含め,4人の著者すべての方のリーダーシップと貢献により,上記セミナーは半年ごとの開催が20回を超え,わが国ではほかにほとんど存在しない,専門性の高いCRC生涯教育プログラムとしての地位を確立している。

 さて「黎明期」と記したが,1997-98年の国際ハーモナイゼーションGCP導入は「黒船」であった。乱暴の誹りを恐れずに言えば,それ以前の日本の治験(製薬会社主導の申請のための臨床試験)は,新規性の乏しい薬を対象とした科学的には価値の低い,患者負担と保険制度の中で明確な契約もなく,インフォームド・コンセントも不十分に,医師が勝手に行う行為であった。患者を想う看護師の協力が得がたい状況であったことは想像に難くない。本来臨床試験とは,患者の理解と協力を得て,もちろん当該患者のケアの質は落とすことなく,得られた研究成果によって治療の進歩に貢献する学術的価値の高い行為である。効率的な試験実施のためには病院内の職員の協力とシステム作りが必須である。従来の「治験観」と「望まれる臨床試験実施体制」のギャップを埋める役割を,本書が担うことを期待したい。

 複雑な臨床試験の全貌を理解することは,臨床試験に参加経験のない者にとっては,たとえ医療者であっても困難である。本書は,臨床試験の歴史・臨床研究の分類・相やエンドポイントなどの臨床試験の基礎概念に始まり,倫理と患者保護,臨床試験に必要な資料と資金,試験実施のシステム,実際の手順を解説する。これらに続く「臨床試験における看護師の役割」を述べた章と,がんなど領域別の臨床試験の特徴記述に続く「看護師が行う臨床試験」の記述が本書のユニークな特徴だ。臨床試験に参加すること,あるいは主体的に協力することが,(臨床試験に限らない)看護研究の質向上につながるという視点に筆者も賛成である。

 本書は,本来の意図とはやや異なり医師にも広く読まれているようだ。個々の患者ケアと将来に貢献する研究をどう現場で折り合わせるかは,真摯な医師にとっても重要な課題である。そのニーズに応える本なのであろう。

B5・頁196 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00960-7


栄養塾
症例で学ぶクリニカルパール

大村 健二 編

《評 者》矢吹 浩子(明和病院副看護部長/日本静脈経腸栄養学会理事)

“真珠のように輝く”臨床栄養の知恵をNSTナースに

 NST(Nutrition Support Team;栄養サポートチーム)設置の必要性が謳われ始めたのはほんの数年前のことだが,あっという間にNSTは全国的に普及した。NSTの活動によって栄養管理の効果と必要性があらためて認識され,ついに今年度の診療報酬改定においては「栄養サポートチーム加算」の新設に至った。私自身も栄養管理に足を踏み入れてすでに10年以上経過したが,ケア提供者である看護師にとって栄養学や生化学は現場の看護に直結しにくい学問で,症例を重ねるほど,栄養管理の奥の深さと広さを実感している。同じような思いの看護師はたくさんいるだろう。

 本書は,そういう看護師にとって,かゆいところに手が届くテキストである。

 なんと言っても本の判型がよい。第1章は生化学の講義から始まるが,多くの看護師は化学式が苦手で分子レベルの学問には消極的である。大きな本の見開きページ一面に化学式が広がっていては通読する根性がくじけてしまうが,本書のA5サイズのページは目に入ってくる化学式の量が少なく,化学式アレルギーの私でも抵抗なく読み進めることができる。

 第2章の臨床栄養の基礎編,第3章の応用編では,具体的な症例を練習問題として提示し,要点をQ & Aで答えてくれている。まるでNST回診で症例を検討しているかのようなQ & Aには臨場感があり,NST回診で優秀な医師から直接教育を受けているような学びができるだろう。できれば症例を見ながら第1章の生化学にページを繰り直してもらいたい。難しい生化学も症例を通じてなら覚えやすく,楽しく学習が進められると思う。本書で練習問題に取り上げている症例は決して複雑な病態ではなく,NST活動をしている看護師であれば,おそらく誰もがかかわったことのある病態だろう。私自身ももちろんかかわった病態である。そのときにアセスメントしたことが本書では科学的に説明されてあり,自分自身の知識を一つひとつ再確認できるだけでなく,そのときに気付かなかったことを発見することもできる。また,その発見は新たに学習する入り口にもなり,栄養管理の研鑽へと広がっていくだろう。第4章では,注意を怠ると患者の重症化につながりかねない重要なピットフォールが集められており,栄養管理にかかわる医療者は必読と言えよう。

 塾長の大村先生は,本書のサブタイトルにある「Clinical Pearl」を「“真珠のように輝く”臨床の極意,絶対外してはいけないポイント」とされた。真珠は,貝の中で自己防衛して育まれる宝石で,石言葉は「健康・長寿・富」である。「Clinical Pearl」はまさに臨床で培われた大切な臨床栄養管理の知恵と言えるだろう。本書は,医師はもちろんのこと,NST活動を行う看護師であれば必ず読まれることをお勧めしたい良書である。

A5・頁280 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01014-6

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