医学界新聞

連載

2010.07.05

研修医イマイチ先生の成長日誌
行動科学で学ぶメディカルインタビュー

[第4回]

■行動変容のステージモデル
 無関心期・関心期(その1)

松下 明(奈義ファミリークリニック・所長 岡山大学大学院・客員教授/三重大学・臨床准教授)


前回よりつづく

 糖尿病の継続加療にて2週間前に受診された田中一郎さん(仮名,60歳男性)が再診に訪れました。イマイチ先生が今回も予診を担当します。

イマイチ 田中さん,こんにちは。前回は低血糖が怖くてお薬が飲めないということでしたが,その後どうですか?
田中さん 今回は院長先生を信用して飲んでみました。低血糖も起きず,体調もいいので本当に良かったです。
イマイチ それは良かったですね。僕もうれしいです。血糖値もきっと下がってきますよ! ところで,田中さんはタバコを吸っていらっしゃいましたよね? たしか1日に30本と。
田中さん 今も30本吸っています。なかなかやめるのが難しくて……。
イマイチ タバコをやめることは糖尿病の治療と同じくらい大事です。心筋梗塞や脳梗塞の原因になりますから……。
田中さん (ちょっと怪訝な顔で)まあ,知ってはいますが。難しいんですよ。
イマイチ 〔しまった!! 解釈モデル(連載第1回参照)に戻ろう〕田中さんにとって,タバコにはどのような利点があるのですか?
田中さん タバコは体に害があるだけでしょう。いいことなんてないでしょ?
イマイチ 吸うと気持ちがいいとか,ストレス発散とか,何かあるでしょ?
田中さん うーん……,まあ気分は落ち着くし,友達付き合いにも潤滑油になってるかなあ。
イマイチ なるほど。(さて,ここからどうしよう……)では,院長先生を呼んできます。

***

院長先生 田中さん,薬が合ったようで本当に良かったですね。
田中さん はい。これなら何とか続けられそうです。
院長先生 じゃあ,この調子でがんばりましょう! ……タバコのことを聞いたのですが,やめるのはやはり難しいのでしょうね?
田中さん ……私の父は脳梗塞で亡くなりましたが,タバコは吸っていませんでした……。糖尿もありませんでしたし。
院長先生 タバコと関係なく脳梗塞にはなるとお考えですか?
田中さん うちの家系には脳梗塞が多いんですよ。何をやってもダメでしょ?
院長先生 なるほど。糖尿病もあるし,どうせ脳梗塞になるんだから,タバコを吸ってもいいじゃないか! という感じなんですね?(共感)
田中さん そういうことです。この気持ちわかりますか?
院長先生 少し投げやりになってしまうお気持ちはよくわかります……(間)。
  でも,タバコと脳梗塞がどの程度関係があるか興味はありませんか?
田中さん ええ,以前から気にはなっています。
院長先生 じゃあ,この「脳梗塞とタバコ」というパンフレットを読んでみませんか?(個別化した情報提供)読んだらまた意見を聞かせてください。
田中さん あれ? 「やめろ」って言わないんですか?
院長先生 ええ。まずは読んで,感想を聞かせてください。
田中さん いいですよ。読むだけなら……。
イマイチ (そうか,焦らずにじっくりとやればいいのか……)

行動変容のステージに合わせた対応を行う

 Prochaskaらによると,患者の行動変容が起こる過程にはステージ(段階)があり,無関心期,関心期,準備期,行動期,維持期,再発期の各段階を経るといわれています1,2)図1)。喫煙を例にとると,喫煙が健康上の問題だと考えていない(無関心期)人が医療者の働きかけで「タバコが体に悪いことはわかっているが禁煙をしようとは思わない」(関心期)に変わり,気管支炎を契機に禁煙してみようかと考え始め(準備期),この気持ちが熟してついに禁煙に成功する(行動期)。その後も禁煙を6か月続けたが(維持期),飲み会をきっかけにまた喫煙するようになった(再発期)というものです。

図1 行動変容のステージ1,2)

 今回は,無関心期と関心期の対応の仕方について解説します。

無関心期

 喫煙を健康上の問題と意識していない患者に対して,「説得」を試みても無駄です。無関心期の人は無責任と見えますが,彼らは自分の問題としてとらえていないのです。医療者のほうが本人以上に心配し,つい合併症の恐さなどを強調して「説得」を試みますが,生命にかかわる緊急時でないと効果がありません。「脅しアプローチ」がごく短期間しか効果を発揮しないことは,行動科学的に知られています。

 まずは話をよく聴いて,その人が関心を起こす部分に波長を合わせ,繰り返し興味を引く工夫をすることが重要です。「種をまいて,水をかけて,いつか芽が出ないかなぁ」と待つ。この際,良い信頼関係を保ちながら長期戦で待つことがポイントです。

関心期

 行動変容のステージでは,多くの患者はこの時期と思われます。「わかっちゃいるけどやめられない」人々です。一般的には,喫煙を続けることの利益・不利益と禁煙する場合の利益・不利益を探り,話し合いの中で禁煙のメリットが大きくなればよいのです。また,喫煙の利益についても話し合い,別の手段で対応することを相談します。この際,患者の困難な状況を十分理解し,共感した上で話し合いを行うと効果的です。

 この方法でうまくいかない患者に対しては別のアプローチが必要となりますが,これにはKellerとWhiteによって開発された重要度-自信度モデル(Conviction-confidence model)1,3)が効果を発揮すると考えられています。図2のように,重要度と自信度に分けて質問することで,その患者の問題を4つのグループに分類して分析することができます。質問は,1-10で点数化することでわかりやすくなります。「タバコをやめることはご自分の人生でどの程度重要でしょうか? 1が重要でない,10がとても重要なら。また,実際やめるとしたら明日からやめる自信はどれくらいありますか? 1が全く自信がない,10はいつでもやめられるとしたら」。重要度の質問では,予想外に深いレベルでの解釈モデルを引き出すことができるものです。

図2 重要度-自信度モデル1,3)

 次に各グループへの対応法ですが,自信度と重要度の低いほうを持ち上げるアプローチを行うと効果的です。

 自信もなく重要とも思えない患者(図2のA)には,無関心期の患者と同様に情報を提供します。

 一方,自信はあるが重要だと思えない患者(図2のB)は手ごわい存在です。変に自信を持っているので,こちらの説明を受け入れることが非常に難しいのです。まずは話をよく聞き,患者がその考えに至った理由(解釈モデル)を把握します。感情面に十分対応しながら信頼関係を築いた上で,その考えの矛盾点を探ります。その患者の人生で重要と思っている事象(家族や健康状態など)と不健康な行動(タバコ)の間に矛盾は存在します。話し合いの中で,行動を変えることのメリットの大きさを示せればしめたものです。抵抗が強ければ無関心期として対応し,信頼関係を保ちながら,焦らず長期戦(時には年単位)で挑みます。ライフイベント(孫の出産,友人の病気)などをきっかけに本人の中で重要度が高まるのを待つしかありません。

 残り2つのグループ(図2のC,D)への対応は次回お話ししましょう。

ポイント
(1)行動変容のステージを理解し,相手のペースに合わせた対応をする。
(2)無関心期では「種をまいて,水をかけて,芽が出るのを待つ」長期戦モードで対応。
(3)手ごわい関心期では,重要度を確認して相手の考え(解釈モデル)をつかむ努力をする。

イマイチ 今日のつぶやき

無関心期は焦らず待つのか。本当にじっくり取り組まないといけないんだなあ。

つづく

参考文献
1)松下明.患者教育(行動科学的アプローチ).治療(増刊号).2002 ; 84 : 645-50.
2)Prochaska JO, et al. Transtheoretical therapy : toward a more integrative approach. Psychotherapy. Theory, Research, Practice. 1982 ; 19 : 278-88.
3)Keller VF, et al. Choices and changes : a new model for influencing patient health behavior. J Clin Outcomes Manag. 1997 ; 4(6) : 33-6.

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