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第2882号 2010年6月7日


論文解釈のピットフォール

第15回
プラセボ比較試験と上乗せ試験の落とし穴 その1

植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)


前回からつづく

ランダム化臨床試験は,本来内的妥当性の高い結果を提供できるはずですが,実に多くのバイアスや交絡因子が適切に処理されていない,あるいは確信犯的に除 去されないままです。したがって解釈に際しては,“ 騙されないように” 読む必要があります。本連載では,治療介入に関する臨床研究の論文を「読み解き,使う」上での重要なポイントを解説します。


プラセボ比較試験でも二重盲検が困難な薬剤がある

 前回は,プラセボやダミーを用いないオープン試験でも,さまざまな工夫をすることで客観性を維持し,信頼性のある結果を得ることが可能であることを,MRCストレプトマイシン研究(「ベッド上安静」と「ストレプトマイシン投与+ベッド上安静」の比較)を題材にお話ししました。しかし,薬剤同士の比較で,かつプラセボを使用しても盲検化が困難な場合があります。

 先日,ASCOT試験の主任研究者を務めた英国Imperial Collegeの臨床薬理学教授であるPeter Sever教授が来沖し,講演されました。ASCOT試験の舞台裏などについて,いくつか興味深い話を聴くことができました。

 ASCOT試験は数年前に結果が発表されましたが,欧米の最近の試験では珍しく,冠動脈疾患を持たない高血圧患者を対象とした純然たる一次予防試験です。いわゆるConventional therapy(既存療法)としてこれまで多くの試験で用いられてきたβ遮断薬(アテノロール)ベースの治療(二次薬は利尿薬)と,新たな降圧薬としての長時間作用型Ca拮抗薬(アムロジピン)ベースの治療(二次薬はACE阻害薬のペリンドプリル)をオープンデザイン(PROBE法)で比較しています(ASCOT-BPLA試験)1)

 さらに,2×2デザインとして,そのうち総コレステロール値が250mg/dL(6.5mmol/L)以下の患者においてアトルバスタチンとプラセボを比較した試験(ASCOT-LLA試験)を実施しています2)。これは,1つの試験のなかにeffectiveness評価(“古い”降圧薬を用いた治療法と“新しい”降圧薬を用いた治療法の比較)とどちらかというとefficacy評価(その当時スタチンの適応はないとされたコレステロール値正常の高血圧患者における治験)を組み合わせた研究と言えます。前者はいわばオープンでないと実施しにくい試験ですし,後者はより客観性の高い二重盲検法が採用されて当然ですね。エンドポイントは冠動脈疾患死と非致死性心筋梗塞ですから,オープン試験でも十分な客観性を維持することができます。

 ただ,コレステロール値を低下させる薬剤の完全な二重盲検試験の実施は,コレステロール値がわかってしまう可能性が高いので困難だと思います。完全な二重盲検法を行うならば,本来試験期間中は医師も患者さんにもコレステロール値がわからないような研究計画にしなければなりません。そうなると,経過中にコレステロール値が上昇して除外基準に抵触する場合もあるわけですから,倫理的な問題が生じる可能性も否定できません。

 一方,コレステロール値を知ってしまえば何らかの形でのバイアスが生じますね。英国と違って,日本では人間ドックなどいろいろな測定の機会がありますから,二重盲検法の維持はもっと困難かもしれません。

 β遮断薬に関しても,心拍数の変化という形で薬剤の服用がわかってしまうので,二重盲検法を用いるのは困難です。実際,β遮断薬と利尿薬,プラセボを比較したMRC軽症高血圧試験では,多くのβ遮断薬群の患者が離脱しています3)。この試験が医師には薬剤を知らせている単盲検試験であったため,離脱をした患者のなかには心拍数の低下を懸念した医師による治療中止も含まれています。

二重盲検法の詳細は論文に明記すべき

 β遮断薬そのものではなくβ遮断薬を用いた治療法の評価を行うとすれば,割り付け治療を離脱してもβ遮断薬群として経過観察を続ければ評価は可能です。しかし,あまり離脱が多いと何を見ているのかわかりませんし,交絡因子の発生によりバイアスも生じます。離脱しなかったのが「心拍数の低下が顕著ではない」患者だとすれば,「薬をあまりきちんと服用していない」可能性もありますし,β遮断薬が効きにくい患者かもしれません。

 また,LIFE試験はβ遮断薬アテノロールとアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)ロサルタンを比較したものですが4),試験開始から4.5年後のアテノロール群の心拍数は66回/分ですから,上記の懸念が当てはまるかもしれません。このように,どの薬を服用しているかを完全に隠すことができない場合が少なからずあるため,二重盲検法の詳細はやはり記載されるべきだと思います。

 しかし,ASCOT-LLA試験では,二重盲検法を誰に,どのように実施したかについてはあまり詳しく触れられていません。ASCOT試験だけではなく,多くの論文でプラセボと比較したとの記載はあるのですが,二重盲検化の方法,すなわち“Who was blinded”と“How blinding was achieved”に関しては,盲検法を採用したとされている研究の半分程度にしか記載がありません5)。また,2000年と2006年に発表されたランダム化比較試験を比較すると,「一次エンドポイントの記載」「症例数設定の根拠」「割り付けの隠匿」などは記載されるようになったのですが,盲検法についてはまだ改善がないようです(図)。

 2000と2006年に発表されたランダム化比較試験の方法の記載における違い(文献5より)
一次エンドポイント,症例数の設定の方法,ランダム化の方法,割り付けの隠匿に関しては記載された論文が増加したが,盲検の詳細については改善されていない。

プラセボを用いない上乗せ試験の落とし穴

 おそらく臨床医が最も関心がある臨床的疑問の1つは,「ある薬剤を使用する治療が使用しない治療よりも予後を改善できるかどうか」ということだと思います。特に動脈硬化性疾患の場合はそうだと思うのですが,高血圧領域では比較試験が多く行われてきました。しかし,例えばARBやCa拮抗薬がどの程度心血管リスクを下げるかは,別の薬と比較するのではなく,それらを使用する治療と使用しない治療の比較が必要ですね。

 さて,この使用する,しないはどのように比較すれば最も信頼性の高い結果を得ることができるのでしょうか? その薬剤を使用した治療法と使用しない治療法のeffectivenessを比較するのですから,オープン試験のほうがいいという意見もあるかもしれません。つまり薬剤Aを使用していることを知っていることによって,A以外の治療についてより適切に行うことができるので,それを含めて「Aを使用した治療」として評価すべきという意見です。MRC軽症高血圧試験の割り付け治療が医師には知らされた単盲検であったのもこれが理由です。

 慢性疾患では試験期間も長くなるので,患者さんにプラセボを数年間服用していただくというのは抵抗があるかもしれません。比較試験ならまだ両群とも治療介入を受けますが,プラセボ対照であれば,介入がないことにも抵抗があるかもしれません。そもそも先ほど述べたようにプラセボを使っても完全な盲検化は無理だという意見もありますね。

 また一方で,知っていることにより発生するバイアスはやはり大きい,特にエンドポイントによってはオープンでは評価できない,プラセボ対照の比較であれば信頼性は高いとの意見も当然あると思います。

 次回はこのあたりのことを具体的な例を挙げて議論したいと思います。

つづく

参考文献
1)Dahlöf B, et al; ASCOT Investigators. Prevention of cardiovascular events with an antihypertensive regimen of amlodipine adding perindopril as required versus atenolol adding bendroflumethiazide as required, in the Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Blood Pressure Lowering Arm (ASCOT-BPLA): a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2005; 366 (9489): 895-906.
2)Sever PS, et al; ASCOT investigators. Prevention of coronary and stroke events with atorvastatin in hypertensive patients who have average or lower-than-average cholesterol concentrations, in the Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial――Lipid Lowering Arm (ASCOT-LLA): a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2003; 361 (9364): 1149-58.
3)Medical Research Council Working Party. MRC trial of treatment of mild hypertension: principal results. Br Med J (Clin Res Ed). 1985; 291 (6488): 97-104.
4)Dahlöf B, et al; LIFE Study Group. Cardiovascular morbidity and mortality in the Losartan Intervention For Endpoint reduction in hypertension study (LIFE): a randomised trial against atenolol. Lancet. 2002; 359 (9311): 995-1003.
5)Hopewell S, et al. The quality of reports of randomised trials in 2000 and 2006: comparative study of articles indexed in PubMed. BMJ. 2010; 340: c723. doi: 10.1136/bmj.c723. 連載一覧