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第2877号 2010年4月26日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


下垂体腫瘍のすべて

寺本 明,長村 義之 編

《評 者》松谷 雅生(埼玉医大国際医療センター病院長・脳神経外科学)

下垂体腫瘍の基礎から臨床までのすべてが1冊に

 長らく渇望していた書がついに出版された。下垂体腫瘍の診断と治療の第一人者である寺本明教授と,下垂体細胞および下垂体腫瘍の病理学と生物学の第一人者である長村義之教授が,わが国の碩学の方々を執筆者にそろえて編んだ本書である。

 第1章は視床下部・下垂体の発生である。ヒトにおいては妊娠12-17週の間に視床下部-下垂体の神経内分泌系が活動し始め,そこに至るまでには種々の転写因子やその供役因子である内因性増殖因子などが関与している。真にヒトの生命誕生は神秘的であり,驚嘆を禁じ得ない。この章に続く下垂体ホルモンの分泌機構の章は,下垂体腫瘍の臨床において極めて重要である。

 手術方法の章は豊富なカラー図と極めて理解しやすい模式図を備え,かつて類を見ない手術書となっている。ゴナドトロピン産生腺腫,TSH産生下垂体腺腫などのまれな腺腫の臨床像にも詳しい。さらに,周辺疾患であるSubclinical Cushing disease, Rathke嚢胞,くも膜嚢胞,リンパ球性下垂体炎,下垂体過形成などの臨床像にも十分な紙面を割いている。下垂体腫瘍の長期予後の章と腺腫治療の各論を組み合わせると,治療による再発率,治癒率,あるいは二次性腫瘍発生率などがよく理解できる。

 さらに,下垂体ホルモン補償療法の章には,治療後の生活指導の重要ポイントがよく整理されている。ヒドロコルチゾン(コートリル®)の投与方法の注意はもとより,プロラクチン産生腺腫患者が妊娠した場合にドパミン作動薬の投与をどうするか? 治療後ゴナドトロピン分泌不全を呈する女性患者が挙児を希望した場合にどうするか? などが詳細に記されている。このように,本書には下垂体腫瘍の基礎から臨床まですべてが記されている。英文名の“Pituitary Tumors-Translational Research and Clinical Management”は真に本書の内容を表している。

 巻末付録として下垂体腺腫の診断・治療ガイドラインとデータブックがまとめられているのは,臨床現場で苦労している医師への優しい配慮である。本書はまさに下垂体腺腫に関するencyclopediaである。

 下垂体腺腫の本質は良性腫瘍であるが,治療後に汎下垂体機能不全症に陥る場合もあれば,逆にホルモン分泌過多が長期間持続することもある。したがって,ホルモン値を正常域におさめることが腫瘍を制御することと同じく治療の重要ポイントである。プロラクチン産生腺腫の手術摘出による再発率を差し引いた長期治癒率はmicroadenomaで60%,macroadenomaで25%であり,薬物治療との併用という点で興味深い。GH産生腫瘍においては,全体の標準化死亡比は健常人の1.72倍に及ぶが,治療後GHが正常化すれば死亡率は健常人の1.09倍となり,ほぼ差はない。Cushing病においては管理不全が死につながることはよく知られている。非機能腺腫でも再発率に差はあるが,ほぼ10年では50%が再発・再手術の経過をたどっており,長期の追跡が必要である。良性腫瘍とはいえ,QOLの高い生活と腫瘍の制御にはすべての面での完全寛解が求められている。真に奥の深い学問分野である。本書が下垂体腫瘍についてさらに深い知識を得ようとする臨床医と基礎医学者にとって,極めて有益な書であることを確信している。

A4・頁472 定価21,000円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00830-3


神経疾患の遺伝子診断ガイドライン 2009

日本神経学会 監修
「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会 編

《評 者》黒木 良和(川崎医療福祉大大学院教授/臨床遺伝専門医・指導医)

神経疾患の診療に携わるすべての人へ

 分子遺伝学の急速な進歩により多くの神経疾患の病因遺伝子が同定され,遺伝子診断の重要性が高まっている。遺伝子診断の意義は診断の確定にとどまらず,治療や予後,ケア等に関する多くの有用な情報を提供できる点にある。

 一方,遺伝子診断で明らかにされる遺伝情報は高度の個人情報であり,遺伝子診断の実施に当たっては当事者の自己決定権,プライバシーの保護,守秘義務などに対する十分な配慮が必要である。したがって,神経疾患の遺伝子診断に際しては,疾患の専門知識と同時に,遺伝カウンセリングの基本を押さえておく必要がある。

 本書はそのような観点から,主として神経内科医を対象に,遺伝子診断を適切に進める上で役立つガイドラインの提示をめざしている。本ガイドラインは日本神経学会の「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン」作成委員会(委員長:辻省次東大神経内科教授)によりまとめられたものである。

 本ガイドラインは総論と各論の二部構成になっている。総論では,神経内科医が診療現場で遺伝子診断を適切に進めるために知っておくべき遺伝学や遺伝カウンセリングの基本事項が診療の流れに沿って重点的に示されている。ただ,すべてを神経内科で完結させるのではなく,臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと連携する必要性を述べているのは注目に値する。

 各論では,発症時期や治療法の有無で類型化して,代表的疾患について,臨床像,遺伝学・遺伝子診断,遺伝カウンセリングについて簡潔にまとめられている。また,公的補助制度や患者サポート組織など社会資源の活用にも触れている。治療法が未確立な疾患群と,治療法が確立または可能性のある疾患群に分けて,対応法や遺伝カウンセリングのポイントが明確に示されていて診療の実際に有用なものとなっている。

 参考文献では単なる文献の羅列ではなく,内外の各種ガイドラインやデータベース,有用なオンライン検索サイトなどが紹介されている。

 巻末には遺伝医療の簡単な用語集があるが,これは臨床医にとってあまりなじみのない遺伝学用語が簡単にまとめられており,本ガイドラインの理解に役立つであろう。また,遺伝性神経疾患の最新の遺伝子情報が一覧表形式で紹介され,遺伝子検査の実施機関の紹介とともに遺伝子検査の実施に有用なものと思われる。

 本ガイドラインは現状における標準の提示であり,今後ゲノム医学の進歩に合わせて改訂されるものと考えられる。近い将来個人の体質に合わせた個別化医療についてもガイドラインに盛り込まれるであろう。

 本書は神経内科医のみならず,神経疾患の診療に携わるすべての医師,研修医,看護師,検査技師などの医療職および介護・福祉関係者,遺伝医療専門職(臨床遺伝専門医,認定遺伝カウンセラーなど)やそれらをめざす人に広く薦めたい一冊である。

B5・頁184 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00945-4

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