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第2865号 2010年2月1日


医長のためのビジネス塾

〔第12回〕論理的思考(4)統合・収束して考える

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


前回からつづく

 論理的思考として,前回は分解・分析して考える方法を紹介しました。今回はその逆で,統合・収束して考える方法を紹介します。その考え方を実践するために利用する代表的なツールが,ピラミッド・ストラクチャーです。伝えたいことや種々の情報を整理整頓し,わかりやすく説得力のある主張を行うためのツールとしては,最適なものです。

ピラミッド・ストラクチャーの構造

 ピラミッド・ストラクチャーの構造
 ピラミッド・ストラクチャーの構造は,本連載第9回で紹介した論理的思考の基本ユニットの集積です(図)。前回紹介したイシュー・ツリーを記憶している方にとっては,あれを90度回転して縦に置き換えただけのように見えるかもしれません。形だけで判断すれば,その通りです。

 しかし,意味するところは全く異なっています。なぜならば,思考の方向が異なるのです。分解・分析するためのイシュー・ツリーは,最初に解決すべき問題を掲げて,だんだんと分解していく構造になっていました。対して,このピラミッド・ストラクチャーは,思考が全く逆の方向に流れています。底辺の情報や事実から始まり,階層を下から上へと積み上げながらまとめていくスタイルです。

 この「下から上」という論理の方向が,ピラミッド・ストラクチャーの大きなポイントなのです。情報や事実を基にして作られる下層のメッセージをひとつ上の階層に明示し,その階層のメッセージを束ねてまたひとつ上のメッセージとして明示し,最終的に頂点のメッセージに帰結していくという構造です。いかにも論理のピラミッドという感じがします。

メインメッセージ
 下層から積み上げた論理のピラミッドの頂点に収まるのが,メインメッセージです。何らかの回答すべき論点があり,それに応える形でメインメッセージが存在することになります。ですから,回答すべき論点は,常に疑問文でなければいけません。例えば,「○○科外来の待ち時間の短縮のためには,どのような対策が望ましいか?」という具合です。それに応えるメインメッセージは,きっぱりと言い切る文章にしておく必要があります。「○○科外来の待ち時間短縮のためには,紹介・予約患者だけに受診制限するべきである!」などです。

メインメッセージを支えるキーメッセージ
 メインメッセージを,一段下層で支えるのがキーメッセージです。キーメッセージの数に決まりはありませんが,一般的に3-5個のことが多いようです。この上下2つの階層間の関係は重要です。キーメッセージを統合することによって,メインメッセージに収束しておく必要があります。つまり,キーメッセージを複数提示した後に「それをまとめると,どういうことが言えるの? 要するにどういうこと?」と問われれば,メインメッセージの主張内容にすんなりとつながっている必要があるのです。

 反対にメインメッセージに対して,「どうしてそのようなことが言えるのか?」と問いかけたときに,キーメッセージ一つひとつがモレなくダブりなく(連載第10回で紹介した「MECE」です),納得できる理由になっていることを確認することが,メインメッセージを支えるキーメッセージの妥当性を保証します。

 このように,メインメッセージとキーメッセージとの関係は,論理的思考の基本ユニットと同様なのです。これを「論理の三角形」と呼びます。

 先ほど例示した「○○科外来の待ち時間短縮のためには,紹介・予約患者だけに受診制限をするべきである」というメインメッセージを支えるキーメッセージの例として,次のようなものが挙げられます。「これ以上の医師数増加は当面画策できない」「○○科外来患者の○%は,○○科にとっては専門外の問題を抱えて受診している傾向が高い」「地域における当院○○科の存在意義は○△専門診療の担い手である」「○○科外来診療の受診制限が,当院の運営経営面に与えるデメリットは少ない」「受診制限による混乱は,地域医療連携によって十分に緩和できる」などです。

キーメッセージを支える事実・情報
 メインメッセージをキーメッセージが支えているという構造は理解していただけたと思います。では,キーメッセージの下層には,何が来るのでしょうか。そこにはキーメッセージを支える信憑性の高い事実・情報,妥当性の高い一般常識などが存在している必要があります。

 繰り返しになりますが,そこにある事実・情報は上層から分解されてきた抽出産物ではありません。最初から存在している事実や情報なのです。そして,それらの状況において,答えるべき論点や解決すべき問題が生じているのです。だからこそ,「下から上」に論理を積み上げていくピラミッド・ストラクチャーの手法を活用するのです。

 キーメッセージと,その下層の情報などとの関係も,論理の三角形になっていることが理想的ですが,あまり厳密にそのスタイルを追求しすぎると無理が生じることになります。ですから,キーメッセージの下層では,関連している情報や事実などを,うまくまとめ上げて合理的にキーメッセージを導き出していくことがポイントになります。研修指導医講習会で学習するKJ法などのアイデア整理術を応用することも,ひとつの有効な方法です。

 例を示します。前述した「これ以上の医師数増加は当面画策できない」というキーメッセージは,どのような事実や情報からまとめ上げられるのでしょうか。「大学からの派遣医は,現状維持以上は望めない」「○○科医師公募に対する反応はない」「来年,○○科を志望する院内研修医も勧誘のかいなく皆無」などの事実や情報が存在する場合,それらを統合することで導かれるという論理に大きな異議はないだろうと思います。

ピラミッド・ストラクチャーの利点と欠点

 このようなピラミッド・ストラクチャーを使うことの利点は3点あります。

 1つ目は,メインメッセージまでの筋道を,どのように組み立てればよいかが明快になることです。2つ目は,自分自身で論理の妥当性の有無を確認できるようになることです。論理展開の飛躍,見落とし,こじつけに気付くようになります。3つ目に,聞き手にとって,結論に至るまでの論理展開が明快になる点です。反論や同意などの議論のポイントが明確になるため,有意義な意見交換につながります。

 しかし,どのようなツールにも欠点はあります。このツールの最大の欠点は,その習得には達人からの手ほどきが必要不可欠という点です。また,論理的思考全般について言えることですが,あまりにも論理を重視するが故に,本来は重視して掘り下げるべきインスピレーションから発せられるアイデアを過小評価する恐れがある点です。

 ですから,あくまでもひとつの思考ツールとして上手に活用しようという認識が大事です。そこに気をつけて利用できれば,医療運営・経営における問題解決に対して,非常に有効な思考ツールになるものと思います。

つづく

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