医学界新聞

連載

2010.01.11

研修病院見学ルポ
~いい病院のええとこ取りをめざして~

【第9回】虎の門病院

水野 篤(聖路加国際病院 内科)


前回からつづく

特色

充実した専門科体制。
教育は各科での大学病院に類似した質の高いカンファレンス,回診が中心。
幅広い症例を経験可能。
初期研修の外科プログラムで行う全外科ローテートは魅力。

Profile
病床数:890床
救急車受け入れ台数:2063台/年(2008年度)
救急受け入れ人数:7875人(2008年度)

Opening
 病院見学も,筆者の生活の拠点である東京にようやく帰ってきた。今回の見学先は,研修病院として昔からよく知られる虎の門病院である。見学は午後からとなっていたため,午前中は聖路加国際病院で通常業務を行ってから移動した。勤務日の昼に外に出ることがここ5年間ほどなかったため,日差しが非常にまぶしく感じる。

研修内容は?
 虎の門病院は東京の都心にあり,ビル街の中に病院を発見。外来患者の間をくぐり抜け,エレベーターで医局がある階まで移動した。今回,見学の窓口となっていただいた内分泌代謝科の竹内靖博部長にお会いしたが,昼食がまだだったようでここからも忙しさが感じ取られた。そこで竹内部長に同行し,職員食堂で昼食を取りながら虎の門病院の研修内容について質疑応答を行った。

 研修は各診療科主導型であり,研修医の教育自体も各科に任せている状況とのこと。一般的な大学病院の研修スタイルに近いが,これも各科が実力者ぞろいであり,各科での教育で必要なスキルを身に付けることができるという自負があるからであろう。研修は2か月ごとのローテーションで,内科プログラムでは7科の内科専門科を,外科プログラムでは6科の外科専門科をローテーションする。なお,初期研修医からの評価では,すべての科をローテーションできよかったという意見が多いらしい。

 研修医にも話を聞いたが,研修医1人の受け持ち患者数は常時20例以上とのこと。噂に聞くとおりハードなカリキュラムとなっているようだ。筆者の研修医時代を思い返すと,20例以上を持つと正直フラフラになった記憶がある。手技に関しては,消化器内科のローテーション中に内視鏡を担当させてもらっている研修医もいるとのことだが,ほとんどは病棟業務だという。また3年目については,内科であれば内科,外科であれば外科の各科の中から選択した診療科で,3か月間ずつ4科のローテーションを行うカリキュラムだという。

カンファレンス
 カンファレンスは各専門科の医師が行い,月3回,病院から弁当が支給され行われるものがあるとのこと。外科研修医も手術中に抜け出て参加できる体制が徹底されており,約8割という高い参加率を誇る。研修医の話では,非常に忙しいためこれ以上カンファレンスの回数を増やしても参加は難しいようだ。回診は概ねどの科でも週1回行っているが,大学病院でかつて行われていたような,全入院患者のディスカッションは行っていないという。見学前は,虎の門病院は大学病院に近い形で研修を行っているのではと考えていたが,やはり市中病院の業務の忙しさでは,スタッフの医師も時間がとれないのであろう。全体の雰囲気としては,筆者が初期研修を行った神戸市立医療センター中央市民病院とどことなく似ている印象を持った。

研修医部屋。どこの病院でも研修医の部屋は同じ雰囲気である。
研修医の環境は?
 研修医の住居は,1年目は院内,2年目は院外の寮が指定となるようだ。机・ロッカーは各自に支給され,各自のパソコンにLANを接続すれば「UpToDate®」などのツールも使用できるとのこと。病院のパソコンは,経過表が含まれたオーダーリングシステムが導入されているが,カルテの記載は紙ベースである。当直は他病院とは異なるシステムであり,内科ローテーション中はスーパーバイザー,病棟当直,救急当直の3つの形で当直勤務がある。なお,スーパーバイザーは4年目からとのこと。虎の門病院は2次救急医療機関であり救急部もないため,昼の救急患者は当日の外来担当の3年目研修医を中心に内科処置室で診るという。そのため救急患者のReviewはない。外来は3年目から通年で担当し,午前と午後に分かれて行う。当然のことだが病院ごとに制度が異なるため,毎回理解するのに時間がかかる。医師は勤務先が変わることが多いのに,なぜこんなに病院ごとのローカルルールは違うのであろうか。

 都心のど真ん中というロケーションだが,聖路加国際病院の研修医と同様に忙しく,せっかくの都会を満喫するような状況ではないようだ。

伝統の「虎の門」――これまでとこれから
 見学の最後に,5年目で今年スタッフとなった腎臓内科の後期研修医と,循環器内科の4年目研修医で現在は他の病院に勤務する医師に話を伺った。非常に多くの症例数を持つ,いわば昔ならではの虎の門病院の研修も,負担が大きくなりすぎないよう近年は指導医が症例数を調節しているという。研修医の待遇も改善され,最近は研修医のQOLが向上している。施設面でもICUがなく重症患者も病棟で診ていた5年前とは変わりつつある。病院自体も含め,これからも変わっていくのであろう。実際の研修医の話からも,やはり研修の満足度は高いと感じた。

中心静脈穿刺のライセンス制
 このほか,筆者の主観にはなるが病院システムで素晴らしいと思ったことに,中心静脈穿刺のライセンス制がきっちりとした形で行われていることがある。入職後の4月にシミュレーションセンターで講義,実技の2回の演習があり,以降5回の見学と,指導医の監視下での8回の中心静脈ライン挿入を経験し修了のハンコをもらえば,3年目からは指導できる立場となるということだ。ただし,2年目研修医までの間は8回施行しても1人立ちはさせていないという。外科をローテーションする間に必ず上記条件は満たせるので,全員条件を満たすことができるとのこと。有名研修病院でもこのようなシステムの確立は非常に難しいことであるため,大変素晴らしいと感じた。近年,さまざまな病院でこのような試みが行われており,今後ますます広まるのではないだろうか。

聖路加国際病院との共通点
 聖路加国際病院との共通点としては,都心の病院であることはもちろん,やはり古くからの研修病院である点が挙げられるだろう。研修医が頑張ってこその市中病院。病院としてのこのあたりの歴史は,やはり共通しているように感じた。

Point!
専門性の高い内容での研修と豊富な症例数。このワンフレーズに尽きるであろう。

つづく

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