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第2862号 2010年1月11日


知って上達! アレルギー

第10回
喘息をハカる――肺機能検査

森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)


前回からつづく

 「固体・液体・気体」。学校で学んだ物質の三態です。医療現場でいちばんウケがいいのは固体ですね。薬剤はほとんどが錠剤ですし,器具も固体で扱いやすいです。続いて液体も人気があります。点滴,注射に血液検査。しかし,気体は駄目ですねぇ。肺機能検査に吸入薬……,どうも気体は敬遠されているようです。今回はそんな嫌われがちな肺機能検査(スパイロメーター)を取り上げます。

嫌われがちな“気体”

 肺機能検査は,世界共通で利用率が低いのが現状です。例えば最近の報告でも,カナダでは喘息患者のおよそ半数が肺機能検査を受けたことがなく1),米国でも新たに診断されるCOPD例のおよそ4割弱にしか肺機能検査が用いられていなかったそうです2)

 血圧測定なしで血圧治療は行いませんし,血糖測定なしで糖尿病治療は行いません。にもかかわらず,肺機能検査なしで喘息やCOPDの治療が行われているのが現状なのです。ぜひ,肺機能検査を行いましょう。しかし,FVC,FEV1, V50, V25, FEV1%,FVC%……文字だらけでイヤになりますね。ですから,本連載では,1秒量(FEV1)と1秒率(FEV1%)に話を絞ります。これだけでも,肺機能検査を十分に役立たせることができるのです。

1秒量を理解する

 まず初めに,みなさん,1秒間で何リットルの空気を吐けますか? フーッ。どうですか? ほとんどの方が2Lから5Lほどの空気を吐けるはずです。この1秒間に吐き出せる量(L)を1秒量といい,FEV1註1)と書きます(この小さい1がまたイヤな印象を受けますが,単に1秒間の1のことです。例えば6秒間での量はFEV6と書きます)。

 標準的な1秒量を求められる予測式があります。18-95歳を対象にすると,

男性FEV1(L)=0.036×身長(cm)-0.028×年齢-1.178
女性FEV1(L)=0.022×身長(cm)-0.022×年齢-0.005

です3)。意外ですが,体重は入っていないですね。この式を使うと,例えば,26歳で身長170cmの男性の場合は4.214L,28歳で身長150cmの女性の場合は2.679Lです。この予測値の80%以上であれば,1秒量については問題ないとされます。

 この1秒量が1Lを切るようになると,労作時の息切れで日常生活がつらくなってきます。計算式の年齢の係数を見ると,加齢によって1歳ごとに男性で28mL,女性で22mL減っていくことがわかります。この低下速度であれば,70歳でも1秒量は1.5L以上あります。ところが,タバコを吸っていると1年で40-80mLも低下します。すると,例えば60歳前後で1秒量が1L以下となり,呼吸困難が出現してきます。若い間はいいですが,年をとって初めて喫煙を後悔するわけですね。

1秒率を理解する

 1秒量がわかれば,1秒率は簡単です。先ほどは1秒間で空気を吐いてもらいましたが,今度は思いっきり,もう吐けなくなるまで吐きます。フーッ。おそらく,6秒もあればすべて吐ききれるでしょう。この吐けた全体積を努力肺活量(FVC)註2)といいます(これが下がるのが,肺線維症をはじめとする拘束性障害です)。このうち最初の1秒間に吐けた空気の体積の占める割合を1秒率といいます。つまり1秒量が努力肺活量に占める割合を1秒率といい,FEV1と書きます。

1秒率(FEV1%)=1秒量(FEV1)÷努力肺活量(FVC)×100

 1秒率が70%未満で,「閉塞性障害あり」とされます(1秒率がFEV1/FVCと書かれている場合は0.7未満)。COPDかどうかは日常診療でも問題となりますが,実は国際ガイドラインはシンプルで,気管支拡張薬投与後の1秒率が70%未満で,他疾患を否定できればCOPDの確定診断とされます4)。「気管支拡張薬投与後の」というのがミソで,β2刺激吸入薬などで気道閉塞が十分に改善するとされる喘息との鑑別に利用するわけです。

 この気管支拡張薬投与後の肺機能検査は簡単なのですが,なかなか行われません。この検査法を用いると,プライマリ・ケア医によってCOPDと診断されている患者の4割しかCOPDはなく,また,COPDと診断されるべき患者の半数が喘息と診断されていたという報告もあります5)。簡単な方法としては,患者さんが持っているメプチン®やサルタノール®などの吸入薬の使用前後での肺機能検査があります。気道の可逆性についても実感できるので,試してみるといいでしょう(ちなみに,一般的に可逆性の気道狭窄がある場合には,1秒量で12%以上かつ200mL以上改善します)。

ピークフローメーター

 肺機能検査の機械は,個人で買うには不向きです。その代用として,ピークフロー値があります。FEV1の単位は(L/秒)でしたが,ピークフローメーターの単位は(L/分)なので,数字は大きくなります。性別・身長・年齢,さらに器具の銘柄によっても変わるのですが,およそ予測値(L/分)は成人男性で500から700,成人女性で300から500といったところです。

 ピークフローメーターでは,使用する個人の最良値(基準値)が重要です。一番調子のよい状態での最良値を記録しておきます。その100-80%をグリーンゾーン(安心値),80-50%をイエローゾーン(注意領域:治療強化),50%未満をレッドゾーン(警戒領域:急いで受診)などと基準を決めておくと,各ゾーンで使用すべき薬剤や受診指示などを指導しておくことができます。これを「喘息のアクションプラン」といい,喘息の自己管理には大変有用です6)

 また,さらに知っておいていただきたいのが「ピークフロー値の変動」です。健常者のピークフロー値(または1秒量)は,朝でも夜でも,昨日でも明日でも,およそ一定しており,その変動率は20%未満です。しかし喘息のコントロールが悪いと,この変動率が20%以上,さらにひどくなると30%を超すようになります。朝と夜など複数回測定してもらうと,この変化をとらえやすくなります。

 電子ピークフローメーター(左がピークフロー値,右がFEV1を表示)
 入手できるピークフローメーターにはさまざまなタイプがあります。デジタル製のものは小型な上に,FEV1表示やPC上でのデータ保存も可能です。私が米国で勤務していた施設では,Piko-1(図)を勧めていました。自費とはいえ,日本でも血圧計と同じぐらい(6000円前後)で入手できるので,興味のある患者さんにはよいでしょう。

 今回は,少し敬遠されがちな,しかし喘息・COPD診療で欠かせない,肺機能検査の基本を書かせていただきました。この内容だけでも肺機能検査を診療に役立たせることができるはずです。さらなる内容については成書をご覧ください3)。これをきっかけとして,肺機能検査・ピークフローメーターを日々の診療に積極的に取り入れていたただければ幸いです。

つづく

註1)FEV=Forced Expiratory Volume
註2)FVC=Forced Vital Capacity

参考文献
1)Chapman KR, et al. Suboptimal asthma control: prevalence, detection and consequences in general practice. Eur Respir J. 2008;31(2):320-5.
2)Joo MJ, et al. Geographic variation of spirometry use in newly diagnosed COPD. Chest. 2008;134(1):38-45.
3)日本呼吸器学会肺生理専門委員会(編集).呼吸機能検査ガイドライン――スパイロメトリー,フローボリューム曲線,肺拡散能力.メディカルレビュー社. 2004.
4)World Health Organization, National Heart, Lung, and Blood Institute. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD). 2009.
5)Tinkelman DG, et al. Misdiagnosis of COPD and asthma in primary care patients 40 years of age and over. J Asthma. 2006;43(1):75-80.
6)日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会(監修).喘息予防・管理ガイドライン2009.協和企画.2009.

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