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第2850号 2009年10月12日


ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第7回 〕

敗血症へのアプローチ(2)敗血症の循環管理と補助的治療

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 前回に引き続き敗血症のマネジメントを考えます。今回は,感染症の側面ではなく敗血症治療における循環管理のポイントと,適切な対症療法(人工呼吸器管理,血糖コントロール,ステロイド投与など)について,筆者の勤務する一般市中病院のER,ICU/CCUの現場でどのように実践しているかを例に考えていきます。


■CASE

現病歴,身体所見,検査データ:肺気腫のある75歳男性。3日続く38℃台の発熱,悪寒・戦慄,緑色の喀痰分泌物を伴う湿性咳嗽の後に,徐々に意識レベルの低下がありERに救急搬送された。バイタルサインは体温35.4℃,心拍数120/分,呼吸数24/分,血圧110/62mmHg,SpO288%(RA)であり,診察上,口腔内汚染あり,胸部で左上肺野の呼吸音減弱,打診上濁音,ラ音あり,四肢の両下肢浮腫・網状皮疹あり,チアノーゼを認めた。検査では,白血球3,000/μL,血小板46,000/μL,腎機能はBUN/Cre44/1.6,血糖・電解質に異常なし,CRP24mg/dLであった。胸部X線:左上肺野浸潤影,喀痰グラム染色でグラム陽性双球菌多数とグラム陰性桿菌少数,尿検査で白血球10-20/HPF,細菌(+),尿グラム染色でグラム陰性桿菌あり。
ER,ICUでの対応:バイタルサインよりSIRS,病歴・身体所見より感染症疑いのため敗血症と認識。感染フォーカスとして肺炎,尿路感染症を疑いFever work-upを行いながら,セフトリアキソン2g×1,シプロフロキサシン300mg×2投与。また,EGDTに従い輸液乳酸加リンゲル液1000cc負荷するも来院1時間後に60mmHg台まで血圧低下,心拍数130/分まで上昇し,意識レベル低下あり。輸液負荷を続けながらノルアドレナリン持続静注開始し,気管内挿管・人工呼吸管理の上,ICU入室となった。ICU入室後,速やかに持続ScvO2モニタリング可能な中心静脈カテーテル,動脈ライン確保。輸液負荷およびノルアドレナリン持続静注を続け,人工呼吸器設定assist/control FiO21.0,吸気時間1.5,呼吸回数12/分,吸気圧15/分,PEEP10で設定し,一回換気量400(約8mL/kg),プラトー圧22cmH2O,動脈血液ガス分析でpH7.32,PaO2180mmHg,PaCO250mmHg,HCO3-22mEq/L,乳酸56mg/dLとなった。血糖220mg/dLと高値だったためインスリン持続静注を開始し,人工呼吸器管理をスムーズに行うため鎮静としてデクスメデトミジン0.2μg/kg/時で開始した。

敗血症の循環管理:輸液,強心薬・血管収縮薬の使いかた
 敗血症での循環管理として,早期目標志向型治療(EGDT:Early Goal Directed Therapy)が提唱されています。敗血症を認識し,血圧低下があり血中乳酸値>4mmol/L(36mg/dL)のケースでは,6時間以内に表のような血行動態の目標を特に意識します。

 敗血症初期(6時間以内)の循環管理目標
(1)中心静脈圧(CVP)>8-12mmHg:輸液負荷※人工呼吸管理中ならば>12-15mmHg
(2)平均動脈圧(MAP)>65mmHg:血管収縮薬(ドパミン,ノルアドレナリン)
(3)中心静脈酸素分圧(ScvO2)>70%ないし混合静脈血酸素分圧(SvO2)>65%:強心薬(ドブタミン,ミルリノン)
(4)尿量>0.5mL/kg/時

 ICU入室前に表を厳密に行うことは困難なので,現実的にはER受診後,敗血症,循環不全(乳酸値上昇や血圧低下)の時点で,ICU入室の準備を行い,大量輸液負荷および末梢血管収縮を第一の治療目標とします。

 循環管理で大切なのは輸液負荷です。輸液は心臓への前負荷(preload)を増やす目的で使用しますが,ガイドラインでは中心静脈“圧”(CVP)のモニタリングで“容量”で表す前負荷を代用していることに注意が必要です。ERでは血圧,心拍数,尿量モニタリングの上で,晶質液(生理食塩水,乳酸加リンゲル液),膠質液(アルブミン製剤)の静注を開始します。

 ICU入室後は,前負荷の指標としてCVPモニタリング以外にも血管エコーでのIVC(下大静脈)径の変化,施設によっては肺経由動脈熱希釈法PiCCOシステムやフロートラックの心係数(CI:Cardiac Index),1回拍出量変化量(SVV:Stroke Volume Variation)といった“血管内容量”を目安にして,Frank-Starlingの法則からCI上昇,SVV低下が落ち着く輸液の反応を評価することが大切です。

【輸液チャレンジ】
・生理食塩水,乳酸加リンゲル液500-1000ccを30分急速点滴。
・5%アルブミナー250ccを30分急速点滴。
※CVP:目標値,CI:変化なし,SVV:10%以下,IVC径:呼吸変動,を目安に繰り返す。

 前負荷を行っても平均動脈圧(MAP)が65mmHg以下の場合,後負荷(afterload)が足りないと判断し,血管収縮薬としてノルアドレナリンを中心に考慮します。

【血管収縮薬】
・ノルアドレナリン0.1% 1cc 5A+生理食塩水45ccで1-10cc/時で使用(0.2-1.3μg/kg/分)。
※尿量,血中乳酸値の変動も考慮。ノルアドレナリンの反応が悪い場合,バソプレシンを追加する。
・バソプレシン20単位1cc+生理食塩水45cc,1-3cc/時(0.01-0.04単位/分)。

 これらを行った上でも中心静脈血酸素飽和度ScvO2が70%以下の場合,強心薬としてドブタミン,ミルリノン投与の考慮および,Ht>30%を目標に輸血が推奨されます(実際の現場では,Ht25-28%程度ならガイドラインを気にせず輸血が行われないこともしばしばあります)。

【強心薬】
・ドブタミンシリンジで3-20cc/時(2.5-10μg/kg/分)。
※CI,心拍数をモニタリングし,心筋酸素消費量が増えないよう頻脈(>100/分)にしない。

敗血症の補助療法(1) 低用量ステロイド治療
 敗血症では,相対的副腎不全(Relative Adrenal Insufficiency:RAI)を高率に合併すると言われており,(1)輸液負荷によりCVP値,IVC径の評価で前負荷があり,(2)血管収縮薬投与している状態で,(3)MAPが上がってこない,乳酸アシドーシスの進行が見られる場合にステロイド投与を考慮し,投与後6-12時間程度で治療への反応を見ます。重要なポイントは投与後に血行動態の改善が得られたかどうかであり,投与は7日間を限度とします。

【低用量ステロイド】
ヒドロコルチゾン100mg×3。

敗血症の補助療法(2) Septic ARDSへの肺保護療法
 敗血症では,多臓器障害の一つとして急性呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)を25-40%と高率に合併します。ARDSで人工呼吸器管理を行う際には,1回換気量(Tidal volume)が大きいと肺組織が過剰に伸展し,肺損傷を悪化させ高サイトカイン血症を誘発し,ARDSのさらなる増悪および多臓器不全への進行につながると考えられています。現時点での人工呼吸器管理は以下を目標とします。

【人工呼吸器設定】
(1)開始時assist/controlモードを選ぶが,設定は圧換気・量換気どちらでも構わない。
(2)1回換気量は10mL/kgを超えないように設定(5-8mL/kg)。
(3)プラトー圧が30mmH2O以上にならないように設定。
(4)可能な限り48-72時間以内にFiO2を50%以下になるように設計(酸素毒性への配慮から)。
  また,1回換気量は予想体重を用います。
男性:50+0.91[身長(cm)-152.4]
女性:45.5+0.91[身長(cm)-152.4]。
※人工呼吸器管理不可能な場合,特殊なモードとして自発呼吸を温存するAPRVを選択することもある。

敗血症での補助療法(3) 血糖コントロール
 2001年に外科系ICUでの厳格な血糖コントロールによる合併症(主に急性腎不全),死亡率の減少が示され,その一方で,2009年に内科系ICUでは低血糖率,死亡率上昇が示されています(NICE-SUGAR Study)。重要なポイントは重症患者の高血糖を放置してはいけないという点です。そのため,現時点では150mg/dL以下を目標にコントロールするよう積極的にインスリン持続静注を行っています。

【血糖コントロール】
ヒューマリンR50単位+生理食塩水49.5cc持続静注メニュー。
※4時間ごとにフォローし120-150mg/dLを目安にコントロール。

敗血症での補助療法(4) 2次性肺炎,深部静脈血栓症,ストレス潰瘍の予防
 敗血症治療中は合併症の予防が大切であり,ショック状態離脱後は30-45度のベッドアップで2次性肺炎予防を行います。また,深部静脈血栓症予防のため弾性ストッキング・フットポンプを使用し,禁忌がなければへパリン皮下注も行います。48時間以上の人工呼吸器管理やDIC合併例ではH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬でストレス潰瘍予防を行います。

敗血症での補助療法(5) 鎮静,鎮痛,筋弛緩薬
 敗血症性脳症や人工呼吸器管理によりせん妄が起こるため,適切な鎮静,鎮痛を必要とします。また筋弛緩薬は,人工呼吸器管理での自発呼吸温存の流れ,そしてステロイド投与,敗血症でのミオパチー,ポリニューロパチー(CIP/CIM:Critical Illness Polyneuropathy/Critical Illness Myopathy)発症を考慮し基本的に使用しません。

【鎮静・鎮痛】
・デクスメデトミジン200μg+生理食塩水48cc で5-10cc/時(0.2-0.7μg/kg/時)。
※上記を使用しても不穏が続く場合,投与量増量や鎮静目的でハロペリドール静注,プロポフォール・ミダゾラム併用を行う。

Take Home Message

●敗血症の循環管理としてEGDTを意識し,輸液負荷を先行させ,血管収縮薬,強心薬を適宜用いる。ベッドサイドでこまめに治療への反応を繰り返し評価する。
●人工呼吸器管理として,(1)低1回換気量,(2)プラトー圧を意識した設定を行う。

つづく

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