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第2847号 2009年9月21日


腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第12回 〕
地域緩和ケア支援ネットワーク(3)
生活支援システム

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

 医療支援システムが地域緩和ケア支援ネットワークの“黒子”であれば,“主役”は生活支援システムです。生活支援システムは,患者の介護支援や介護する家族の生活を支える役割を持つもので,ケアマネジャー,ホームヘルパー,介護福祉に携わる行政職員および地域住民がかかわります。そして,この中で最も重要な役割を担っているのがケアマネジャーです。

 通常,ケアマネジャーの役割は,介護保険の申請の代行,患者のADLの状態に即した介護支援の調整(介護計画の作成とサービス事業者の手配および介護サービスの実施状況の評価など)ですが,看取りを念頭においた在宅医療においては,病状悪化時や臨終期の適切な介護体制の構築や生活指導(看取りの指導など)も重要な役割の一つになります。

がん終末期の支援体制には迅速さが求められる

 在宅ホスピスケアにかかわるケアマネジャーやホームヘルパーが直面する問題はたくさんあります。病状の進行に伴ってADLが急速に低下することがあるため迅速な対応が求められること,かかわる期間が短いため介護する患者の家族との信頼関係の確立が難しいこと,医療従事者との連携が一般的には取りにくいことなどです。特に最初に抱える問題は,介護保険の申請時に勃発します。

 介護保険は2000年4月に導入され,2006年4月の改定で40歳以上のがん終末期の方への適応が認められました。しかし,もともと寝たきりで病状が安定している人を対象としているため,申請しても窓口で受理されないことも少なくありません。まだ歩ける状態では認定できないというのが理由です。私が在宅ホスピスケアを勧めるのは,まだ歩くことができる時期です。在宅医療は歩くことができず通院できないことが前提なので,本来は適応外となります。しかし,がん終末期では寝たきりになると余命は非常に短いのが通常で,この時点で申請するのでは認定調査が入る前に患者が死亡することもあり,認定されても必要な時期に支援が受けられない状況が出てきます。

 介護支援を含めた生活支援システムの整備が,がんや慢性疾患の終末期の在宅医療や地域での看取りの普及の大事なキーポイントであることは明らかです。そのため,今後は社会保障費を増額すること,がん終末期では介護保険の認定を簡略化すること,介護従事者に対する医療的な知識(特に緩和ケアの知識)の啓発を進めることなどの施策を実施する必要があります。また,地域では,医療従事者と介護従事者ができるだけ顔の見える関係性を作っておくことも大事で,十和田では,十和田緩和ケアセミナーや緩和ケアの講演会には多くの介護従事者が参加し,一緒に学ぶ機会が多くなりました。

 地域緩和ケア支援ネットワークにおける病院の役割も重要で,がん専門医が治療に反応しない進行したがん患者を歩けるうちに在宅側に送らなければ,ネットワークは稼働しません。また,症状緩和困難な事例の受け入れや看取り不安の強い家族のための後方ベッドの提供なども病院の大事な役割です。

ホスピストライアングルでどんな環境でも同質のケアを

 そして,ホスピストライアングルという言葉があります。在宅-急性期病院-緩和ケア病棟のいずれにおいても同質のホスピスケアが提供され,病状によって療養の場を選択できる体制のことです。この体制における緩和ケア病棟の役割は,在宅の後方支援および地域の医療介護福祉関係者の教育です。この目的で,当院でも今年9月1日に10床の緩和ケア病棟を開設しました。当面は緩和ケア病棟入院加算を申請せず,がん終末期だけでなく慢性疾患の終末期の方も対象として運営していく方針としています。

つづく

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