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第2839号 2009年7月20日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第55回〉
実習への序章

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 まだ「看護師」のイメージとは程遠いにぎやかな学生の集団とエレベーターに乗り合わせた。「今日は予定を入れちゃったしー」と話し始めた。「何の予定?」と私が尋ねると「ナイトフレンドです」と言う。「楽しい?」と聞くと「はい,とっても」とすぐに答えが返ってきた。

友達に会いたいから行く「ナイトフレンド」

 「ナイトフレンド」は,本学の学生たちが聖路加国際病院の小児病棟で平日の夜に行っているボランティア活動であり,かれこれ10年以上続いている。「慢性期看護論」の授業の中で「兄弟の気持ち」を学んだ先輩が,何かできることはないだろうかと考えたことがきっかけだったと,学園ニュースNo.283(2008年10月)で学部3年の宇田川愛さんが紹介している。それによると,患児の兄弟は感染の可能性から病棟内に入ることができないため,患児が入院すると家か病院のロビーで待つことになる。また,入院中の患児はもっと自分に目を向けてほしいと思っているが,そのことを十分に表現できず苦しんでいること,兄弟との関係性にも変化を及ぼすことを授業で学んだ。そこで,そのような子どもたちの寂しさを軽減して,「普通に遊べる友達」になろう(なってもらおう)と始めた活動が「ナイトフレンド」であり,患児とその兄弟が対象となる。

 その活動のコンセプトは「友達」であり「友達に会いたいから行く」という気持ちをいちばんの基本と考えていると宇田川さんは強調する。「私たちは彼らの友達で,同時に彼らは私たちの友達です。だから,看護学生として何かをしてあげたいというのではなく,病気や怪我には何もできないけれど,ただの友達としてできることはたくさんあります」と書いている。彼女たちはスケジュールを組み,平日の夕方,1-2人で病棟に行き,絵本を読んだり,散歩をしたり,一緒に笑ったり,寝たり,ただそこにいるだけのときもある。夜に現れるナイトフレンドは,つきそっている親に休息をもたらし,不安定になりがちな患児の気持ちを支えてくれ,今では小児病棟の重要な一員となっている。登録メンバーはおよそ70人という。

触れ合いが楽しい「いちごフレンド」

 本学には「フレンド」と名づけられた学生たちのボランティア活動がもうひとつある。「いちごフレンド」がそれである。いちごフレンドは「ストロベリー」フレンドではない。彼女たちがボランティア活動を行っている病棟10Eと5Eの名称から105フレンドとなり,これを「イチ」「ゴ」と呼ぶことになったためだと学部3年の長澤裕美さんが紹介している。

 いちごフレンドの活動は,ナイトフレンドより歴史は新しく2006年11月から始まった。きっかけは「看護学生だけど病棟ってどんなところか知らない。もっと患者さんと直接触れ合いたい」と考えた学生が基礎看護学の教員と相談し,受け入れ病棟と交渉したことである。現在も定期的にミーティングが続いているという。

 いちごフレンドたちは,食事の配膳と下膳,洗面の介助,食事の介助などを行う。「このいちごフレンドを通して,患者さんとコミュニケーションをする楽しさ,授業で学んだことを病棟で実践できる楽しさを感じる」とともに,「ボランティアをするたびに,新たな発見や達成感があり,将来ナースになることへのモチベーションも上がり,とても充実している」と長澤さんは書いている。開始当初の10人から,2008年には1年生と2年生が多く参加することとなって現在65人のメンバーになったという。いちごフレンドたちは,月曜日・木曜日の放課後と土曜日のお昼の週3回,1回につき2時間とし,メンバーが増えることで活動日も増やしていくとしている。

 いちごフレンドたちと受け入れ病棟の看護スタッフを対象とした調査が2008年1月に実施され,聖路加看護大学紀要に「報告」されている(小林万里子他,看護学生による病棟でのボランティア活動報告――成果と今後の課題,35巻45-51頁,2009年3月)。それによると,学生(n=25)においては,大学の授業や今後に役立つとの意見が大半を占め,病棟スタッフ(n=24)は,「患者の話し相手や付き添いなどスタッフでは覆いきれない部分をカバーしてくれる」と回答し,活動の継続を望んでいた。今後,学生に応じた活動内容の充実に向け,受け入れ側の体制作りをさらに進める必要があると結んでいる。

 「ナイトフレンド」と「いちごフレンド」に共通していることは,学生たちの自発的な活動であり,しかもその活動が継続しているということである。学生の持つ創造力,行動力,そして組織化の能力に脱帽である。こうした活動は,臨地実習への序章としても意義は大きいと私は評価している。彼らは,医療現場に存在することから始まる。

つづく

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