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第2838号 2009年7月13日


第10回日本言語聴覚学会開催


 第10回日本言語聴覚学会が,6月13-14日,川崎医療福祉大(倉敷市)にて種村純会長(同大)のもと行われた。創立後初めて西日本での開催となった今回だが,「言語聴覚臨床のスコープ」をテーマに過去最高の225演題が寄せられ,改めて言語聴覚障害研究の裾野の広がりが示された。


シンポジウムのもよう
 シンポジウム「失語症の包括的理解――評価と介入のいま」(座長=岡山県立大・中村光氏,姫路獨協大・福永真哉氏)では,WHOの国際生活機能分類(ICF)に基づき「機能障害・活動制限・参加制約」の三点と,環境や個人因子の面から失語症臨床が考察された。

 まず「機能障害」の側面から二氏が口演。音韻・語彙レベルの障害については宮崎泰広氏(日赤医療センター)が,物体視認・文字認識をスタートとして,意味・語彙・音韻レベルなどを経て発話に至るまでを図式化した言語処理モデルを提示。言語性保続出現の神経過程や,錯語の種類別に有効なプライミング効果を示した上で,失語症者の多くには発話表出過程において複数の障害があり,損傷箇所と程度を見定め,介入法を決定すべきだと語った。

 統語障害(失文法)については渡辺眞澄氏(新潟医療福祉大)が発表した。氏は,主に英語圏で活用されているTUF(文の基底構造の訓練)や,動作絵と動詞の一部のみ示して想起を促す動詞発話訓練などについて説明。複雑な文を用いた訓練が同種の簡単な構造の文に汎化されることや,文全体より動詞に絞って発話訓練したほうが,より治療効果が高いことなどを示した。

 吉畑博代氏(県立広島大)は,「活動制限」の点から失語症を読み解いた。氏は,パソコンでの写真のトリミングを「活動」課題とした症例について報告。課題習得により心身の「機能」面で,作成した写真を皆に配布することで「参加」段階でも改善がみられたという。ICFの三要素の相互作用を重視し,家族や患者の性格など環境・個人因子も考慮しつつ総合的に患者を理解することが重要だと話した。

 「参加制約」については小林久子氏(首都医校)が発言。社会への「参加」のための介入法として,氏はまず「失語症会話パートナー」の活動を紹介。会話パートナーは,グループ会話や自宅訪問により失語症者の他者との意思疎通を補助している。さらに氏は,失語家族用の介護負担感尺度を開発。失語家族の心理的負担が非失語家族より大きいことが有意に示され,環境因子である家族の負担・不安の除去が,患者の「参加」を促進すると主張した。

 韓国からはKwon Miseon氏(Asan Medical Center)が報告した。韓国はOECD加盟国で最も早く高齢化の進展が予測され,失語症の最大の原因,脳卒中の増加も見込まれる。しかし失語症の評価ツールは乏しく,治療もいまだ医療保険の対象外である。氏はハングル(表音文字)とハンジャ(表意文字)の認知の乖離が脳卒中の病変部位に拠ることや,ハンジャと物の認知過程に共通のメカニズムがあることなど,韓国独自の研究成果を紹介。今後は評価ツール・治療モデル開発や,専門職の資格制度など,超高齢化社会を見据えた対策をしていきたいと述べた。

 総合討論では,失語症者の就労時の評価基準について,WAISを基本としつつ,職種に応じ会話能力や理解度などを個別に判断すべきことなどが議論され,急速に発展する言語聴覚障害研究の課題と可能性が示唆された。