医学界新聞

2009.06.29

第45回日本肝臓学会開催


 第45回日本肝臓学会が工藤正俊会長(近畿大)のもと,6月4-5日に神戸ポートピアホテル(神戸市)にて開催された。関西地方での新型インフルエンザの拡がりで一時は開催自体が危ぶまれたが,全国から多くの肝臓専門医が集まるとともに,ウイルス性肝炎や肝細胞癌等について最新の知見が報告された。また,本学会に引き続き6月6-7日には,第3回国際肝癌シンポジウムKOBEが欧米の肝癌ガイドライン担当者らを招き開催された。本紙では,学会の一部を報告する。


HBワクチン導入に向けて

工藤正俊会長
 ワークショップ「ユニバーサルHBワクチン:是か否か?」(司会=東大・小池和彦氏,名市大・田中靖人氏)では,11人の演者がわが国のHB(B型肝炎)ワクチンの現状について報告した。B型肝炎については,母子感染予防が施行されHBVキャリアーが激減する一方で,海外由来と考えられるgenotype Aによる急性肝炎や父子感染の増加など,従来の対策ではHBV感染を制圧できない状況にある。WHOは,すべての国に対し新生児予防接種プログラムにHBワクチンを加えることを推奨しているが,先進国では日本と英国のみが新生児への定期接種を行っておらず,その導入が議論となっている。

 本ワークショップでは,まず現在のわが国のB型肝炎の状況として,四柳宏氏(東大),矢野公士氏(国立国際医療センター国府台病院)がB型急性肝炎の現状と変遷について報告。急性肝炎の主体がgenotype Aであり,近年増加傾向にあることが提示された。また,HBVがワクチン耐性を獲得するワクチンエスケープ変異については,林和彦氏(名大)が感染が進行した肝癌症例で変異が多かったこと,吉岡奈穂子氏(川崎医大)が南アフリカでの経験ではワクチン使用によるエスケープ変異は発生しなかったことを紹介した。そのほか,母子感染以外の感染経路や献血におけるHBVの解析についての報告があり,父子感染や欧米型genotypeの拡がりが示された。また,全体討論にて肝臓学会の評議員に対し行ったアンケート結果が公表され,ワクチン導入に83%の賛成が得られる一方で費用対効果や副作用の面で不安といった反対の声もあったことから,導入へ向けた第一歩としてアイルランドで行われたようなワクチンのシミュレーションをすべきと総括した。

日米欧の肝癌標準治療

ワークショップのもよう
 シンポジウム「日米欧における肝癌診療の相違をめぐって」(総合司会=社保下関厚生病院・沖田極氏,司会=日赤医療センター・幕内雅敏氏,近畿大・工藤氏)では,わが国と欧米における肝細胞癌のスクリーニング法や診断法,治療法の違いに焦点を当て,日本の医師と欧米の医師がそれぞれPro,Con形式で発言を行った。

 報告後にアンサーパッドを用いた意見交換が行われたが,本シンポジウムの出席者の大半が日本人であるためかわが国で標準的に行われている手法が多くの賛同を集めていた。肝細胞癌の治療では,日本でもいよいよ分子標的薬が承認されたことから,外科療法,局所療法,肝動脈化学塞栓術に続く治療法として今後の動向が注目される。

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