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第2833号 2009年6月8日


論文解釈のピットフォール

第3回
RCTと観察研究――デザインの違いと意味するものの違い

植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)


前回からつづく

ランダム化臨床試験は,本来内的妥当性の高い結果を提供できるはずですが,実に多くのバイアスや交絡因子が適切に処理されていない,あるいは確信犯的に除 去されないままです。したがって解釈に際しては,“ 騙されないように” 読む必要があります。本連載では,治療介入に関する臨床研究の論文を「読み解き,使う」上での重要なポイントを解説します。


 皆さんはエビデンスレベルという言葉に聞き覚えはありますか? 図1をどこかで見たことがあるのではないでしょうか? この図は「エビデンスのピラミッド」とよばれ,臨床研究の結果の信頼性の高さ,あるいはエビデンスのグレードを表していると言われます。最上位にランダム化比較試験(Randomised Controlled Trial, RCT)があり,以下コホート研究,症例対照研究といった観察研究になります。これを見ると,RCTこそ信頼できるエビデンスを提供するもので,観察研究からのエビデンスはそれよりちょっと信頼性が落ちる,ということになりますね。それは確かに正しい部分もあります。

図1 エビデンスのピラミッド?
臨床研究の結果の信頼性に関してこのようなピラミッドとして表現されることがある。本来はそれぞれに強い点,弱い点があり,役割も異なるが,確かにこのような図になってしまう部分もある。

RCTの必要性

 例えば高血圧患者さんのコホートで予後を観察していくとしましょう。このコホートで「サイアザイド系利尿薬を使っている人には糖尿病発症が多いのではないか?」という疑問を解決したいとします。しかし,日本ではサイアザイド系利尿薬の処方は少なく,積極的に投与する医師はまだまだ少ないようです。宣伝も見かけませんね。ですから,服用している患者さんはおそらくいろいろな特徴を持っていると考えられます。

 例えば,血圧のコントロールがうまくいかず,やむを得ずあまり使用することのない利尿薬を処方した可能性は大いにあります。そうすると,その患者さんは利尿薬を服用していること以外に「血圧のコントロールが悪い患者」「何らかの臓器合併症が既に進行している患者」である可能性を持ちます。したがって,たとえ利尿薬服用群で糖尿病発症の頻度が高いとしても,それは「もともと血圧のコントロールが悪い患者」と「糖尿病」の関連かもしれません。つまり利尿薬服用患者と非服用患者は,薬以外にもいろいろな面で異なるので,予後を比較するのであれば,こういった因子を補正する必要があります。その解決法のひとつがRCTという研究手法なのです(図2)。ランダムに(強制的に)利尿薬服用,非服用に割り付ければこのような問題は少なくなります。もし医師の裁量で利尿薬を処方された群をそのまま比較すると,先述したような理由で,糖尿病が多いという結果や血圧が高いという結果,合併症が多いという結果などが出るかもしれません。

図2 前向きコホート研究とRCT

 図3は,ある観察研究(前向きコホート研究)で“観察期間中に糖尿病を発症した群”,“もともと糖尿病であった群”,“観察期間中糖尿病を発症しなかった群”における各降圧薬の使用頻度を比較したものです(文献1)。利尿薬使用頻度が“観察期間中に糖尿病を発症した群”で高く,著者らはその結果をもとに「利尿薬は糖尿病発症のリスクを高める」と述べています。通常観察研究では欠点を克服するために,統計学的な補正を行ったり,傾向スコア(薬剤投与に関連する要因が同程度の服用者,非服用者を,ペアをつくって比較する)を用いたりします。本研究でもそのような補正がなされていますが,いかに統計学的に正しい手法を用いても,利尿薬が投与された状況にさかのぼって,投与に関連する何らかの糖尿病発生と関連する因子を補正することはできません。したがって,本研究の結果から「利尿薬が糖尿病発症のリスクを高める」とは言い難いのです。

図3 糖尿病新規発症患者,糖尿病患者,非糖尿病患者での各降圧薬の使用頻度(文献1より改変)
観察期間中に糖尿病を発症した患者では利尿薬の頻度が多い,したがって利尿薬が糖尿病発症の犯人かもしれないと解釈している(Ca拮抗薬やACE阻害薬も多いが,補正により関係ないとしている)。しかし処方された背景が解析に加味されているわけではないため,結果と原因の取り違えの可能性は高いと考えられる。

 もうひとつ例を挙げます。表は北欧で行われた前向きコホート研究の結果です(文献2)。スウェーデンのウプサラで1920-24年に生まれた男性を対象に,50歳と60歳の時点で検診を実施,10年間の血圧や脂質,血糖の変化とその後17年間における心筋梗塞発症との関連を解析しました。ただし,被験者を60歳の時点で降圧薬治療を受けている群と受けていない群(結果として両群とも正常血圧者)に分けています。表がすこしわかりにくいのですが,要するに50-60歳にかけて血糖値が標準偏差値と同程度上昇すると,心筋梗塞リスクは1.37倍になるとしています。しかも,この間の降圧薬がβ遮断薬と利尿薬であることから,この2剤は血糖値を上げて心筋梗塞リスクを増やすと述べています。

 50-60歳までの危険因子の変化と心筋梗塞リスク(文献2より改変)
血糖値が標準偏差値と同程度上昇すると,心筋梗塞のリスクが,降圧薬使用群では37%増加,降圧薬非使用群では14%増加するが有意な増加でないとしている。しかし不思議なことに,収縮期血圧の変化による心筋梗塞のリスクの低下はない(ハザード比0.99),となっている。

 本研究は同じ地域の同年代の被験者を登録し,非常に長期間観察した優れたコホート研究ですが,この結論は明らかに誤りです。著者らは被験者をまず2群に分けましたが,一群は“高血圧で薬物治療を受けている患者”で,もう一群は“正常血圧群”なのです。著者らの最大の過ちは,高血圧患者の糖尿病リスクが正常血圧者と比較して高いことを考慮していないことです。本研究の結果からは,「治療していないと血糖値が上がらず,心筋梗塞の予測因子とならない」と読めますが,後者の群は高血圧ではないので治療していないわけで,したがって血糖の上昇と心筋梗塞の関連は,高血圧そのものと心筋梗塞の関連かもしれません。

 さらに著者らは,「血糖値の上昇を治療薬によるもの」と結論づけています。これも対照群が適切ではない,というより,そもそも比較してもいい対照群がありません。この表からは,血圧を下げても心筋梗塞のリスクには影響がないと読み取れます。これは明らかにおかしいですね。同じ前向きコホート研究でも,1987-89年に米国の1万5792人を登録して開始されたアテローム性動脈硬化症に関するARIC研究では,治療していない高血圧を対照としていて,「サイアザイド系利尿薬は糖尿病リスクを増やさない」と報告しています(文献3)。

RCTと観察研究の結果が違うときは?

 では,観察研究とRCTの結果は一致するのでしょうか? 過去の研究のなかに,いくつか同じ治療介入について両者を比較した報告があり,研究結果はおおむね一致するようですが,時にまったく違う結論を出してしまうことがあります。典型的な例がおそらく閉経後女性のホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy, HRT)に関する研究だと思います。閉経前女性には心筋梗塞が少ないこと,卵巣を摘出した女性では心筋梗塞が起こる頻度が高いこと,脂質への影響,実験動物における動脈硬化褪縮効果などからエストロゲン仮説という説が生まれ,1970年代に男性に高用量のエストロゲンを投与して心筋梗塞リスクを評価するというRCTが実施されたのです。本研究ではむしろ「エストロゲンを投与すると心筋梗塞リスクが増える」という結果が出されたのですが,その後1990年代のいくつものコホート研究のメタ解析,および16年におよぶ観察を行った大規模コホートであるNurses' Health Studyの結果からは,HRTは心筋梗塞リスクを下げると報告されました。しかし,その後実施されたWomen's Health Initiativeのような大規模RCTでは,逆にHRTは心筋梗塞リスクを増やすという結果が出されたのです(文献4)。この結果の違いの原因は何でしょうか? 次回,解説しますので,考えてみてください。

 

 今回は観察研究で生じる問題点について書いてきましたが,実際にはRCTと観察研究の間に優劣を付けるべきではありません。本連載では,問題のあるRCTの例もいくつか出す予定ですし,優れた観察研究も紹介したいと思います。この二つの異なったデザインの臨床研究は,つまるところ妥当な医療の提供という臨床研究の目的において役割が異なるのです。それを理解してそれぞれの論文を読む必要があります。次回はRCTの限界,そしてなぜ,どんな段階で観察研究が必要になるのかについて述べる予定です。

つづく

参考文献
1) Verdecchia P, et al. Adverse prognostic significance of new diabetes in treated hypertensive subjects. Hypertension 2004;43(5):963-9.
2)Dunder K, et al. Increase in blood glucose concentration during antihypertensive treatment as a predictor of myocardial infarction: population based cohort study. BMJ 2003; 326: 681-3.
3)Gress TW, et al. Hypertension and antihypertensive therapy as risk factors for type 2 diabetes mellitus. Atherosclerosis Risk in Communities Study. N Engl J Med 2000; 342: 905-12.
4)Writing Group for the Women's Health Initiative Investigators. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results from the Women's Health Initiative randomized controlled trial. JAMA 2002;288:321-33. 連載一覧