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第2831号 2009年5月25日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ティアニー先生の診断入門

ローレンス・ティアニー,松村 正巳 著

《評 者》堀 成美(聖路加看護大・看護教育学)

看護職がティアニー先生の診断アプローチから学べること

 ティアニー先生はよく「鑑別診断の神様」と評されるが,残念なことに世の中の人皆が神様に診断してもらえるわけではない。このため教えを理解して実践したり広めたりする人が必要である。しかし,症例検討会のヒントに「それはハリソン(註)に載っているかどうかだけ教えてくれ」という恐ろしいコメントをする神様の経験知は,ただ話を聞いただけでは共有が難しく,入門者に伝えるのはさらに大変なことである。初学者は何がわからないのか,何がつらいのか,何から学んだらいいのかをよく知り,「なんとかしてやろう」という愛なくしては立ち行かない作業である。これは医学・医療にかぎったことではない。

 長年地域でよい医師を育てようと心血を注いできた松村正巳先生ならではの愛情や熱意のおかげで,他の地域にいても本書を通じて神様の経験知を共有することが可能になった。予想に反し,ページの構成は実にシンプルで,選ばれたコメントには無駄がない。

 本書は研修医向けではあるが,患者からの聞き取りを重視するティアニー先生のアプローチは,実は医師よりも長い時間患者と接することのできる看護職にこそ有用であるとも思う。

 看護職は,経験的に感じ,得られる情報をたくさん持っているが,根拠に基づいた説明や,体系的に整理することに課題を抱えている。本書の1部には改善のヒントがたくさんある。

 また2部では,1症例1症例が与えてくれる学びの豊かさと,整理の仕方,フォーカスによってより早く適切な治療やケアに結びつくということを学べる。それは患者や家族の苦痛や心配を軽減することにもつながる。

 共に働く医師はどのように診断アプローチを学ぶのか。今何を考え実践しているのか。その理解と支援を通じ,よりよい看護の実践につなげていただければと思う。

編集室註:2754ページからなる世界で最も有名な内科学の教科書。

A5・頁152 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00698-9


成人看護学

黒田 裕子 編

《評 者》川嶋 みどり(日赤看護大教授/学部長)

膨大な成人看護学の要点を1冊に

 成人看護学の領域は極めて広範で,これまでの教科書のほとんどは分冊されているのが常であった。本書は,従来の教科書とは異なるコンセプトのもとに,膨大な成人看護学の要点を1冊にまとめて出版された点が評価される。そのためもあって,ユニークな工夫を随所に見ることができる。すなわち対象の健康問題を疾患ごとに分類せず,成人期にある人々の生活を大切にするという意味を込めて,何らかの機能障害を持つ人,生活変容を余儀なくされている人と捉え,それぞれどのような看護援助が必要かを理解するとともに,健康のレベルアップへのまなざしも忘れない。

 総論では,8章に分けて成人期にある人の心身面,社会生活面の特徴と健康問題の概要,ならびに健康の維持・増進への看護援助などを総合的な視点から概説されている。患者を疾病別に捉えないとはいえ,総論に「がん」を独立して取り上げているように,従来の体系にあまりこだわらずに,必要な知識を展開している点も本書の特徴である。すなわち,「ヘルスプロモーション,急性(手術を含む)・慢性・回復の視点,そして,がん,感染の視点を土台として」組み立てられている。成人看護実践に役立つテキスト編集に対して最も苦労されたのが,この構成であったと思われる。

 各論では,成人期の健康問題を“栄養”“排泄”“酸素化”“活動/休息”“知覚/認知”“安全/防御”“セクシュアリティ”の7つの柱により展開している。「機能障害を細分化せず,成人看護学領域で押さえておかなければならない主要な解剖学的,病理学的内容はすべて網羅した」とあり,各章ごとにその基礎知識が,続いて観察とアセスメントと主な看護が述べられている。本文を補強する表が随時挿入されるほか,ビジュアルな工夫もされていて,学生が知識を整理する上では役立つと思う。

 ただ,臨床実習では,医学的診断による病名や,その疑いのある患者を受け持つことになる。その際,人間の生命維持の要件とも言える基本的ニーズを柱にした「~に健康問題を持つ人のアセスメントと看護」として展開される各論内容を,具体的な個別の患者の看護場面にどのように活かすのか,また,ある疾患を持った患者それぞれに,この健康問題のなかの幾つかの組み合わせが存在することも予測される。看護学の視点から構築されている健康問題と,医学領域における個々の疾患とをどのように統合して理解を深めるかは,看護学教育全体の課題でもある。

 成人看護学の授業は実習における指導者の力量がいっそう問われることは申すまでもないだろう。具体的な看護に関する部分の記述が,基礎的な知識に対してやや弱い感もあるが,学生自身に考えさせて発展させる方法もあるかもしれない。ともあれ,基礎教育の場でぜひ活用していただきたい。

B5・頁512 定価6,090円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00759-7


アセスメントからはじまる高齢者ケア
生活支援のための6領域ガイド

六角 僚子 著

《評 者》唐澤 千登勢(日看協看護研修学校専任教員・認知症高齢者看護学)

高齢者へのケアを変える,アセスメントの6領域を説く

 「高齢者に対するケアをどのようにして合理的に実施するか?」という課題は,看護にかかわるすべてのスタッフにとって基本的かつ重要な課題である。特に教育に携わり,これから実社会での看護スキルを学ぼうとしている学生たちに対し,より少ない困難で方法論を教える立場の教育者にとって,臨床実践の視点に立ったガイド教育の類は非常に少ないのが現状である。

 本書の著者はまず,極めて重要な問題提起を行っている。それは,「学生たちは,高齢者に対する温かいまなざしを向ける一方で,“高齢者特有の穏やかでゆったりと時間が流れる空間”に巻き込まれてしまい,高齢者ケアをしていくための視点が定まらないようだ」との指摘である。そして「高齢者への視点を明確に示すことでケアが変わっていく」「その視点を明確に設定し,その人に適したケアを実践するスタートとして,まずアセスメントが必要である」との結論を明示している。その結論の明示が,その後に展開される「アセスメント各論」の内容を,読者により理解しやすいものにしている。

 アセスメント各論において,著者はアセスメントの6領域(健康領域,安全領域,自立支援領域,安心領域,個別性領域,支援体制領域)のおのおのについて,アセスメントシートを活用しつつ実践的な視点を解説している。アセスメントの上記6領域は,高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護」で掲げられた5つの考え方に準拠したものである。著者はその豊富な看護実践および教育・研究に基づき,6領域のより有効な活用方法を提言している。すなわち,各領域のアセスメント結果を統合することにより,より全人的な課題抽出とケア実践が可能となる。“各領域のアセスメントシートから統合シートの作成”のプロセスを通じて,ケアプラン作成・実践の具体的な重要ポイントを深く認識し,習得することができるであろう。

 実際のケア場面で,収集した情報をどのように整理・統合して適切に解釈し,高齢者に対する効果的なケアプランが作成・実践されていくべきなのか? そのプロセスを本書に示されたガイドラインに従い,生き生きとした形で身につけていくことができるであろう。

 さらに高齢者の“ターミナルケア”という,これからの社会が抱える重要かつ結論が困難な問題についても果敢に言及している。「高齢者が自己決定に基づいて人生最期の舞台をどのように演じるのか」についての解釈は,人生経験に乏しい学生たちにとって困難であろうことは容易に推測できる。しかしながら,医療看護に携わる職業人にとって避けられない問題であることも真実である。学生たちが本書での学習・研鑽を通じて,ターミナルケアについての自分なりの考え方をつかんでくれることを望みたい。

B5・頁248 定価2,730円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00699-6


医療者のための結核の知識 第3版

四元 秀毅,山岸 文雄 著

《評 者》石川 信克(結核予防会結核研究所所長)

身近に迫る結核に備える第一線の医療者のために

 本書は,医師,看護師・保健師等の医療者に必要な結核の知識を網羅した読みやすい解説書である。感染症法統合後の初の改版で,思わぬときに結核患者に遭遇する可能性のある現在の状況で,いかに早く診断し,適切に治療し,周囲へのまん延を防ぐか,まさに第一線の医療者のための簡易手引き書といえる。

 著者のお二人は共に,東京病院,千葉東病院という代表的な国立病院機構の院長で,豊富な結核診療の経験に基づいて日常診療に必要な知識や手順の内容が整理されている。

 最初の2章は基礎編で,結核の疫学や歴史,細菌学や病理学の最新の知識をわかりやすくまとめてある。第3章は検査の進め方で,日常診療でいかなるときに結核を疑い,どのように検査を進めるべきか,具体的な説明がある。胸部X線検査による画像診断,菌検査の古典的な塗抹・培養法,核酸増幅法や同定法,薬剤感受性検査の諸法が詳細に述べられている。感染の検査では,QFT-2Gを中心に,インターフェロンγ産生量の測定の意義がわかりやすい。

 治療に関する第4章では,発生届や入院届,医療費公費負担申請等を含む診断後の感染症法に基づく対応の手順が模式的に示されている。結核の診療は法律によっているところが大きく,感染症法で示された内容は一般医家や診療関係者は理解や実行がやや難しいが,ここの説明は現場で大いに役立つと思われる。化学療法の項では,薬剤に関する基礎的説明や実際の処方,治療の進め方が最新の情報に基づいている。さらに治療を成功させるための支援法DOTS,入退院基準,クリティカルパス等,治癒をもたらすための総合的なシステムの記述もある。

 感染拡大防止に関する第5章では,特に院内感染防止の諸策が詳しく,本書の圧巻ともいえる。さらに発病予防としての接触者健診,潜在性結核感染症の治療等も具体的である。

 第6章は症例検討で,10の症例が呈示されている。そのほか,エイズと結核,非結核性抗酸菌症に関する項もある。巻末資料には感染症法の結核に関連する条文も付けられ,便利である。

 本書は結核診療に関係する方々にとって大いに助けになると確信する。

B5・頁212 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00660-6


診断力強化トレーニング
What's your diagnosis?

松村 理司,酒見 英太 編
京都GIMカンファレンス 執筆

《評 者》大滝 純司(東京医大教授・医学教育学)

黒い馬も白い馬もシマウマも

 これは医学書院の月刊誌『JIM』の連載企画である「What's your diagnosis?」が再編集されて単行本になったものです。優れた研修医教育で全国的に知られる京都の洛和会音羽病院で毎月行われている,京都GIMカンファレンスで検討された症例が,その連載の基になっています。総合診療の業界では,既に伝説になっている有名な症例検討会です。連載には,重症例や複雑な症例,そして珍しい症例や診断に苦慮した症例が,特にその診断の過程がリアルに紹介されていて人気があります。

 『JIM』には,基本を重視し,頻度の高い症候や健康問題に対する標準的な診療をわかりやすく学ぶのに適した,初心者向けの内容が多いと思いますが,本連載の症例検討は違います。症例の臨床的な情報がひと通り提示されたのちに,「What's your diagnosis?」と考えされられるのですが,いつもかなり難しくて,なかなか診断が当たりません。

 頻度の低い,珍しい診断を真っ先に考えてしまう様子を揶揄して「蹄の音を聞いてシマウマを思い浮かべる」という意味を込めて「シマウマ探し」と言うそうです。本書に載っているのがそのようなシマウマ的な症例ばかりということではありませんが,普通の茶色い馬のような症例はほとんどありません。珍しい疾患だけでなく,頻度の高い疾患の珍しい経過も含まれています。何が「手がかり」「めくらまし」「決め手」になったのか,それも明示されていて教訓的です。黒い馬も白い馬も,そして時々はシマウマもいるということが実感できます。ありふれた症例を診ることが多い日常の診療では,頻度の高い普通の馬のような疾患を学ぶことは容易ですが,それらの中に潜んでいる珍しい馬を見落とさないためにも,これは貴重な症例集です。

 この連載の特徴の一つが,毎回のユニークな題名です。例えば「ベリーベリー・ショート」「Mはどこ?」「目覚めはブラックコーヒーで?」といった具合に,謎かけになっていて,診断を考える際のヒントになっています。単行本でもこれが踏襲されていて楽しめます。

 何はともあれ,診断のついていない患者さんを診ることが多い医師にはお勧めだと思います。

B5・頁228 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00647-7

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