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第2828号 2009年4月27日


人類の叡智を幸せにつなぐ内科学

第106回日本内科学会開催


 第106回日本内科学会が4月10-12日,岡芳知会頭(東北大)のもと,東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催された。「人類の叡智を幸せにつなぐ内科学」をテーマとした今学会では,急速に研究が進む分子生物学を人類に還元していくことを目的に掲げ,本学会テーマを冠した特別企画や,内科学全般にわたり最新の知見を紹介した18題の教育講演,近年問題となっている異状死と医師法21条をめぐる最新の話題など,充実した演題が並んだ。本紙では,その一部を紹介する。


糖尿病の治癒に向けて

岡芳知会頭
 会頭講演「人類の叡智を幸せにつなぐ内科学――糖尿病の現在と未来」で,岡氏は糖尿病の多数を占め,境界型を含めると国内の患者数が2000万人に上るとも言われる2型糖尿病に対しての,氏のこれまでの研究成果を報告した。

 2型糖尿病は進行性疾患であるが,その病因と考えられている「インスリン抵抗性」と「インスリン分泌障害」のうち,肥満や運動不足などに由来するインスリン抵抗性は,経口糖負荷試験の結果,正常,境界型,糖尿病型の三者に差はなく,インスリン分泌障害が進行の本態であることがわかってきた。岡氏は,インスリン分泌障害を来す遺伝子異常に着目し,ミトコンドリア糖尿病やWolfram症候群の発症機序を解明。特にWolfram症候群では,その原因遺伝子WFS1を発見し,この知見を基に小胞体ストレスが膵β細胞のアポトーシスを導くというインスリン分泌障害の機序を明らかにした。ここから2型糖尿病の原因が,それまで言われてきた膵β細胞の機能低下だけではなく,膵β細胞数の減少にも関係すると提唱。膵β細胞にストレスのかかる状態が糖尿病の進行を招くと報告した。

 一方で,氏はインスリン抵抗性の研究も行い,脂肪組織の代謝情報や肥満時に肝臓から出されるシグナルが,自律神経系を介した情報伝達により膵β細胞を増殖させていることから,液性因子による血液循環ではない神経系を介した代謝機構の可能性を見いだした。脳は代謝の管制塔であり,協調的な代謝制御を行っていることから神経系にも注目していくことが重要と言及し,これが糖尿病の有力な治療法となる可能性を示唆した。

 最後に氏は,故冲中重雄氏の東大最終講義での言葉「書かれた医学は過去の医学であり,眼前に悩む患者の中に明日の医学の教科書の中身がある」を引用し,「これまでの医学は細分化で進化してきたが,これからはヒトを対象として臓器ごとではなく全体を統合する視点を持っていくことが重要」と強調し,講演を終えた。

発癌メカニズムの最新知見

 近年,炎症と発癌の関係にかかわる研究は急速に進歩してきている。シンポジウム「炎症と発癌」(司会=北大・浅香正博氏,鳥取大・清水英治氏)では,消化器・呼吸器領域を中心に炎症の制御による発癌抑制の可能性について,5人の演者が報告した。

 まず,胃発癌機構について千葉勉氏(京大)から,胃炎・胃癌に強く発現する突然変異誘導酵素AIDが主要因であり,ヘリコバクター・ピロリを除去することでAIDが著明に減少することが報告された。この機序として,ヘリコバクター・ピロリがNF‐κBを刺激することでAIDが活性化されると発言。遺伝子解析の結果からも,この発癌機構を裏付けた。

 渡辺守氏(東医歯大)は,腸上皮の粘膜免疫の異常から癌が発生すると考えられる潰瘍性大腸炎について紹介した。上皮幹細胞の分化と遺伝子解析の結果から腸管免疫の中心を占める杯細胞が,炎症部分では著減していることを明らかにし,炎症,潰瘍,癌の各病態に関与していると報告。また,近年増加している潰瘍性大腸炎とクローン病について現在調査を進めているとした。

 金子周一氏(金沢大)は,肝癌のほとんどが慢性肝炎,肝硬変を経て発生するとした上で,ウイルス性肝硬変の発癌率が高い点に着目,HBV,HCVが引き起こす炎症について報告した。肝癌では,ALTの上昇とともに癌が発生するが,HBVとHCVとでは発現遺伝子の違いから炎症の機序も異なることを解明。HCVでは感染があっても炎症と線維化の治療により発癌を抑制できるとした。

 河野修興氏(広島大)は間質性肺炎合併肺癌について,特発性肺線維症(IPF)を中心に解説した。IPFは高頻度で癌を引き起こすが,間質性肺炎の診断マーカーであるKL‐6が肺癌症例でも高値を示すことを紹介。さらに,抗KL‐6自己抗体が肺癌の重要な予後因子になることからKL‐6の発癌との関係を示唆した。また,分子異常の蓄積と免疫学的寛容には明らかに相関があると結論付けた。

 西本憲弘氏(和歌山医大)は,自己免疫疾患と悪性リンパ腫の関係について口演。自己免疫疾患と癌の類似性を挙げた上で,自己免疫疾患による慢性炎症が炎症性メディエーターの持続産生を引き起こし,発癌,アポトーシスの抑制が生じるとした。また,関節リウマチを例に挙げ,メトトレキサートは発癌リスクを上げないこと,TNF阻害治療薬はリスクを上げるとの報告があるが引き続き検討する必要がある,といった最新の研究知見を報告した。