医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第2827号 2009年04月20日

第2827号 2009年4月20日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第52回〉
骨太の指摘

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 本学の4年生に課した「看護政策論」のレポートを,学士編入生Tは「外からみた看護界」と題した。「最後のレポートなので,常にまっすぐな言葉を届けてくださった井部先生に倣って正直にしたため」たという。今回は,内容について目的外使用ということの本人の承諾を得て,彼女の骨太の指摘を伝えたい。

学生がみた「看護界の閉塞感」

 「授業で投げかけられた看護職としての自立心,柔軟な発想,己を高めていくというようなことについて思いを馳せれば馳せるほど,しかしながら,いかに看護の世界が閉塞しているか,その虚しさが目立つばかりである」とし,「看護界がいかに特殊な団体となっているかということ,それを問題とし,それを打開する手立について」述べることが「このレポートのテーマ」だという。

 Tはまず看護大学での教育を次のように記している。

 「看護大学での教育は,看護師を育成するという大前提の下になされるものである。一般の大学は,卒業後にどんな職に就こうと自由であり,一切の前提はなく,そこが決定的に異なる。あらゆる授業において,またあらゆる話において,本大学の教育は看護職として自覚を持って躍進してもらいたいという意図で満ち溢れている」のであり,「明確な将来像を描いた無垢な学生が選択するのは,どこかしら看護に役立つ分野の学習」であり,「看護という枠に拘束され」ているという。「それでは,どこまでも自由闊達な学問精神と知的好奇心,冒険心は育たないのではないかというのが,3年間看護大学に在籍した私の率直な感想である」。「教養とは役に立たないもの」であり,「看護では役に立つことを重んじる」ので,「両者の共存を不自然にしている」と断じている(この点については私は異論がある)。

 「看護師の教育は学問分野というより,医療にまつわる業界のひとつという意味合いが強いことは否定できず,執拗なまでに伝統に固執する芳しくない傾向がある」とした上で,われわれがよく使用する「頻回」という言葉は広辞苑にも載っていない日本語であり,その乱用は「品格のある語学」ではないと指摘している。(確かに,広辞苑には「頻回」は収載されていない。)

 「授業でも保助看法改正にいかに額に汗したかという話をうかがったが,世間の看護界に対する関心なんてそのようにささやかなものである」のであり,「長年,天使という,偶像でしかないイメージを喜んで享受してきたとしたら,そのこと自体が問題である」と冷ややかである。「その裏には,世間のほとんどが看護師の業務内容,看護師育成のための教育など看護の実態について理解していないという紛れもない事実,また知っていたとして,その激務を引き受けさせる貴重な社会的な役割を確保するためにそう呼び続けたかもしれない社会のずる賢い視線が輪郭を帯びてくる」という。こうした中で仕事を続けるには,「あらゆることに妥協し,沈黙し,看護師という着ぐるみを被った無関心の塊と化すこと」であり,「次第に脱ぎたくて仕方のなくなるその着ぐるみを脱いだところで,他の何にも成り代わる術がない」,しかも「道なき道を分け入って開拓し,社会に新たな居場所を見出すまでに努力を続けることができる気力が,そのときどのくらい残っているのだろう」と悲観的であり古典的である。

 そして,看護師の将来を照らすためには,「社会への呼びかけが必須」であり,「看護師という職種が実際にどんなことをしているのか」を詳細に伝える必要があるとし,「看護師なんて医者の手先くらいにしか思っていない人は大勢いるし,周知のことであるとするのは大きな怠慢である」という。「専門職という意識は看護師こそ持っているが,社会の多くの人はその専門性のレベルを軽んじている」とした上で,「私もそうであった」と告白している。

 「看護界がエネルギーに満ちたものであり続け」るためには,「現役の看護師自身が変わらなければいけない」として,「看護界の底上げのためには,高学歴な者を参加させるのは有効な手段であり,世間に対するメッセージとしてもわかりやすい」のであるが一方で,それらの受け入れを拒む看護界の「古い体質」を批判する。

 最後に,Tは「看護師として未経験,人間としても未熟な一学生」であると認めた上で,「これから看護師として,一人の人間として,看護という仕事を好きになれるように,考えることを怠らずに行動していきたい」と結ぶ。

「骨太の仲間」に贈る言葉

 私は学長としてTに応えるつもりで,卒業式の式辞の中に次のようなメッセージを入れた。「看護界は,いまだいびつなところもありますが,若い皆さんが生涯をかけて挑戦していくには十分な相手でしょう」と。

 Tは都内の病院で臨床ナースとして仕事をすることを選んだ。作家になりたいのだと,謝恩会で少しぶっきらぼうに,私に教えてくれた。今年もまた優秀で骨太の仲間が増えることを歓迎したい。

つづく

連載一覧