医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第2824号 2009年03月30日

第2824号 2009年3月30日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医療福祉士への道
日本ソーシャルワーカーの歴史的考察

京極 高宣 著

《評 者》村上須賀子(県立広島大教授・人間福祉学/MSW)

鋭い時代認識に基づく“覚悟の書”

 本書の発行を知らされたとき,耳を疑った。「国家資格の『医療福祉士』への道だって?」 20年前に旧厚生省から提示されながら,日の目を見ずにお蔵入りし,以後,死語ともなった「医療福祉士」を真正面に据えた書籍が出版されるとは! 大いなる驚きとともに,なにやら歴史的な地殻変動を感じた。

 本書は数々の謎解きの書である。「医療ソーシャルワーカー(以下MSW)として社会福祉士を雇用しても資質のバラツキが大きいのはなぜか」「MSWは必要なのに,なぜ人件費確保分の診療報酬上の補填が得られないのか」「そもそも,MSWにはなぜ国家資格がないのか?」

 20年前,「社会福祉士及び介護福祉士法」制定に旧厚生省社会局社会福祉専門官として直接かかわった著者が“今だから語れる”行政の現実推移を押さえつつ,以下のように述べている。

 当時,(1)厚生省は縦割り行政で,社会局で医療分野を除いた資格として社会福祉士法を,他方,医政局で医療福祉士法を準備していた。(2)日本医療社会事業協会(MSW協会)は,学問的基盤は社会福祉だと,福祉の世界にこだわった。(3)当初医療福祉士法案はコメディカルスタッフと同様高卒3年の学歴で資格化されようとしていた。社会福祉士案も最初は高卒2年案からのスタートで,結果的に4年制大学卒となったが,MSW協会の執行部はいち早く現行の社会福祉士だけでよい,新しい資格(医療福祉士)は求めないと決議し,いまだにこの路線を固持している。(4)社会福祉士法制定から瞬時の遅れはあるものの,旧厚生省は1989年2月,「医療ソーシャルワーカー業務指針」をまとめ,大学4年制の資格化に向けた地固めをしていたが,当事者団体の反対で国会に提出できなくなった,などなど。

 行政側の瞬時の遅れがボタンの掛け違いを起こし,今に続く問題を残すことになった経過が豊富な注で肉付けされ,わかりやすい。

 今の40歳代未満のMSWたちはかつて資格制度成立寸前までに至った事実を知らない。ましてや国家資格者集団の医療関係者にとっては国家資格を拒否した歴史は不可解の一語であろう。謎解きは興味深い。事実MSWの間では勢いよく読まれ始めている。

 しかし,本書の意図は死んだ子の歳を数えるような回顧の趣ではない。本来医療と福祉は表裏の関係にある。生活習慣病,難病,ターミナルケア,しかりである。ことに在宅医療は医療(いのち)と福祉(生活)の保障なしでは成立しない。医療と福祉のサービスを統合してつなぐ専門職としてのMSWは必要不可欠である。その資質を国民に担保するのが国家資格であると,MSWの“天の時”来(きた)るとの主張である。日本社会事業大学学長の職を終え,現職にあるは“地の利”であると明言し,国家資格創りの熟達者はカリキュラム案まで提示し,説得力抜群である。介護保険の導入時にケアマネジャーの誕生をみたように,本書が在宅医療時代にMSWの国家資格が誕生する幕開けの役割を果たすことになるのであろう。

 5年前,京極先生にお会いしたときの第一声は「MSWの国家資格? 資格創りは命がけの仕事だ,(俺は)死んじゃうよ」だった。「残しておられる仕事があるでしょう」と私は迫った。本書の既出論文一覧で,MSWの資格化の旗を一貫して掲げておられたと改めて知ることができた。鋭い時代認識の上の覚悟の書と拝察する。私個人としては京極先生の身が案じられる本書の出版である。

A5・頁116 定価1,680円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00687-3


AO法骨折治療 Internal Fixators
LCPとLISSによる内固定
[英語版DVD-ROM付]

田中 正 監訳

《評 者》進藤 裕幸(長崎大大学院教授・整形外科学)

豊富なイラストで学ぶ骨折治療学のバイブル

 骨折治療学のバイブル的存在といえる『AO Manual of Fracture Management』シリーズの最新の出版書である“Internal Fixators(内固定器)”の日本語訳が上梓された。

 わが国においてAO(Arbeitsgemeinshaft fur Osteosynthesesfragen)の存在を知らない整形外科医は存在しないであろうが,AO Foundationは骨折治療学における基礎医学的研究や骨折治療用device研究開発のメッカとしてつとに有名である。この機関の重要な機能として,その出版部の業績は骨折治療学において幾多の成書を生み出しており,歴史的評価に値しよう。

 1958年にAOグループが発足し,AO Manualシリーズは1963年に出版された『Interfragmentaly Compression(骨片間圧迫)』として強固なORIF(観血的整復内固定術)法を世に知らしめた初版に始まる。1969年に出版された『AO Manual of Internal Fixation』は,生物学的骨折治癒機序の理論的解明と機械工学理論に基づいたAO法骨折治療の基本原理を明示し,かつ実践的な手術手技をわかりやすく解説したもので,まさに骨折治療学のバイブルとしての礎が築かれた。

 私がAOシリーズを直接手にしたのは,1977年に発行となった改訂版原書(ドイツ語版)が英訳改訂された『Manual of Internal Fixation』(1979年版)であった。いかにもゲルマン系民族らしい論理性を重視した内容でありながら,豊富なイラストが収載され,当時の教科書の類にはみられなかった斬新さに感嘆したことを思い出す。

 近年AO Foundation出版部門からは毎年3冊程度の本が出版されており,本原著は2006年5月に出版された,Locking Compression Plate(LCP)とLess Invasive Stabilization System(LISS)による“Internal Fixators”の基本理念と実践法を解説した最初の包括的教科書である。本書の構成は11章からなり,前半4章は歴史的背景に基づいて理論的に変遷する骨折治療学への基本理念が総論的に解説されている。後半の7章では,国際的レベルで活躍中の整形外科医による110を超える症例を基にLCP,LISSの適応となる全身の骨折を網羅。各症例ごとに明快なイラストによる図示とX線写真が必要十分に盛り込まれて,術前計画,進入法,整復と固定,リハビリテーションに至るまで丁重かつ簡潔に解説されている。さらに“手術のコツ(Pearls)と陥穽(Pitfalls)”まで網羅されている。骨折治療の初級者から上級者までの幅広い対象をめざしているAO Foundation出版部の良質なプロ意識がくみ取れる。

 いみじくも監訳者である田中正博士が序文で特筆しているように,本書は「単に教科書的記述ではなく,実践的で臨床応用力を効率的に滋養できる整形外科医の座右の書」とすべきものである。21世紀初頭における骨折治療学のバイブルとして本書を推薦する次第である。

A4・頁832 定価39,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00413-8


頭蓋顎顔面外科
術式選択とその実際

上石 弘 著

《評 者》川上 重彦(金沢医大教授・形成外科学)

頭蓋顎顔面外科を志す形成外科医に最適な書

 本書の著者である上石弘先生は長年近畿大学形成外科教授としてご活躍され,2006年にご退職された後はNPO法人クラニオフェイシャルセンターを立ち上げ,その理事長として頭蓋顎顔面外科を志す後進の指導に精力を傾けておられる。著者は日本における頭蓋顎顔面外科領域の草分け的存在であり,私も著者からご指導を受けた一人である。

 約20数年前,私は著者が北里大学におられたときに開催された上・下顎骨切り術のワークショップに参加し,その手術を見せていただいた。さらにその数年後,私は本学で行われた著者による斜頭症の手術の助手を務めさせていただき,その知識,技術を肌で感じさせていただいた。それ以降,私も頭蓋顎顔面外科への道を歩み始めたと言っても過言ではない。また,著者は医科と歯科のダブルライセンスをお持ちで,その修練をされているが,私はさまざまな機会において,頭蓋顎顔面外科における歯科的知識の重要性,さらにその技法を著者から教えられてきた。

 さて,本書は「総論」から始まり,「先天異常」「発育異常」「外傷」「腫瘍」「美容外科」の5章から構成されている。それぞれの項目は疾患別に記載され,一つ一つの疾患ごとにまずその病態と生理が解説され,次に症例を呈示して,その症例に対する術式の選択と予想される結果が述べられている。そして,実際に行った手術とその術後結果および評価が呈示され,その術式を選択するに至ったポイントが解説されている。また,術式選択や治療の際に求められる知識,留意点などが,最後に“解説”として記載されている。

 本書は要点が非常に簡潔に記載されているのが特徴であり,頭蓋顎顔面外科領域の疾患解説書として本書を読むと,逆に物足りなさを感じるかもしれない。しかし,本書は頭蓋顎顔面外科疾患を実際に治療するための実践書である。したがって対象となる読者は,頭蓋顎顔面外科領域の知識をまったく持ち合わせていない形成外科医ではなく,少なくとも専門医資格を取得し,本領域の疾患や手術法について一通りの知識を持ち合わせている医師となろう。さらに言えば,頭蓋顎顔面外科医を専門としてこれからこの道を進もうと考えている形成外科医にとって最適の書であろう。

 本書には,著者が30年以上の長きにわたって経験されてきた症例と,その結果の蓄積を基に導き出された診療・手術のポイント,さらには“コラム”としてまとめられた著者の格言のような「独り言」などが至る所に散りばめられている。経験のない医師にとっては,これらのフレーズが何を意味しているのかがすぐには理解し難いかもしれないが,経験を積めば積むほど思い当たるフレーズが多くなる書であろう。一読して終えるのではなく,何度も読み返してほしい。その都度,著者が伝えたい意味が新たに見えてくる。

A4・頁208 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00602-6


《標準作業療法学 専門分野》
精神機能作業療法学

矢谷 令子 シリーズ監修
小林 夏子 編

《評 者》大場 よし子(風心堂小原病院)

変動が多い精神医療を学ぶ学生を力強くリードする一冊

 標準作業療法学シリーズの1冊として『精神機能作業療法学』が群馬大学の小林夏子先生の編集により出版された。本書がこれから作業療法を学ぶ学生たちを念頭に執筆されたことは,シリーズ刊行の言葉からも明らかだが,その中で繰り返された「教育改革」という言葉が注目される。「“改革”を“学生主体の教育”としてとらえ,これを全巻に流れる基本姿勢とした」とあり,「学習のしかたに主体性を求める」と連なる。その言葉は,臨床において長い時間を過ごした者の胸に刺さる。果たして私たちは,どれほど主体的に自己研鑽を果たしているだろうか。

 精神機能(精神障害とも精神科とも表記しない編者の視点の鋭さは,臨床家にとって小気味良い。ぜひ序章を読まれたし)を対象とする作業療法の現場は,大きく三つの点において混乱しやすい。

 一つ目は,精神機能という茫漠とした目に見えないものを対象にしていることがある。そのため,ともすると経験の蓄積のみから臨床家それぞれが対処法を見いだそうとし,実践の客観的評価あるいは理論的背景があいまいなまま過ぎてしまいやすい。「精神科って病院によってずいぶん違うんですね」といまだに学生に言われてしまうのはなぜか。

 二つ目は,ほかの疾患に比べ厚生労働省を中心とした精神医療の施策に振り回されやすく,かつ精神医療そのものが社会的施策と切り離せない負の歴史を持つことである。かつて,精神病患者は地域社会から切り離され人権すら脅かされてきた歴史がある。本書に「精神機能作業療法は,昔も今も,人間の生活に欠かせない作業活動を利用して,対象者の人権と精神的な健康および生活の質の向上をめざす実践である」とあるのは,精神医療の歴史的な背景の上に作業療法をとらえているからだろう。若い作業療法士が「生活療法」を知らないとしても,彼や彼女が目の前にしている対象者の生の歴史に,「生活療法」や院内の「下請け内職作業」が刻まれているかもしれないのである。精神機能作業療法は,時代に翻弄されてきた側面を否定できない。

 三つ目は,精神疾患の枠組みともいえる診断基準が変化してきたということである。また,社会環境や価値観の変化に伴い,疾病の現れ方そのものが変化するという流動性をもつ。私が作業療法士となった20数年前は精神分裂病(現,統合失調症)の方が作業療法対象の大方を占めていた。いかにして安全で安心できる場を提供し,二者関係を結ぶかにきゅうきゅうとしていた。時が経ち,今目の前に来られる方は発達障害や気分障害など,純粋な統合失調症以外の方が多くなった。それにパーソナリティ障害が加わり,自傷や興奮などにぎやかな場面に対応せざるを得なくなっている。そして抱えている問題も発病直後の混乱から就労までとさまざまである。

 だからこそ全体を網羅する理論的な指標が待たれていた。この本を現場で悪戦苦闘している臨床家にこそ読んでほしいと切に願う。ただし本書に著されていることは研ぎ澄まされた結論としての文章が多い。行間にこぼれ落ちそうにあふれている各筆者の知見や経験,そのバリエーションをより深く理解するためには,各章末についている参考文献や引用文献の一読もお薦めしたい。

B5・頁276 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00328-5


10分間診断マニュアル
-症状と徴候一時間に追われる日々の診療のために- 第2版

小泉 俊三 監訳

《評 者》山田 隆司(日本家庭医療学会代表理事)

家庭医による,家庭医のための実用マニュアル

 本書の初版は,アメリカの家庭医療の重鎮であるRobert Taylor氏によって編集されたものである。初版の原著が出来上がった際に,筆者はTaylor教授から直接初版本をいただき,彼がとても誇らしげに「これは,家庭医が自ら書いた,家庭医にとっての有益なマニュアルだ」と言っていたのを思い出す。

 本書は,第一線の医療機関に従事する医師が,日常よく遭遇する愁訴や症状,徴候に焦点を当てて,短時間で適切に臨床推論を導くように構成されている。初診で診る医師はいつも,不明確な愁訴や症状を目の当たりにしながら,限られた状況の中で診断やその後の対処を進めていかなければならない。また,地域医療の現場では医療機器や設備にも限りがあり,すぐに専門的な画像検査ができないこともしばしばで,おのずと基本的な身体診察や検査技術に頼らざるを得ない。

 とかくこういった類の診断マニュアルは,正確な診断により速くたどり着くことが重要視され,専門分野の医師が見落としのない網羅的な検査を勧める,あるいは専門医への早めの紹介を勧める,といった記述になりがちである。しかし,本書は実際に一次医療に携わっている家庭医が中心に執筆に携わっており,地域の医療機関に従事する医師の立場からみたマニュアルとなっている。地域医療の限られた現状を踏まえ,あくまでもそういった環境で働く医師にとって,実際に役立つように編集されているのが他のマニュアルと違うところである。

 第一線の地域医療の現場では,初診の段階では特に臓器を特定できないような愁訴や,幅広い臓器に関係するような症状に,限られた時間で的確に対応することが常に求められている。さまざまな困難や不利益を背負う病初期の診療に携わるプライマリ・ケア医,総合医にとって本書は格好の手引書と言える。

A5変型・頁506 定価5,880円(税5%込)MEDSI
http://www.medsi.co.jp/

関連書
    関連書はありません