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第2818号 2009年2月16日


医長のためのビジネス塾

〔第1回〕「気がつくと中間管理職」でいいのか

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


 「経営などには全く無縁で臨床医をやってきた。気がつくと中間管理職。このままでいいのだろうか?」そんな違和感を持ちながらも管理職を続けてきた私は,昨年“経営者塾”という名称の社内研修を経験しました。

 社内研修とは,その名のとおり会社や組織のメンバーが,その会社内で受ける研修のことです。そういう意味では,研修医教育は一種の社内研修と言えます。また,各病院内で中堅医師を対象に行われている指導医講習会も,社内研修のひとつです。ただし,今回私が受講したものは,そのような医療関係の知識・技能についての研修とは異なるものでした。経営者塾と名付けられているように,研修の習得内容は次世代の経営リーダー候補者,つまり現在の管理職にとって不可欠な経営基礎科目でした。

 今回の科目は,マーケティング,企業戦略,財務分析,ファイナンス,プロジェクト・マネジメント,論理的思考の6教科でした(表)。各教科を履修した後に,与えられた経営課題に対して学習成果を活用した提案を発表するまでのグループ・プロジェクトを実施して修了に至りました。

 “経営者塾”シラバス
第1回 オリエンテーションと事前の知識テスト
第2回 マーケティング……マーケティングプロセス,マーケティング戦略の策定など
第3回 企業戦略……戦略策定のプロセス,戦略オプションの立案など)
第4回 財務分析……財務諸表の読み方,経営指標の読み方など
第5回 ファイナンス……投資予算,キャッシュフロー予測など
第6回 プロジェクト・マネジメント……プロジェクト・マネジメントとは,リーダーシップとチームビルディングなど
第7回 論理的思考……論理的思考の技術の基礎,構造的に考えるなど
第8-10回 グループ・プロジェクト
第11回 グループ経営課題プロジェクト発表会

 受講者は総勢30名。当院からは,私と看護師長,経理課長,資材課長の4名。他の参加メンバーの所属は,医療コンサルタント,教育,福祉,人材サービス,IT技術,建設,製造,環境,セメント業と,多彩な職種を抱えている当グループ企業の特色を示していました。

“経営者塾”の研修プログラム

 研修は,毎月2日間(9:00-18:00)を9か月繰り返すスケジュールです。研修方法は,双方向性のレクチャー,ケース・スタディ,グループ・ワークなど,能動的な学習を意図して設計されていました。このあたりは,昨今の医学教育と同様で,成人学習の理論が導入されています。この研修プログラムと講師陣は,C社から提供されていました。同社は,企業研修のさまざまなプログラムを開発・設計して,多くの大手企業に研修を提供しています。

 私自身はこの研修を受講するまで,管理職を対象とした社内研修プログラムの存在を知りませんでした。が,調べてみると,たくさんの研修提供会社を確認できるほど,ビジネス業界では一般的なもののようです。企業における次世代のリーダー育成教育は,投資をするだけの価値があることの裏付けだろうと思います。医療界においても,中堅の病院勤務医に対して,次世代のリーダー教育が必要な時代になっているのではないでしょうか。

指示伝達型から課題創出型へ

 私がこの研修を受けることになった経緯はさておき,受講できたことは幸運でした。その理由は,次のとおりです。

 管理職として,何らかのアクションプランを病院幹部に示したり,当科医師のマンパワー増加を人事部門に要望したりする際に,経営的視点を欠いているため,その方面に向けて説得力のあるプレゼンテーションができないもどかしさを痛感していました。また,年長者というだけの理由で,前任者の離職後に部長に昇進したことのおさまりの悪さも伴い,以前から管理職にとって必須の教養を何らかの形で学習する必要性を感じていました。さらに,管理職になると想像以上に臨床以外の仕事が倍増するにもかかわらず,参考になる情報は医学論文,教科書,医学雑誌を探しても見当たらず,組織内を見渡しても良いロールモデルの見当がつけにくい状況でした。そんななかで,書店で平積みにされたビジネス書の中に,職種は異なれども中間管理職に共通した問題を解決するための技法が紹介されていることを発見し,ありがたく活用させてもらっていました。

 このような経験から,ビジネス界で培われた組織運営・経営のために必要な知識・知恵を学ぶ機会を願っていたわけです。病院上層部から伝達された内容を,そのまま医員に伝達するだけの役割から,課題そのものを創出して問題解決を進めていくスタイルに,管理職の仕事が変質しつつあると気づいている中堅医師の中にも,同様のニーズを感じている方がいらっしゃると思っています。

悩める中間管理職のために

 本連載を引き受けた動機は,そのような方に向けて私のつたない経験でも伝える意義はあるかもしれない,と思ったからです。勘違いされるといけませんので,あらかじめ伝えておきます。社内研修を終えた今も,私は決して経営通にはなっていません。それどころか,新聞の経済欄をみてもいまだにわからない用語や内容だらけ,病院経営担当者と話していても自分がいかに経営のことを理解していないかに気づく日々です。ただ,基礎的経営理論や用語が,どのように病院経営に利用されているかについては,感じ取れることが増えたように思います。

 その程度の理解にもかかわらず,医師である私の主観的(独断と偏見)な解釈を通して基礎的経営教科のいくつかを紹介することを無謀にも思い立ったのには理由があります。以前の自分と同様に,「これまで経営などには全く無縁で,臨床医として精進してきて生涯一医師を貫くつもりだった。しかし,年齢を重ね気がつくと中間管理職の一歩手前になっている。このままでいいのだろうか?」という疑問や不安を感じている方のお役に立つならば,と思うからです。

 このようにして,読者のターゲットを具体的に絞るという技法も,学習したマーケティングの応用であることに,この文章を書きながら気づきました。こんなふうに,経営基礎科目は,医療界においても応用できることが多々あり,できる限りそのような視点から紹介する予定です。

 最後に,この連載は経営素人である私が,同様に素人である医長候補の方に向けて経営基礎知識を伝播することが目的です。いわば,素人が素人に送るエールのような内容になりますので,そこのところを理解しておつきあいください。また,院長・副院長クラスの経営のプロからみれば,目も当てられないほど勘違いした内容があるかもしれません。その場合には,遠慮なく指摘していただけると助かります。

つづく

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