ERでの内服抗菌薬の“うまい!”使いかた
連載
2008.09.08
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー
〔 第6回 〕
ERでの内服抗菌薬の“うまい!”使いかた
大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)
(前回よりつづく)
今回は救急外来患者への内服抗菌薬の使いかたについて勉強します。外来患者の発熱・感染臓器の決定については第1回を参照。
■CASEケース(1)発熱,咽頭痛でER受診した25歳男性現病歴 とくに既往のない25歳の男性。1日前から発熱,咽頭痛の訴えあり,改善ないためER受診。鼻水なし,頭痛なし,咳・痰なし。/身体所見 体温39℃,心拍数100,呼吸数12,血圧110/50。全身状態:落ち着いている,頭頚部:咽頭・右扁桃の腫脹,右頸部のリンパ節腫脹,心臓:正常,胸部:呼吸音清,ラ音なし,腹部:平坦・軟,肝脾腫なし,四肢:冷汗なし,皮疹なし。/検査データ 咽頭迅速溶連キット陽性 ケース(2)下腹部不快感,排尿時痛でER受診した45歳女性現病歴 膀胱炎を2度繰り返している45歳女性。2日前から排尿時痛,下腹部不快感が徐々に悪化してきたためER受診。頭痛・咳・腹痛・下痢・陰部痛なし。尿意切迫感あり,発熱なし。最近の性交渉なし。/身体所見 体温36.5℃,心拍数65,呼吸数12,血圧130/50。全身状態:落ち着いている,頭頚部:正常,心臓:正常,胸部:呼吸音清,ラ音なし,腹部:平坦・軟,肝脾腫・CVA叩打痛なし。恥骨上部に圧痛軽度,四肢:冷汗・皮疹なし。/検査データ 尿一般:タンパク+,潜血-,糖-,白血球>100,細菌陽性,尿グラム染色でグラム陰性桿菌 ケース(3)イヌ咬傷でER受診した15歳男性現病歴 特に既往のない15歳男性。半日前イヌと遊んでいて右前腕を咬まれた。消毒して様子をみたが,徐々に腫脹・疼痛強くなったためER受診。右腕の知覚低下なし,運動低下なし。
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■抗菌薬の種類のおさらい
たくさんある内服抗菌薬の中で,ERや一般外来では,レジデントは何種類を使いこなすべきでしょう? 「すべて」が理想かもしれませんが,感染症を専門としない限りそこまでは必要ないでしょう。実際は4-6種類で,“最低限”に限れば4種類です。
■内服抗菌薬を有効に使うためのヒント
抗菌薬選択では,(1)量より質(必要最小限の抗菌薬を,十分な理解と自信を持って処方!),(2)新しさより実績(十分な使用経験に耐えてきた抗菌薬をまず選ぶ),(3)想定する感染臓器に届くか(特に中枢神経系や前立腺,眼球に注意。また何よりもスペクトラムを十分に熟知して使用!),(4)効果に差がなければ可能な限り安く,(5)患者,医師・ナースに優しい(副作用・薬物相互作用・投与回数が少ない)抗菌薬を選ぶことがポイントとなります。
内服抗菌薬ならではの重要な点は,(1)投与回数の少ないもの,(2)Bioavailability(静注抗菌活性と比較してどの程度効果があるか),(3)他の内服薬との相互作用,(4)食事の影響(腸管からの吸収),(5)患者への優しさ(外来フォローのため副作用が予測可能でかつ限りなく少ない)の5点です。Bioavailabilityが良好な経口抗菌薬(表1)および注意すべき薬物作用がある経口抗菌薬(表2)を示します。また,空腹時に吸収良好な抗菌薬として,(1)ニューキノロン系(レボフロキサシン,シプロフロキサシン,モキシフロキサシン),(2)テトラサイクリン系(ドキシサイクリン,ミノサイクリン),(3)リファンピシンがあります。
表1 Bioavailabilityが良好な経口抗菌薬 | ||||||||||||||||||
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表2 注意すべき薬物作用がある経口抗菌薬 | ||||||||||||
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■ER外来感染症の考えかた
外来感染症の診断がついたら最も多い起因微生物を列挙します(表3)。
表3 ER外来感染症で最も多い起因微生物 | ||||||||||||||||||
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外来での治療の多くは,感染臓器で想定されるすべての微生物ではなく,“最も多い微生物”を絶対に外さない抗菌薬選択が重要です。その一方,入院加療と異なり常時観察できず,短時間での重症度判断が不確実であることが多いため,必ず日中の外来フォローアップが必要です。
■最低限使いこなすべき内服抗菌薬
レジデントに最低限使いこなしてほしい内服抗菌薬は以下の4つです(表4)。
表4 レジデントが最低限使いこなすべき内服抗菌薬4種類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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◎:第一選択,○:選択可能,△:選択すべきではない |
■ケースをふりかえって
ケース(1):急性咽頭炎の診断で,起因微生物はA群連鎖球菌。ペニシリンアレルギーないことを確認し,アモキシシリン500mg×3を10日間処方し,内科外来フォロー。
ケース(2):急性膀胱炎の診断で,起因微生物は大腸菌。妊娠していないことを確認し,シプロフロキサシン400mg×2を3日間処方,内科外来フォロー。
ケース(3):イヌ咬傷による皮膚軟部組織感染の診断で,起因微生物はイヌ口腔内常在菌(連鎖球菌,インフルエンザ桿菌,嫌気性菌,パスツレラなど多菌種)。洗浄・壊死組織切除を行い,〔アモキシシリン・クラブラン酸250mg/125mg+サワシリン250mg〕×3を7日間処方し,形成外科外来フォロー。
Take Home Message
●スペクトラムの十分な理解とともに内服抗菌薬ならではのポイントに注意(投与回数,Bioavailability,薬物相互作用,食事の影響,副作用)
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(つづく)
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