医学界新聞

連載

2008.03.10



レジデントのための

栄  養  塾

大村健二(金沢大学医学部附属病院)=塾長加藤章信(盛岡市立病院)大谷順(公立雲南総合病院)岡田晋吾(北美原クリニック)

第8回 糖尿病症例に対する栄養管理

今月の講師= 加藤 章信


前回よりつづく

 糖尿病の概念はインスリン作用不足の疾患で,インスリン作用不足によってさまざまな代謝異常が起こり,その結果,腎症や高血圧など種々の合併症が出現します。糖尿病治療の基本は食事療法です。インスリン作用不足を解消し,血糖値を改善するだけでなく,合併症を予防したり,治療に役立ちます。食事は生活習慣の中心になるもので,食習慣を変えるには個人の生活背景を理解し,十分な栄養指導を行うことが必要です。

【Clinical Pearl】

・食事は生活習慣の中心であり,食事療法を行うには個人のライフスタイルを理解した個別の指導が必要。
・摂取カロリー量としては,身体活動量を配慮して25-35kcal/kg(標準体重)/日が目安になる。
・栄養素の配分は,摂取エネルギー量の50-60%を糖質として,蛋白質は標準体重あたり1.0-1.2g/日,残りを脂質とする。
・「糖尿病食事療法のための食品交換表」を参考に,食べようとする食品がどのくらいの量になるのか(1単位=80kcal),患者さん自身が知ることが大事。


【練習問題】


 44歳の男性。42歳時人間ドックで75gGTT施行し糖尿病の診断となる。その後,食事・運動療法にて4か月で92kgから69kgへと体重が減少したところ,血糖値が正常化したと言われ治療を自己中断した。2年後に再度人間ドックを受診したところHbA1c9.9%であり,同年より経口糖尿病薬が開始された。コントロール良好となるが,次第に食事療法の継続が不規則となり,体重と飲酒量が増え再び血糖コントロール不良となったため,糖尿病代謝内科へ精査教育目的で入院となった。

主病名:2型糖尿病

主訴:特になし

家族歴:母が糖尿病

身体所見:身長174.5cm,体重81kg,BMI26.6,血圧142/77mmHg

検査所見:尿糖(+),尿蛋白(-),尿中CPR195μg/日,WBC7200/mm3,RBC4.09×106/mm3,Hb13.3g/dL,Ht39.0%,TP6.5g/dL,Alb3.6g/dL,空腹時血糖160mg/dL,HbA1c10.4%,TC162mg/dL,HDL-C54mg/dL,TG81mg/dL,UN14.7mg/dL,Cre0.5mg/dL

Q 本症例にはどのような栄養療法が必要でしょうか?
A 標準体重に対して25-35kcal/日に相当するエネルギー量投与を原則とします。

 糖尿病の食事療法の原則は,適正なエネルギー量で,栄養素のバランスがよい食事です。さらに高血圧や腎症などの合併症にも配慮した内容とし,規則正しい食事時間を守りながら,長期間継続が可能な食事ということになります。

 食事療法の実際に関しては日本糖尿病学会が『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン』(南江堂)を発刊しています。具体的には以下のとおりに行います。

1)標準体重の設定を行います。一般的にBMI=22を目標にします。
2)1日摂取エネルギー量を設定します。年齢,性別,肥満度,活動の程度,現在の血糖のコントロールなどを考慮して決めるのですが,一般的には標準体重1kgあたり軽労働で25-30kcal,中労働で30-35kcal,重労働では35kcalが目安です。このエネルギー量と標準体重を掛け合わせると1日のエネルギー量が求められます。過度のエネルギー制限については短い間の実施は可能ですが,長期になると難しいことが多いので,段階的に制限したほうが継続しやすいと考えられています。
3)三大栄養素のバランスは,総エネルギー量の50-60%を糖質にして,蛋白質は標準体重あたり1.0-1.2g/日とし,残りを脂質にします。脂質の量は総エネルギー量の約20-25%になります。さらに,ビタミン摂取や食物繊維(20-25g/日)の摂取に対する配慮や,脂質では飽和脂肪酸の摂取過剰に対する注意が必要です。食塩の摂取量(10g/日以下)にも配慮します。

 この症例では,入院時の食事は1800kcal(約25kcal/標準体重)で開始し,薬物療法としては経口糖尿病薬からインスリン療法に切り替えました。10日間の教育入院プログラムに沿って糖尿病教室に参加し,食事のとり方について説明を受けました。退院後は禁酒を実行し,2か月で体重は75kgと6kg減少し,HbA1cも6.6%まで低下しました。ここまでは良好な経過でしたが,退院後4か月目頃より再び飲酒が始まり,体重も76.8kgとやや増加しました。その後は栄養指導により飲酒量が減り,6か月目にはHbA1cが5.4%まで改善しインスリンから経口糖尿病薬に切り替わりました。

 なお,栄養指導は月1回のペースで行いました。自分が食べようとする食品がどの程度のカロリーがあるのか十分に理解してもらうことが,食事療法の長続きにつながります。

【Check】

・食事摂取量は標準体重に基づいて決められるが,実際に食事療法を行い血糖値や体重の推移をみて変更することもある。
・食事はバランスの取れたものが望ましいが,長期に実施可能なように食事指導によるサポートが重要である。

Q 食事療法の長期継続に役立つ食品交換表について教えてください。
A 食事に関する辞書にあたり,栄養指導に用いられます。

 食事の摂取量が決まった患者さんたちが実際に食品を選ぶときに簡単でわかりやすく,専門的な知識がなくとも食事療法ができるように工夫された食品の一覧表を食品交換表と言います。食品交換表には2つの特徴があります。ひとつは栄養素の組成により穀類(表1),果物(表2),肉魚(表3),牛乳(表4),油脂(表5),野菜(表6)の6つの表に分類されていること。もうひとつは80kcalを1単位として,食品1単位あたりの重量を示したことです。

 栄養指導では,食べようとする食品が表1-6のどの表に属するのか,その食品の1単位はどのくらいなのかを理解してもらいます。同じ表で同じ単位であれば交換して食べることができるところから食品交換表と呼ばれています。例えば,ご飯は表1の食品で1単位は50g(小さな茶碗で軽く半杯)ですが,食パンも表1の食品で1単位は1斤6枚切りの約半分(30g)に相当しますので,ご飯から食パンへと交換して食べることができます。

 このようにして,まず栄養指導では食品交換表の使い方を理解してもらいます。そして,日常生活でもこの交換表を用いながら量とバランスのとれた献立を作ることができるように繰り返し指導を行います。

【Check】

・食品交換表を用いて食べようとする食品が表1-6のどれに属するのかを知り,1単位の重量からカロリー量を計算することで,量とバランスの取れた献立が作りやすくなる。

ひと言アドバイス

・糖尿病は,長い時間をかけて併発・進行する血管病変を介して様々な臓器障害を引き起こします。糖尿病に対する基礎知識をしっかり持ち,患者さんにわかりやすく長期間にわたり実行可能な栄養指導を行うことが大切です。(大村)
・糖尿病は個人のライフスタイルに合わせた栄養指導が重要です。栄養士,専門看護師からの指導も必要になります。よい薬もでていますが,基本は食事と運動療法であることを医師として認識しておくことが必要です。(岡田)
・糖尿病の食事療法については,「低インスリンダイエット」あるいは「ローカーブ(低炭水化物)ダイエット」なる概念もありますが,いまだcontroversialのようです。やはり基本はバランスのよい食事と運動,そしてカロリーオーバーを招く「悪い癖」を止めることでしょう。(大谷)

つづく

文献
津田謹輔:糖尿病.武田英二,長谷部正晴編:最新栄養予防・治療学,pp303-310,永井書店,2007.

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