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第2761号 2007年12月17日


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人生に必要なことはぜんぶ看護に学んだ
宮子あずさのサイキア・トリップ

宮子 あずさ 著

《評 者》陣田 泰子(聖マリアンナ医大病院副院長・看護部長)

働きながら看護の現場から学ぶ

 もう何年前になるだろうか。少なくとも10年以上は過ぎている。その時彼女は,2年目研修の講師だった。当時小児外科病棟から教育担当になった私は,1年目のナースの研修は数多くあるけれど,2年目がエアポケットになっている状況を何とかしたいと考えていた。

 新たに企画した研修の講師を誰にお願いしようかと考え,先にある研修に出かけ彼女の話を聞いていた。「研修に来ていただこう」,私の気持ちはすぐ決まった。

 その日,もう到着するころだと思って玄関付近でうろうろしていた。わかりにくい場所であり,東京の武蔵野あたりから来ると言うので少し心配だった。しばらくすると玄関に大きなオートバイで駆けつけた人がいた。小柄なその人は,かぶっていたヘルメットを取って近づいて来た。顔を見て驚いた。女性だった。その大きなオートバイが,いわゆる7ハンと呼ばれているものだということを,このあと彼女の口から聞くことになった。

 びっくりしている私に言った。「宮子です。どこかに更衣室はありますか……」。その後また私はびっくりすることになった。革ジャンをぬいだ彼女は,なんと革ジャンとはおよそほど遠いカラフルなミニスカートに変身したのだ。当時はスタッフナースだった宮子さんから2時間の講義を受け,グループワークをして1泊2日の研修は好評のうちに終了した。

 各種雑誌の連載,出版された本を見ては,「あ,主任を引き受けたんだ……」,「精神科に変わったのか……」それから「緩和ケア病棟と精神科をあえて希望し婦長になったんだ……」,宮子さんの師長ってどんなマネジメントなのか興味があるな……,とそのプロセスはいつも気になり,そしていつしか私も看護部長になっていた。

 今年の8月,再びジョイントする機会を得た。某学会のシンポジストとなり,隣でスピーチすることになった。今回は遠方ということもあり,さすがにバイクで駆けつけることはなかったが,スピーチはあの頃の“しなやかな見つめ方”と変わらなかった。

 彼女の持ち味は,「まじめ一筋」の看護職の中でも特異な存在である。多くの本を書いている中で,いちばん記憶にあるフレーズが「○○さん,お通夜のお寿司は竹よ……」と亡くなった患者さんの妻が,臨終の場面のすぐあとにお嫁さんに言ったというものである。どんな時でも,生活を続けていかなくてはならない“人間のごく普通の現実”,そこ抜きには実は看護もありえないということを伝えてくれる。

 「人生に必要なことはぜんぶ看護に学んだ」,生老病死の縮図のような病院である。この病院の中で看護を続けるということは,言うは易し,実は相当大変なことである。1年も経たずに辞めていくナースが昨今の話題であるが,今ナースとして3年継続できるということは素直に“すごい”と思える。エネルギーを切らさず,今できることから“看護を続ける”ことができたら,相当なことはこの看護の現場から学ぶことができるはずである。

 “働きながら,看護の現場から学ぶ”ことにこだわる宮子さんの本筋がぎっしり詰まっている。

 タイトルについて一言。『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』(河出書房新社)をもじってのものであることは,読者もおわかりであろうが,表紙の中で私の目に留まった言葉は「サイキア・トリップ」である。このタイトルをもっと生かして大きくしてもよかったのではないかと思っている。まさに宮子さんのしなやかさを表現している言葉であると,いたく感嘆した。

四六・頁224 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00319-3

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