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第2743号 2007年8月6日


【寄稿】

小児科医不足を考える
研修医の意思を尊重した取り組みを

内山聖(新潟大学小児科教授)


小児科の魅力・醍醐味

 小児科の魅力は,「高度な専門性と全人的医療の実践,そして医師としての誇りと生きがい」につきる。科学としての医学は身体を多くの部位に分け,個別に独立させて進歩してきたが,各臓器からヒト全体を理解することはできない。社会が求めている全人的医療とは,心を持ったヒトの身体を包括的に診て,その病を治す医療であり,小児科は高度な専門性を発揮しつつ全人的医療を実践している科であると自負している。現代の臓器別診療を揶揄して,「木を見て森を見ず」とよくいわれるが,山頂からパノラマを見渡しているのが小児科である。

 きわめて広い守備範囲も魅力の一つである。新生児から思春期,キャリーオーバーする疾患は成人まで,しかも,あらゆる分野の疾患を診るほか,育児相談,予防接種,乳幼児健診,学校健診,不慮の事故の防止など,地域社会の小児保健・学校保健の担い手でもある。将来の選択肢はきわめて多種多様で,自らのライフスタイルやライフステージにあわせて社会に貢献してほしい。

 Subspecialityを持った小児科医も必要であるが,小児科医そのものが高い専門性を持っているといえる。小児のプライマリ・ケアはほとんどがcommon diseaseであり,そこに隠れた重大な病気を早期に的確に見出すことが小児科医の小児科医たる所以である。小児救急もこの一環であり,小児科専門医をめざす日々の研修の中で,十分に対応できる実力が身につく。

 未来ある子どもたちの病を治し,子どもたちの健康を守るために日々,全力を注ぐ。そして,元気になった子どもたちの笑顔に疲れは癒される。小児科医になってよかったと思う毎日である。

小児科医のイメージと実際

 マスコミは「小児科は3K(きつい,汚い,危険)のため成り手が少ない」としばしば報じている。潜在的に小児科に心引かれる医学生は多く,彼らが最終的に小児科を諦める理由こそが小児科医を増やすために取り組むべき課題といえる。3Kと簡単にいうが,小児科は医療訴訟が少ない科の一つであり,危険という言葉はあたらない。同様に,子どもたちを扱っている私たちが現場で汚いと感じることはまずない。したがって,問題になるとすれば,残りのK(きつい)であろうか。

 このKの解決には適切な勤務体制の保障が最も大切であり,日本小児科学会は10-15名の小児科医が勤務する「地域小児科センター構想」など,小児科医の集約化を進めている。将来望ましい体制であるが,時間を要する検討課題がいくつかあり,特に地方では即効性は期待できない。

 ないものねだりをせずに現状を打破するには,綺麗事は捨て,やれることをやるしかない。指導医は学生や研修医に,思い切り小児科を楽しんでいる姿を無理にでも見せて欲しい。もともと小児科が大好きな貴方たちのはずである。疲れ切って,愚痴しかでない小児科医を目の当たりにし,小児科医になろうとする若者は稀である。そのためには,中小病院では他科医による小児救急・当直のカバーなど,病院全体で小児科医を大切にする気運を高めて欲しい。これには院長の裁量が大きい。

 研修制度に対する将来への提言として,米国のように小児科はストレート研修を強く望む。小児科そのものが総合診療科であり,必要に応じ皮膚科,耳鼻科,眼科,放射線科など小児医療に関連した他科をローテートすれば,高度な総合力を持つ小児科医を育成できる。ストレート研修のもう一つの効果として,女性医師の活用がある。小児科学会会員に占める女性医師の割合は32%(2006年10月現在)で,若い年齢層ではさらに多い。初期研修修了後に結婚,妊娠する女性医師が少なくないが,2年間の小児科研修を修了していれば,いつどのような形でも復帰は容易である。

新潟大学での取り組み

 「自分の人生のため,そして家族のために頑張ってほしい。それがそのまま患者さんのためになり,医局のためになる」。こんな私の期待に応え,15年前の教授就任以来,約120名のすばらしい若者たちが集まってくれた。卒後研修必修化が始まり,小児科希望者の減少が社会問題になったが,昨年は9名,今年も8名の新入医局員を迎えることができた。

 理想の小児医療には多様な考えや知識を持った集団が必須と考え,希望者は一人残らず国内外の留学を許可してきた。これまで70名以上が好きな時に好きなところで勉強し,現在もフランスと米国に3名,国内に5名が留学している。中にはインドの無医村で働いた人もいる。この70数名の中には卒後5,6年目が多数おり,いわゆる後期研修中に自ら研修プログラムを作った人たちである。一方,ほかの人たちも豊富な関連病院群を活用し,NICUのある大病院を必ず1,2年以上経験するプログラムのもとで後期研修を行っている。大学院に進学する人も多い。出身地に帰るのもすべて本人の意志を尊重し,必ず推薦状を書いている。自由な研修システムのもとで実力とキャリアさえ身につけておけば,どの地でも大いに活躍できる。なお,勤務医のQOL向上のために主要な関連病院は増員を進め,小児科医が6名以上いる病院は14年前の2つから現在は5病院に増えている。

 医局でも皆,伸び伸びしており,とにかく明るく元気である。スポーツも盛んで,昨年,各地区代表による全国小児科野球大会で優勝し,今年は札幌ドームで日本一決定戦がある。フルマラソンやトライアスロンに挑戦する人たちもおり,かなり硬派の医学部大運動会(医局対抗)では毎年優勝争いに加わり,医学部内でも元気で活気のある小児科をアピールしている。

将来を見据えた研修を

 私の手もとに,460年前に英国で出版された小児科教科書の復刻版がある。麻疹や扁桃腺炎などなじみの病気が記載されているが,当然のことながら,現代に通じる治療法は何一つない。現在の医療は,過去から見ればbestの医療である。しかし,何十年,何百年後の未来から見たら間違いなくworstの医療であり,それが医学の進歩の証明である。決して,現状にうぬぼれてはいけないし,立ち止まってもいけない。研修医であろうと指導医であろうと,私ども医療人は常に謙虚に,未来に向かって歩を進めるべきである。そのためにも,後期研修は研修医という言葉に甘え,受け身になってはいけない。あくまで生涯研修の始まりと位置付け,自らの将来をしっかり見据えて取り組んでほしい。


内山聖氏
1972年新潟大卒,同大小児科入局。80年新潟大附属病院小児科講師,83-85年ロンドン大小児病院リサーチフェロー,88年大分医大小児科助教授,92年より現職。2006年新潟大医歯学系長,新潟大医学部長。日本小児科学会専門医。日本糖尿病・妊娠学会常任理事のほか,日本小児科学会,日本自律神経学会,日本小児腎臓病学会理事などを兼任。