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第2743号 2007年8月6日


interview
大江透氏(岡山大学循環器内科教授)に聞く

ベッドサイドで学ぶ不整脈
すべては患者さんから学んだ


 不整脈は心電図1つをとっても個人差が大きく,正常と異常の診断に頭を抱えてしまい,「不整脈はちょっと……」と敬遠してしまう研修医も多いのではないだろうか。

 今回,国立循環器病センター時代からの心電図や臨床所見をまとめた知る人ぞ知る「大江ノート」を土台に,『不整脈――ベッドサイド診断から非薬物治療まで』を単独執筆した大江透氏に,循環器内科を専攻する後期研修医の下山祐人氏がインタビューした。


ACLSを足がかりに不整脈を学ぶ

大江 不整脈は,難しく取っ付きにくいでしょう。下山先生世代の研修医の方たちは不整脈の勉強はどのようにされていますか。

下山 私は初期研修時にACLS(Advanced Cardiac Life Support)を皆で勉強しました。ACLSは急性期にいかに救うか,血行動態は安定しているのかどうかを診て,どの薬を使い,どのような治療を進めていくのかの流れが書いてあり,「とりあえず,世界中で使われている,このガイドラインでやってみよう」という先輩からの提案で学び始めました。ACLSは専門外の先生でも,流れは見ればわかりますし,どう対処するかもわかります。不整脈の読み方はすごくシンプルに書いてあって,記載されている順序で考えていけば大きなはずれはない。たぶん85%は打ち返せるような内容になっていると思っていました。

 ACLSを勉強して,いざ循環器内科に入るとまた違ったプロセスが必要でした。それは急性期だけではなく,より慢性期をにらんだ治療戦略が必要になるからでした。例えば低心機能でもともと血圧が低い人が持続性心室頻拍をきたし,日常の生活を不自由なく送れているものの,これをどう治療していくかで患者さんの将来はまったく違ったものになるかもしれません。もちろん症状別に治療は分ける必要があります。

 ただ,循環器内科をめざしていない研修医にはACLSで十分ではないでしょうか。臨床のツールとしてはAHA(American Heart Association)のガイドラインとして世界共通のものですし。

大江 救急はその場で助けるために治療をするのですからACLSで十分だと思います。循環器の専門医になると,再発予防がありますから,半年後はどうなっているかを考えながら治療します。そうなると期外収縮1つをとっても,基礎心疾患により心室期外収縮の持つ重みが違います。心筋梗塞を持っている人の期外収縮と,心機能がいい人の期外収縮では,予後が違いますから,おのずと治療は違います。

下山 話が少しそれますが,以前から疑問に思っていたのですが虚血のPVC(心室性期外収縮)は,教科書でもはっきりと「これだ」「だからこうなる」と書かれていないことが多いと思うのです。少し具合が悪くなりそうな虚血の方だと,発作が起きる前や起きた後の心筋梗塞で経過を見ていく最中に,よく目にすることが多い印象を持っています。このことについて大江先生は,どのように対処されていますか。

大江 大発作が起こる前に治療する不整脈には,QT延長を伴う徐脈と連結期がすごく短い心室刺激(R on T)があります。前者の場合は,症状はなくても徐脈を改善する必要があります。後者の場合は,R on Tを起こしている状況,通常,心筋虚血や交感神経の亢進を是正する必要があります。

ガイドラインの考え方を持ちベストな治療法を考える

下山 臨床上の疑問でつまずくところは,比較的ADLの高い患者さんで,突然死のリスクがある方へのデバイスの植え込みについてです。「この状態だから植え込むべき」と教科書どおりには断言できない部分があると思うからです。先生はどのようにお考えですか。

大江 そうですねぇ,ガイドラインというのがあるでしょう? ガイドラインの捉え方ですが,ガイドラインは,もともと英国の炭坑で事故が起こった時に,選択すべき逃げ道を示したものです。したがって,いちばん標準的な考え方ですが,目の前の患者さんすべてにベストな治療方法とはなりません。「ガイドラインはこうであるけれども,この人にとっては別の治療法がいちばんいい」というような場合もあると思います。

 ガイドラインはあくまで,標準的な考え方であって,その人のベストではないかもしれないというスタンスで扱う。ガイドライン通りに治療するのではなく,ガイドラインをベースとし,患者さんにあった治療を考えていく。つまり,先生方はガイドラインを超える先生にならなければいけません。そのためにガイドラインを学び,標準の治療法を知る必要がありますね。

下山 “患者さんありき”ということですね。

「大江ノート」のエッセンスをまとめた『不整脈』

下山 大江先生が書かれた『不整脈』は,最初のページから見ていくと,すごく基本的なところから「手ほどき」みたいな形で書かれていますが,細かいところまでしっかり書かれているので,すごく参考にしています。この本のもとになったノート,研修医時代から作られていた「大江ノート」という勉強帳があると聞いたのですが。

大江 ノートと言われていますが,大きなバインダーで30冊ぐらいの記録です。このノートの生い立ちは,卒後すぐ渡米し,内科一般のトレーニングを受けた後に日本に帰って国立循環器病センター(以下,国循)で働くことになった頃です。当時,不整脈の専門家はおらず,私が一から始めることになりました。したがいまして,私の不整脈の知識は患者さんから学んだものです。その患者さん方に関するデータをまとめていったのが,「大江ノート」と言われるようになったようですね(笑)。

 このノートは国循での勉強会によく使いました。勉強会は症例解説から機序や文献まで,皆で勉強する一種の寺子屋でした。ですからノートをそのまま使っても十分対応できたのですが,岡山大学へ行くと,学生を含め教えなければいけない相手が大勢のため,ノートだけでは難しかった。ノートを叩き台に1冊の本にしようというのが,この本を書くきっかけです。

下山 すべてご自身で集められた心電図を使われているのですよね。

大江 そうです。国循と岡山大学の両方のデータです。先ほど「手ほどき」のような印象とおっしゃいましたが,それはレジデントの先生たちとディスカッションしながら書き上げたので,それが本の中に残っているのでしょうね。

下山 自分たち後期研修医が見て,欲しい情報・知りたいことがたくさん書いてあって,うれしい1冊でした。初期研修医だけでなく医学生にも読みやすいのではないかと思いました。

大江 そう言っていただけると嬉しいですね。医学生のために心電図や身体所見,症状などの導入部を入れておきましたので,レジデントの先生方は忘れかけた部分の復習にも使っていただければと思います。

 最初は,本の前書きにも書いてあるとおり,2―3年で書き上げるつもりでしたが,休みの時間を使い続けても10年以上かかってしまいました。10年も経つと,最初の頃に書いたものが古くなっているので,それをまた書き直すのがいちばん苦労しました。しかし書き上げてしまえば,辛くとも楽しい思い出ですね(笑)。

下山 まさに集大成と言っても過言ではないですね。お1人で書き上げるには,想像以上のご苦労をされたと思います。ですが1人で書き上げたことが何より圧巻ですし,不整脈の考え方が一貫していて読みやすいと思いました。

大江 分担執筆ですと不整脈に対するスタンスがどうしても少しずつ違ってきますが,1人で書くことで頻脈に対する考え方,徐脈に対する考え方などすべて自分の考え方でまとめられる。1人で書くことのよい点は,一貫性が取れているので読みやすいことに尽きると思います。

患者さんのベッドサイドへ 知識を経験に

下山 ローテートしてきて間もない研修医の先生や看護師さんは「心室頻拍が出てます」という連絡を患者さんを診に行かずにそのまま,指導する立場の当直医にすることがあります。少しでも早く,「実際に何が起きているのか」「大丈夫なのか」というところを突き止めるような気持ちや動きがあればいいなと思っています。自分もそうなってしまわないよう常に留意している点でもあります。

 そういう「ベッドサイドありき」「患者さんありき」というところは,どんなところでもくり返し出てくるテーマで,頻脈性の不整脈でもそうですし,徐脈性の不整脈でもそうですけれども,まず,横に行って確かめて診るということが不整脈学の基本ですね。

大江 ベッドサイドへ行くことは絶対に必要ですね。患者さんが歯磨きしているだけで心室細動みたいに見える時があるでしょう? そうすると,心電図だけを見ているとすぐにドクターコールをかけてしまいます。患者さんのところへ駆けつけてみると,何事もなくケロッとしているから一目瞭然です。そういうベッドサイドで患者さんをきちんと診ることが大切ですし,それがいちばんの原則だと考えています。

下山 私も1度だけ経験があります。皆で必死に走っていったら,電動歯磨きのアーチファクトで「なぁーんだ!」と(笑)。

大江 慢性期の場合は,例えば期外収縮などがあると,恐がって直ちに治療を開始する先生がおられますが,治療を始める前に治療目的をはっきり捉えることが大切です。「何のために,この患者さんは治療をしなければいけないか」と,症状のために治療するのか,予後を改善するために治療するのか,より重篤な不整脈が起こりそうだからかとか。そういうことを知らないで,「あるから治療する」という考えですと,漢の時代の「脈取り学」と同じです。慢性期の場合は,特に治療目的をしっかり把握することが必要ですね。

深追いは禁物 頭の中をクリアにして治療に臨む

下山 大江先生は循環器内科でローテートを始めた研修医にどのようなアドバイスをされていますか。

大江 “不整脈はあまり深追いしないで少し様子をみること”と教えています。もちろん,「患者さんの状態を見極める余裕がある時」という条件付きです。そのほかに研修医が不整脈に関していちばん間違えやすいもの,徐脈が原因で起こる頻脈性不整脈です。このうち心室性頻拍の場合はトルサード(Torsade de pointes)と呼ばれます。慣れてくると,頻脈時のQRS波の格好で「これはおかしい」とわかるのですが,初めのうちは,「これは心室頻拍だ。よしキシロカイン」と打ってしまうと痛い目に遭います。この2つは研修医がローテートで最初にきた時に注意するように言っています。

下山 では救急の場合はどのようなことをアドバイスされていますか。

大江 これもやはり,あまり深追いをしないことです。たとえ頻脈を起こしていても,少し時間の余裕があると判断したら,いったん,頭の中を整理する時間を取って治療を始める。「A薬が効かない? じゃあ,B打って。まだ効かないからCだ。Dだ……」と慌てて薬を連続投与してしまうと,泥沼にはまってしまい非常に危険です。

下山 落ち着いてから治療方法を組み立て,もし第一選択の薬が効かない時は薬を連続で使用しないということですね。不整脈の薬は2剤以上重ねないことにしているのですが,いざ循環器内科に入りますと,例えばもともとアンカロンを服薬している患者さんに,キシロカイン,非持続性心室頻拍が散発しているのでさらにシンビットと,薬が積み重なっていく。「催不整脈作用が増強することもあるため基本的には2剤併用はいけないと習っていたのに,臨床の現場ではこんな使い方もすることもあるのだな。本当は何がベストなのだろう」と悩みます。

大江 救急時は薬を重ねることはしょうがないですね。しかし,患者さんが比較的安定していて待つことができる状態なら,1回引くことも大切でしょう。QRSの幅が広いから「心室頻拍だ!」と飛びつかずに,Wide QRS頻拍と診断をしておき,種々の頻拍の可能性を考えながら治療することが大切です。それでも救急現場では,そんなことを考えているうちに患者さんが亡くなられては大変ですから,両者のバランスを考えながら治療することも必要ですね。

下山 最後に私も含め研修医に,不整脈に限らず,こういうふうに学んでほしいということを一言お願いします。

大江 私の経験からいうと,“患者さんのベッドサイドに行くこと”を重視してほしいですね。何も知らないで本から知識を得るだけでは不十分。患者さんを診て,何かあった時にどう対処するかがいちばん身につきます。ですから患者さんから知識を得て,それを解くために本を調べたり,先輩に聞いたりして経験を積んでいってください。

(了)


大江透氏
1969年東京医科歯科大学卒。70年米国The Union Memorial Hospitalにて内科インターン,71年Mercy Hospitalにて内科レジデント,73年Albert Einstein Medical Centerにて循環器内科クリニカルフェローおよびリサーチフェロー。77年国立循環器病センター内科心臓部,94年より現職。
米国内科学会専門医,米国心臓血管学会専門医,日本内科学会認定内科医,日本循環器学会認定循環器専門医。

下山祐人氏
2004年東医大卒。湘南鎌倉総合病院で初期研修を修了。心臓病に対する治療と研究の実績および臨床に対する真摯な態度に感銘を受け,06年より東女医大循環器内科入局。検査室を含む各部門をローテーション中。