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第2726号 2007年4月2日


「集中治療の明日を創る」をテーマに

第34回日本集中治療医学会開催


 さる3月1-3日,第34回日本集中治療医学会が丸川征四郎会長(兵庫医大)のもと,神戸国際展示場(神戸市)他で開催された。「集中治療の明日を創る――すべては人々のために」をテーマにした今回は,「会員の会費で運営する学術集会の本来の姿に立ち戻る」という丸川会長の意向のもと,学会員自らスタッフとなって「手作り」の学会運営が行われた。


国産人工呼吸器開発の意義

 会長講演「人工呼吸器開発への挑戦:いま何故,国産人工呼吸器なのか?」では,丸川氏自身が2000年より開発に携わっている国産人工呼吸器「SSV-200」の開発経緯を紹介した。

 SSV-200は最大240 l/min,応答遅れ100msec以内というスペックを持つ人工呼吸器であり,丸川氏は,「部分補助換気の最新の考え方であるPAV(Proportional assist ventilation;按分比例補助換気)理論を臨床的に実現可能なレベルをめざした」と述べた。

 部分補助換気においては現在のところ,PSV(Pressure support ventilation;圧支持法)が一般化しているが,PAV理論は,より生理的な呼吸に沿ったもので,PSVで起こりうる患者-人工呼吸器の非同期による障害などを軽減する可能性が期待されている。

 丸川氏はSSV-200の概要を述べたうえで,国内での最先端人工呼吸器開発に取り組んだ背景とその意義について,以下の2点にまとめた。

1)呼吸管理に精通した医師が不足している現状では,人工呼吸器が換気モードを自動制御するシステムを作ることが重要であり,SSV-200はそれに対応しうる数少ない機器である。
2)1960年代以降,日本における人工呼吸器開発は衰退している。この背景には呼吸管理に精通した人材の不足があり,SSV-200の登場は,こうした現状を変え,次世代の呼吸管理専門家育成の礎となる重要な一歩と考える。

 丸川氏は,「SSV-200開発への取り組みが,人工呼吸管理に新しい時代をもたらす可能性に期待したい」と述べ,講演を終えた。

人呼吸管理法の適用が議論に

 人工呼吸管理においては現在,会長講演で取り上げられたPSV,PAVのほか,PCV(Pressure control ventilation;従圧式換気),NPPV(non-invasive positive pressure ventilation;非侵襲的陽圧換気法),HFO(High frequency occilation;高頻度振動換気法),ECMO(extracorporeal membrane oxygenation;体外膜型肺),BCV(Biphasic cuirass ventilation;体外式陰圧呼吸器)など,さまざまな方法があり,その適用については議論がつきない。シンポジウム「人工呼吸器の新しい潮流」では,NPPV,PSV,PAVを中心に議論された。

 小林平氏(倉敷中央病院)は,開心術後における一過性の呼吸障害に対してのNPPVの効果を報告。抜管後,NPPVを使用することによって再挿管や気管切開を回避する可能性を示唆する,有意差のあるデータを呈示した。

 竹田晋浩氏(日医大)はARDS(成人呼吸促迫症候群)などに対するNPPVの有効性を検証。現在のところARDSへのNPPVの有効性は50%であり,エビデンスとしては弱いと言われている。しかし竹田氏は「50%に奏功するということは,対象を絞ればNPPVはARDSに有効だということではないか」と述べ,自施設データを紹介。重症症例を除外し,1時間以内に良好な反応を示さなければ中止することなどを条件として挙げた。

 戸山秀司氏(山形大)はBCVについて報告。BCVは胸郭外を覆った機器によって陰圧をかけるもので,非侵襲的な人工呼吸管理法として注目されている。戸山氏は開心術後,呼吸不全となりBCVを使用した25症例を報告。酸素化能,循環動態の改善があったこと,BCVを原因とする合併症も見られなかったと述べた。

 山内順子氏(医誠会病院)はPSV,PAVのメリット・デメリットを考察したうえで,呼吸器系のメカニクスを自動測定・自動調整を行えるPAVの可能性を解説。PAVが呼吸生理に合った理想的な人工呼吸であることに異論は少ないが,機器設定の難しさが臨床への普及を妨げている。山内氏は,自動制御化の開発を推進することが,PAVの臨床普及には必要であると説いた。

 中根正樹氏(福島県立医大)は,ARDS患者に対するHFOの有用性について報告した。成人ARDS患者に対するHFO適用の歴史はまだ3年あまりだが,より少ない圧,より軽い鎮静で換気を行えるHFOは,肺へのストレスを低減できる可能性がある。

 小原崇一郎氏(国立成育医療センター)はARDS患者の呼吸管理について,重傷度に応じてPCV,HFO,ECMOを段階的に導入する戦略を導入。この結果,78%という高い生存率を得たことを報告した。

 最後に登壇した小松孝美氏(帝京大)は,肺保護戦略について報告。人工呼吸器最高気道内圧とPEEP(positive end-expiratory pressure;終末呼気内圧)を同時に上げ,3回の呼吸の後,除々に下げる,3breath methodと呼ばれる肺リクルートメント手技を用いることによって,人工呼吸器関連肺炎を有意に回避できるとした。

集中治療領域におけるNST

 2006年の診療報酬改定によって栄養管理実施加算が行われるようになったことを追い風に,NST(Nutrition Support Team)の取り組みが各領域で注目されている。今学会でも唯一の医師部門・コメディカル部門合同シンポジウムとして「重症患者の代謝栄養管理」が行われ,東口高志氏(藤田保衛大)・矢吹浩子氏(兵庫医大病院)の両座長のもと,活発な議論が交わされた。

 8人の演者の発表後のディスカッションにおいて東口氏は「日本はNST大国になりつつあるが,国内のエビデンスは今なお不足している」と指摘。さらなるエビデンス蓄積に取り組む必要を訴える一方,看護師などコメディカルが栄養管理の基本的な知識を持つことによって,合併症を生じる前にチェックするシステムができると述べるなど,チームで取り組むことの意義を強調した。

■二次元世界からの脱皮を

 今学会の特別講演にはノンフィクション作家の松本順司氏,聖路加国際病院理事長の日野原重明氏らとともに,武術研究者・甲野善紀氏が登場。医療系の学会では異色ともいえる武術研究者の講演に,多くの参加者の注目を集めた。

 「二次元世界からの脱皮を」をテーマにした講演において甲野氏は,物質よりもはるかに複雑精妙な存在である生命体の現象を探求するのに,現行の科学的手法は不向きではないかと問題提起した。

 甲野氏はその理由について「人間の思考による論理は,基本的に2つの事象の因果関係の積み重ねでできている。しかし生命体をはじめとする複雑系における現象は,多くの要素の同時並列的関係性によって生じており,論理的な解明は難しいのではないか」と述べ,その実例としていくつかの身体技法を参加者に体験させた。「論理的・科学的解明が難しいということを受け入れたうえで,医学を志す皆さんには自由で伸びやかな発想を心がけてほしい」と述べた。