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第2725号 2007年3月26日


シリーズ 看護基礎教育改革を考える Part3
基礎教育と臨床のギャップを埋める


第2回よりつづく

 新人看護師のリアリティショックや早期離職といった問題を背景に議論が交わされてきた看護基礎教育改革。厚生労働省「看護基礎教育の充実に関する検討会」も次回行われる第9回検討会において報告書の骨子案が提出される見通しであり,ひとつの山場を越えつつあるといえる。シリーズ「看護基礎教育改革を考える」では,最後に特集の中で紹介しきれなかったさまざまな見解を紹介し,今後の展望を考える。


■看護基礎教育のあるべき姿 基礎教育4年+臨床研修制度へ

坂本すが(東京医療保健大学看護学科長)


 新卒看護師の入職後1年未満の離職率は1割以上に達する。また免許取得後,3分の1が働くことに不安を持ち,働き始めてからも,自分が看護師に向いていないと考えている者が21.6%にも達するというデータがある1)。これらは医療界にとって深刻な数字であり,患者に安全で安心な看護を提供するためには看護基礎教育の質・量とも改善しなくてはならない。

 この問題においては,看護基礎教育のあるべき姿を明確にし,それを実現可能にするための計画を練り,長期スパンにおいて検討することが必要である。ここで,今後の看護師育成制度の展望として,次の2点を提案したい。

 第一に,保健師助産師看護師法を改正して,看護基礎教育を原則4年制とすること。また,助産師と保健師は,この4年間の看護基礎教育を修了した後,希望する者が,その資格を取得する課程に進むものとする。

 第二に,卒後1年間の臨床研修制度を設け,これを医療法で義務化すること。4年間の基礎教育修了後,看護師資格を取得し医療機関に勤務する看護師は,就業する医療機関において看護師として仕事をしながら1年間の臨床研修を受けることを義務化する。

基礎教育4年+臨床研修制度へ

 以下に上記の理由を説明する。

 現在,看護師の育成に関して,看護基礎教育の現場と,臨床現場には深刻な乖離があるように思われる。教育現場では,看護師としての基礎をつくるために,限られた時間に多くの課題を達成することに必死になっている。その結果,学生は多くの知識を習得しなければならず,まして現場でのクリティカルな状況に接する不安にも苛まれ,疲れ果て,それでも不十分な知識しか持つことができず,心の準備も整わないままに臨床現場に配属され,そこで医療の現実に戸惑い立ち往生してしまう。

 一方,臨床現場では,医療の高度化,複雑化,患者の高齢化,重症化に伴い,一人ひとりの看護師に質の高い柔軟な看護が求められると同時に,看護師は医療安全や医療制度の変化にも対応しなければならない。そんな中で新卒看護師を教育するために十分な体制を整えるのは難しい状況にあり,戸惑う新卒看護師に十分なフォローが与えられず,結果的に新卒看護師の早期離職や働くことへの不安感を生み出してしまう。

 これらの問題に対して,看護基礎教育期間を4年制にすることで,まず時間的余裕が確保できる。4年でよいかどうかという問題はあるとしても,1年間という助走期間の延長は,知識の習得にも,心の問題についても,新卒看護師にとっては大きな機会となる。また4年制とすることで,医療系以外の学部からの編入も促進され,より多様性が高まることは,看護界・医療界にとって新たな人的資源の確保となりえるであろう。

 一方,卒後1年間の臨床研修制度の実施は,忙しい臨床現場にとっては,負担になることも考えられるが,長い目で見れば,質の高い看護師を臨床現場に提供することにつながる。それは何より患者の利益につながる。

 リアリティショックによって十分に臨床現場のすばらしさを知ることなく辞めていく看護師が存在することは,医療・看護界の大きな損失であろう。少し時間がかかっても,温かくかつ厳しい現場研修を実施することで,無用なストレスを排除でき,辞める必要のない看護師を留まらせるうえで役立つだろう。

 また,これからの高度医療,急性期医療,在宅医療,患者や社会の要求に応えることが,われわれ医療職者に求められていると思う。自らが考え,行動することができる看護師になるためには,できるだけさまざまな経験を積ませることが有効である。1年間の臨床研修として仕事をしながら現場で学ぶことは,その役に立つだろう。

 以上,2つの提案について述べたが,この提案を実現するには,実証研究やさまざまな環境整備が必要になる。しかしながら,この2つの提案は,これからの高度で質の高い医療,医療の国際化といった状況に対応する看護基礎教育改革を考えるうえで,有効であると思う。

1)日本看護協会中央ナースセンター:新卒看護職員の早期離職等実態調査結果,2004.


■日本初の看護教育のみの4年制看護大学校を立ち上げて

早川恭子(愛媛医療専門大学校副学校長)


 愛媛医療専門大学校はこの春より開校する,「修業4年の3年課程」の看護専門学校である。当校が医療専門大学校として立ち上げをする際,看護実践ができる基礎能力を培い,現場に出てもリアリティショックからの立ち直りの早い看護師を育成し,地域へ貢献したいとの趣旨から,さまざまな教育体制が検討された。

 まず,臨床現場の視点から求める看護師像を知るべく,愛媛県内の病院・老人保健施設にアンケート調査を行ったところ,「せめて,基礎看護技術はしっかり身につけておいてほしい」「落ち込んでもすぐ立ち直れるたくましい人材がほしい」などの結果が得られた。臨床側の新人看護師に対する高い期待から,医療事故に対する不安など,卒業後に襲いかかる新人看護師へのプレッシャーは過大であると予測できた。

 現在の3年修業の3年課程の教育体制の問題があるとすれば,時代の要請でカリキュラムが膨らんだ結果,各科目の履修時間が減少してきたことにあると考える。もちろん,単に時間を多くとればいい教育ができるとは考えないが,少なくとも学生が看護学という専門的で高度な知識・技術を修得するには,スモールステップで,しかも反復学習できる時間と,きめ細かい教育カリキュラムが求められていると考え「修業4年の3年課程」を選択した。

「修業4年の3年課程」の概要とねらい

1)1年次に教科外活動を多く取り入れている。内容は,学外学習で集団生活をすることで,人間関係を調整する力をつける,学内では表情筋トレーニングやアロマセラピーをセミナーで取り入れ,自己開発とリラックス法を学ぶようにしている。グループ活動により,自己認識の深まり,相手の気持ちの受け止め方などの感受性訓練ともなることも意図している。

2)カリキュラムでは,看護学専門分野の時間数を多くした。特に基礎看護技術の演習時間を,1年から3年にかけて8単位240時間,4年次に総合技術演習として3単位135時間を設定した。これで応用力も培う看護技術が習得できる演習が可能になる。シミュレーション機器は十分に準備し,卒業までに必要な技術習得の環境を整えた。臨地実習は,学年間で決して重複することがないようにしたことから,教員の指導も,丁寧で1人ひとり目を配ったものになり,教員自身も指導方法が徹底しやすくなり,臨床側にも目的・目標が徹底できるようになるものと考える。

3)4年次に死生学演習・卒業研究とセミナーなど,グループ単位での学習形態や研究活動の時間を十分とることにより,自己教育力を高め,卒業後授与される高度専門士の資格により可能な大学院進学にも対応できる。

4)臨地実習の最後に総合実習を設け,チーム医療のあり方,複数の患者を受け持つ経験をさせることにより,卒業後の臨床への適応力を高めることを意図した。これは,卒業後新人看護師教育が終われば,プリセプターが付いたとしても,すぐにチームの一員として行動しなければならない現状に適応できる力をつけることを意図した。

自己教育力の高い看護師を育てたい

 4年間の基礎看護教育を受けることにより,人間への理解を深め,心身ともに成熟し,看護師としても社会人としても,よい人間関係を築くことができる看護師を育てたい。また,高い看護実践能力を持ち,チームの中で自覚と責任を持って役割を果たせ,専門職として生涯学習を続けられる自己教育力の高い看護師となってもらうことを期待して育成したいと思う。


■保健師看護師統合カリキュラムを次の一歩につなげる方策

村嶋幸代(東京大学大学院教授・地域看護学)


 日本看護協会は平成18年6月の総会で,「看護師教育4年。保助看3免許堅持」の方針を出した。社会情勢を見ても,医療の進歩を見ても「看護師教育は4年間にすべき」と考える人は多いが,7対1の問題で看護師不足が深刻な中,具体的にどのように実現していけばよいのか,筋道が見えないのが現状である。ここでは現行の統合カリキュラムがはらむ問題点について指摘したうえで,次の一歩を提案したい。

統合カリキュラムのよさと限界

 統合カリキュラムとは,平成8年8月の指定規則改正により,初めて導入された考え方である。それまで看護師教育に積み上げられていた保健師教育を統合して実施することにより,教育内容の重複を避けて効率化をはかり,卒業要件の単位数を減少させたものだ。

 講義単位だけでなく,実習も統合された。特に在宅看護論では,臨地実習の場が「保健所・保健センターに限らなくてもよい」となったため,統合により「公衆衛生の場を経験していない保健師」も誕生することになった。したがって訪問看護ステーションでしか実習していない「保健師」が,市町村や保健所に就職している現状がある。

 統合カリキュラムは当初,養成所教育に魅力を与えることを目的としていた。しかし,その後,平成13年度および15年度に文部科学省が立ち上げた「看護学教育の在り方に関する検討会」が,大学のカリキュラムを保健師・看護師(・助産師)に必要な科目を統合して学ぶ形で作ったため,実質上,大学も統合カリキュラムで運営されるようになった。看護系大学では,看護師免許だけでなく,保健師の国家試験受験資格の必修科目が実習を含めて卒業要件になっている。

 統合カリキュラムは,看護師教育には幅広さを与えたといえる。しかし,「保健師の免許教育」という観点では問題が大きい。

 まず,保健師と看護師を一体的に教育するため,保健師の独自性が見えなくなった。次に,限られた時間に多くの内容が圧縮されて入るために,保健師としての十分な技術を身につけることができない,実習時に看護師免許を持っていないために実習内容が限定されて見学実習が多い,などの問題が表面化した。実際,初めて任務についた市町村保健師がよく従事する「家庭訪問」「健康相談」等,就職後すぐに必要となる項目を一度も大学で経験しないまま卒業している実態がある。

 一方,近年の看護系大学の急激な増加により実習生が大幅に増加したことによる実習受け入れ先の不足も深刻である。今まで,2000人程度にしか過ぎなかった「保健師」実習に,現在はその5倍の学生が押し寄せている。また統合カリキュラムでは(当然のことながら)「保健師になる」ことをめざさない学生も多く,実習指導者が「育て甲斐がない」という感想を持つのもやむをえない。

保健師免許は積み上げ方式に

 筆者は提案したい。まず,現行の統合カリキュラムのよさを認めたうえで,それで与えるのは「看護師免許」のみとする。現在の社会ニーズを考えれば,看護師が地域看護の考え方を含めて,幅広い教育を受けることは必要不可欠である。現行の統合カリキュラムで看護師免許のみを与えることにすればよい。これは,看護師教育を強化することにもなる。

 そして保健師は,看護師教育に積み上げて公衆衛生看護の技術論,調査研究方法,施策化について学び,「個人・家族・集団への支援技術」「地域支援技術」「地域看護管理能力」を十分に教育された後,国家資格が与えられるべきだと考える。

 日本の保健師の活動は,予防と集団の両面にアプローチする世界的にも大変ユニークな存在であり,継承していく必要がある。「保健師と看護師の一体的教育」を今のまま続けていると,「保健師免許」の存在意義そのものが問われてしまうことを,そろそろ関係者は認識すべきである。