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第2724号 2007年3月19日


MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


脳血管内治療のDo's & Don'ts
第2版

吉田 純,宮地 茂 編

《評 者》伊達 勲(岡山大大学院教授・脳神経外科)

発展著しい分野の最新知識の情報源

 脳神経外科に限らず外科系の治療全体にいえることであるが,より低侵襲に治療を行う,というコンセプトが求められる時代になっている。脳血管内治療はこのコンセプトに沿う治療法として発展の著しい分野の一つである。

 この治療法に新しく取り組む医師の数も年々増加している。このような状況下で,名古屋大学脳神経外科の吉田純教授と宮地茂助教授の編集により,『脳血管内治療のDo's & Don'ts』の第2版が出版された。新しい分野の治療では,「何をすべきか(Do's)」という点以上に,「何をしてはいけないか(Don'ts)」という点が,より安全で確実な治療を行ううえで重要であり,タイムリーな内容である。

 3年前に出版された第1版が368頁であったのに対し,今回の第2版では520頁と約1.5倍近くに増えており,この分野の発展の度合いが頁数にも表われている。内容を拝見してまず目につくのが「Side memo」の充実ぶりである。どの教科書でも,この「Side memo」のコーナーは,ちょっと視点を変えた話題が提供されているため,興味深く読めることが多い。本書では「Side memo」は面白い読み物風になっているわけではないが,実際に脳血管内治療を行ううえでの実用的な問題がリアルに記載してあり,臨床上大変役立つものと期待される。

 画像誘導下に行われる脳血管内治療においては,個々の症例の記載が実際の臨床に有用である。その点,本書に掲載されている臨床例の多さ,具体的な手順に沿った写真のクリアさは,賞賛に値する。それぞれの図に添付されている説明文もコンパクトでわかりやすく,図の中の矢印などの符号を見ながらすっと頭に入ってくる。教科書を支える重要な要素の一つが参考文献であるが,本書では巻末に多くの参考文献が章毎に記載されており,必要ならばその文献を調べることでより深く学ぶことも可能である。欲を言えば,それぞれの文献がどの文章に対応しているかについて,可能な範囲で記載してあれば,読者にとってはより好都合であろうが,本書が雑誌論文ではなく教科書であるということを考えると,そこまで望むのは酷かもしれない。

 本書のもう一つの特徴は,インフォームドコンセントの章であろう。編者の1人である宮地茂先生の執筆による部分であり,時代を反映して第1版に追加して項目も増えている。この章は同一著者による執筆であるので,文章の流れも一定しており,読者にとっては大変参考になるものと思われる。また,巻末付録の脳血管内手術用代表的器材に関する説明も大変詳しく,実用的である。この分野では新しい器材の開発が目白押しであるが,現時点で使用可能な多くの器材について具体的記載があることは,実際に脳血管内治療を行っている読者にとってはありがたい。

 以上のように,本書は脳血管内治療を行う医師にとって最新の知識の情報源として大変有用であり,かつ実用的な教科書である。皆さんが本書を参考にしながら,より安全で正確な脳血管内治療を行われることを祈る。

B5・頁520 定価12,600円(税5%込)医学書院


地域診断のすすめ方
根拠に基づく生活習慣病対策と評価 第2版

水嶋 春朔 著

《評 者》山田 隆司(宮崎県日南保健所長)

目から鱗が落ちる疫学・健康政策学の良書

 保健行政や健康政策立案を生業とするもの,保健学を修学しようとするものにとって,座右の書となるべき指南書が,ここに一つ装いを新たに誕生した。

 わが国の健康増進計画である健康日本21の基本的理念に「ポピュレーション・ストラテジー」と「ハイリスク・ストラテジー」の概念が導入されていることは周知のことである。この理念の実証的学理基盤を提唱したのが,ジェフリー・ローズ博士である。著者の水嶋春朔氏は,この先駆者の合理性にいち早く着目し,わが国の関係者へその健康政策理念を紹介した気鋭の疫学者の一人である。

 水嶋氏は本書第1章で,ローズ博士が提唱したこれらの政策理念を,どうすれば現実の健康政策へ展開できるか具体的に例を挙げる。さらに政策評価の技術論へと読者を丁寧に導く。

 第2章では,「地域集団は,自分の状態をしゃべれない赤ん坊」であり,医師が患者の状態を適切に把握することが,正確な診断や治療につながるがごとく,「地域診断」が,健康政策立案の中核技術であると論じ,具体的にその進め方を説く。

 さらに疫学情報リテラシーがどうして必要かという理説に続き,「わからない」ということがわかるようになる,という鳥瞰的視座による科学的理性のありかたに言及する。また,難解な統計学をとてもわかりやすい図表を駆使して,読者の頭を整理させる。

 評者の注目は,相対リスクと寄与リスクなど政策疫学では死活的に重要であるにも関わらず,初学者には難解な概念を,ものの見事にかみ砕いてみせる点にある。

 最終章では,健診データを例に,エクセルによる統計処理が誰でも取りかかれるように解説され,読者を実務者へと進化させる。

 評者は,保健所長として政策疫学を実践する立場にあるが,行政の構造的傾向として,前例踏襲や「上からの指示」で政策決定が行われることを日常経験している。水嶋氏は,本書を通じ,このような「権威の意向」“Opinion-based”による意思決定に対し,「根拠に基づく」“Evidenced-based”政策立案を提唱し,行政に対し切々と行動変容を迫っている。

 ところで,水嶋氏の講演を聴講したことがある方はきっと同意されると思うが,健康政策学,応用疫学のような一見難解な学知を,独自の視点から,楽しく面白く解説され,聴講空間は水嶋ワールドと化す。このような学者はまれである。評者は,非常勤講師として看護学部学生に教える立場にもある者として,著者のその教育能力に脱帽する。

 その意味で,初学者のみならず,疫学・健康政策学を,どのように教えたら学生は眠らずに聴いてくれるだろうかと,悩んでおられる指導的立場の教官たちも,目から鱗が落ちる一冊である。

A5・頁192 定価2,835円(税5%込)医学書院


神経内視鏡手術アトラス

石原 正一郎,上川 秀士,三木 保 編

《評 者》寺本 明(日医大大学院主任教授・脳神経外科)

安全かつ確実な技術を得るための必読書

 日本脳神経外科学会は1948年の創設であるので来年60周年を迎える(ただし,学会の開催数はもっと多い)。数え年で言えば既に還暦を迎えているわけである。この間,学術的にも技術的にも,さらには政治的にも一貫して右肩上がりの発展を来たし,時には既に完成形に近づいたかと思われる分野もあった。細かいことを言えばきりがないが,臨床的にはMicroscopeとCT scanおよびMRIが三大プロモーターであった。これらが安定してきた後で華々しく登場してきたのが神経血管内手術と神経内視鏡手術であり,中小の学会の中には統廃合がささやかれるものがある中,この二つの専門学会は会員数を飛躍的に伸ばしてきている。いずれも従来の治療法と比較するとより低侵襲であり,テクニックも精緻であるため,若手の脳神経外科医にとっては大変魅力的に見えるようである。

 一般に外科分野においては,患者にとって低侵襲となればなるほど外科医の負担は増えてくる。もし同じ成果があがるなら切開や術野は小さいほどありがたい。しかし,その分新規の機器の導入やその習熟が外科医に要求されるわけである。この習熟過程をおろそかにすると,低侵襲どころか患者に健康被害を与えることになりかねない。現に,これらの新しい分野ではさまざまな医療事故が報告されている。脳神経血管内治療学会ではいち早く専門医制度を立ち上げたが,より新しい分野である神経内視鏡学会ではまず技術認定制度から始めることになった。そのテキストともいえるのが本書である。

 本書は,最初に内視鏡の原理や基礎知識,脳室系の外科解剖が各々20頁ずつ紹介してあるほかは,大半の頁を実地の症例を示しながらの術式の解説に徹している。しかもカラーで内視鏡の手術画像をふんだんに盛り込み,随時操作のコツを示している点が読者にとって有益な情報である。一方,個々の疾患の項目の中に“操作のコツ”として注意点も挙げられてはいるが,合併症とその対策,および機器の故障といったリスクマネジメントに関する事項が最後に10頁程度に圧縮されているのは若干物足りない。改訂時にはこれらの記述内容を大幅に増やしてもらえるよう要望する。

 神経内視鏡手術については,2002年に水頭症に対する第3脳室底開窓術(脳室穿破術K174-1)として21,800点の保険が認められた。これは神経内視鏡手術が初めて社会に認知されたことを示すきわめて意義深い事実である。しかし,本書にも記載があるようにまだまだ多くの脳神経外科疾患に内視鏡手術は有用であり,それを保険で認めてもらう努力がなされている。一方でわれわれ脳神経外科医は,この技術を安全かつ確実なものとする義務を担っているわけであり,本書の意義は大きいものと考える次第である。

A4・頁224 定価16,800円(税5%込)医学書院


医療者が知っておきたい
自殺のリスクマネジメント
第2版

高橋 祥友 著

《評 者》山田 光彦(国立精神・神経センター精神保健研究所部長)

「避けることのできる死」を防ぐために必要な情報を収載

 平成18年6月15日にはわが国の自殺対策の要となる「自殺対策基本法」が成立し,同年10月28日に施行された。本法の目的は,自殺対策を総合的に推進して,自殺の防止を図り,あわせて自殺者の親族等に対する支援の充実を図り,もっと国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与すること,とされている。本書『医療者が知っておきたい自殺のリスクマネジメント第2版』の著者は,精神科医であると同時に,わが国をリードする自殺予防対策専門家である。そして,本書は,自殺対策の総合的推進という大きな流れの中でタイムリーな改訂がなされたものである。

 わが国では1998年に年間自殺者が前年度比130%以上という,他国に類のない激増をみた。現在でも,実に交通事故による死者数の約4-5倍もの人が毎年自殺によって命を落としている。さらに,自殺未遂はその10倍以上ともいわれており,家族や友人など周囲の人々が受ける心理的影響を考慮すると,毎年,百数十万人の人々が自殺問題に苦しんでいることになる。近年の自殺死亡者数増加の背景には,健康問題(精神疾患・身体疾患),経済・生活問題,家庭問題のほか,人生観・価値観や地域・職場・学校教育のあり方の変化等,さまざまな社会的要因が複雑に関係しており,予防対策の実施に当たっては多角的な検討と包括的な対策が必要になる。一方,自殺した人の多くは自殺前の1か月間に医師のもとを受診していたと報告されているが,その多くは精神科医ではなく,一般診療科を受診していたことが明らかになっている。したがって,プライマリケアの場や自殺未遂者が搬送される救急医療において一般診療科の医師がうつ病患者等の自殺ハイリスク者を早期に発見し,専門医等に紹介し,適切なサポートを早期に提供することは,自殺予防の重要な第一歩となる。

 世の中には,自殺についてはさまざまな憶測や誤解,偏見を含んだ情報が流されている。そして,これらの誤解は,当事者や家族や友人など周囲の人々の苦しみを強める大きな原因となっている。私の身近でも,「本人が自殺しようとしているのだから止めることはできない」という意見を聞く機会も少なくない。確かに,すべての自殺を防止することは不可能な試みであるかもしれない。しかし,世の中に「あってもよい自殺」などない。自殺は,多くの場合に「避けることのできる死」なのである。そのため,自殺のリスクマネジメントを考えるうえで必要な「正確な情報提供」が目論まれている本書を,第一線で自殺対策に携わっている,国や地方自治体,関係機関・団体,NPO等民間支援団体,医療スタッフなどすべての関係者の方々にご一読いただきたい。

A5・頁192 定価2,835円(税5%込)医学書院


ハーバード大学テキスト
病態生理に基づく臨床薬理学

清野 裕 日本語版監修

《評 者》田嶼 尚子(慈恵医大教授 糖尿病・代謝・内分泌内科)

グローバルに受け入れられた薬理学の生涯学習テキスト

 本書は,文句なくすばらしい教科書である。ハーバード大学の医学生と歯学生のために企画された医学書であるが,対象は医・歯学生にとどまらない。研修医,臨床医,研究者,コメディカルスタッフ,そして教壇に立つ教員にとっても,このうえなく力強い味方であり,生涯教育のためのテキストブックといえよう。

 では,どこがすばらしいのか,本書を実際に手にとってぱらぱらとページをめくってみれば,たちどころにわかる。入り口のタイトルは従来どおりの堅い文言なのに,中身は実にしなやかで読みやすく,かつ格調が高いのである。例えば,第Ⅰ部「薬理学の基礎」の第4章は「薬物代謝」についてである。これらの単語を前にすると,姿勢を正して読まないと歯が立たないだろうな,と敬遠する向きも少なくないだろう。しかし,ページを開いてみると,ついつい引き込まれてしまう。

 本章は,HIVで結核と診断された32歳の白人女性の症例提示があり,つづいて薬物療法をするにあたって考えるべきこと,使用される複数の薬物の相互作用の機序,薬効の人種差に関する3つの質問があげられ,それに対する解答というかたちで構成されている。内容は,薬物の生体内変化(代謝)の部位と経路,それに与える薬理ゲノムなどさまざまな要因,そして最後に,まとめと将来の展望,参考文献,とつづく。「本書はヒトの生理学,生化学,病態生理学の枠組みの中での薬物の作用の理解を提供している(序文より)」,というGolan教授とTashjian教授の基本的な考えが見事に体現されている。具体的な症例から学ぶ,という切り口は臨床医にとってまことになじみやすいが,適切な症例を探すのはたやすくない。にも関わらず,全52章のうち,「細胞興奮性と電気化学的伝達の原理」,「抗菌薬,抗癌薬の薬理学の基礎」,「併用化学療法の原理」,「蛋白質製剤と遺伝子による治療」の4つの章以外は,すべて症例提示から始まっている。「ヌクレオチド合成の薬理学」や「毒物学の原理」というタイトルの章で,いったいどのような症例が提示されるのか興味深いではないか。前者では1939年,プロントジルの発見でノーベル賞生理学賞を受賞したG.Domagk医師の娘,後者ではベンゼン暴露で汎血球減少症となったゴム工場で働く26歳の女性の話からはじまる。

 本書を,薬物の作用機序のなかで薬理学を理解させるような教科書として完成しえた最大の理由は,ハーバード大学医学部の教官39名とハーバード大学医学部学生43名の共同執筆であるということではなかろうか。最終原稿までのすべての過程を両者が緊密に連絡しあい,共同で作業して完成させたのだという。各章には実にわかりやすい明快な図が用いられているし,臨床の場面で問題とされるだろう点が随所でコメントされている。執筆に参加した医学生にとって,なんという恵まれた勉学の機会であっただろうか。また,根気よく学生を指導した教官の熱意にも圧倒される。

 諸外国で翻訳されている本書は,いずれの地でもたいへん評判がよいとのことである。真にすばらしいものは,文化であれ学問であれ,民族を越え国をこえて,常にグローバルに受け入れられるのだということがよくわかる。このたび,清野裕教授を監修者とし,京都大学関連の諸先生方が各パートの監訳者を受け持たれて日本語版が完成した。全体に統一された読みやすい日本語で,それが本書の価値をさらに高めている。多くの方々の座右の書としてお勧めしたい。

A4変・頁962 定価12,600円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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