第2711号 2006年12月11日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第24回〉
美しい死

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 「介護職員の中には,入所者との別れがつらく,何かしなくてはいけないという気持ちや自分のケアがこれでいいのかといった看取りに対する不安があり,入所者が亡くなったことについて罪悪感を抱く人もいます。このような場合,どのように対応したらよいでしょうか」という質問が出された。10月末に開催された「これからの特別養護老人ホームにおける看護リーダー養成研修」において,看護のあり方(総論)を講義したあとのことであった。

特養における看護サービス

 「特別養護老人ホームにおける看護サービスのあり方に関する検討会」(座長=伊藤雅治,平成16年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金事業)は,特別養護老人ホームの看護サービスのあり方について次の5点を明らかにした1)

1)特別養護老人ホームは,生活の場であるという位置づけを再確認し,そこでの看護活動は入所者の生活ニーズを優先した視点を基本とすべきであること。
2)特別養護老人ホームの看護の特徴は,日常生活を通じた健康管理であり,高齢者では疾患の予防や早期発見が重度化の予防につながること,そのためには多職種,特に入所者と直接の接点が多い介護職員との連携が重要であること。
3)看護の具体的なアプローチとして,入所者の尊厳を保持し個別性を尊重した,個人に対するアプローチが重要であるとともに,重度の高齢者が集団で生活する場であるため,生活環境に対するアプローチも求められること。
4)いずれのアプローチにおいても,介護職員との連携は重要であり,個別のアプローチについてはケアプランを基本的な指針とし,看護職員と介護職員の配置やシフトの工夫,記録の一元化やシステムの構築による情報共有の工夫が必要であること。
5)医療機関ではなく,施設で看取りを行ってほしいという入所者や家族の要望に応える中で,特別養護老人ホームにおける看取りのあり方としては,日常生活の延長としての看取りが望ましいと考えられること。

看護職よ,死を大らかに語れ

 日本は先進国で最も国民が死なない国であり,死亡率(人口千人あたりの死者数)は,2005年で8.5であったがそれももはやこれまでと朝日新聞(2006年11月19日)は報じている。それによると,1982年の6.0を底にじわじわと上昇中であり,国連の推計では2050年には終戦直後と同じ14前後になり,ドイツと並ぶ高死亡率国となる。大量死時代が到来するのは,高齢者の割合がどんどん増えるからであり,現在でも死亡者の半分は80歳以上が占める。だが,時代は進んでも人は死に方を選べない。死因はがん,心臓病,脳血管疾患が圧倒的に多く全体の6割を占め,天寿をまっとうしたと言える老衰は2%であるという。おもしろいことに,全国一高齢化が進む島根県は老衰による死亡率が2位(2003年)であったのに対し,高齢化率が3位の高知県は22位であったという。高知県は病院が多いので,医療的介入による病死が増えるのであろうと私は推測した。

 いずれにしても,2038年には死亡する人の数が170万人に達するという人口推計がありもはや個人の死は国家的な政策課題となっている。20世紀は,医学の進歩により病気を治すための医療が発展し,「スパゲティ症候群」なるものも出現した。しかし,21世紀は人々が再び「人は死ぬものである」ことを思い起こし,いかに安らかに美しく終わるか,どこで終えるかを考え選択する時代であると思う。

 そこで,点滴により水ぶくれになり,ドレーンにより感染や出血をきたす,とことんやる医療が必ずしもすばらしいことではないことを知っている看護職が,美しく終えるためのあり方をもっと人々に語り告ぐべきであるというのが,冒頭の質問への私の答えである。日常生活の延長としての看取りを行う特別養護老人ホームなどでは,死をタブーとして扱うのではなく大らかに語れるのがよい。

つづく

引用文献
1)伊藤雅治,井部俊子監修:特別養護老人ホーム看護実践ハンドブック――尊厳ある生活を支えるために,231頁,中央法規,2006.