医学界新聞

 

【連載】

英国の医学教育から見えるもの
ダンディーからの便り

[第9回] ダンディー大学医学教育センター

錦織 宏(ダンディー大学医学教育センター・名古屋大学総合診療部)


前回よりつづく

 今回は留学生活記の続編も兼ねて,ダンディー大学の医学教育センターについて紹介したいと思います。

 スコットランドの首都エジンバラから北に電車で1時間強ほど揺られていくと,川の向こうにダンディーの町並みが見えてきます。人口15万弱のこの小さな町には,以前ジュート(繊維)産業が栄えた歴史もありますが,現在は大学の街として世界各国から多くの学生を受け入れています。地元に住むスコットランド人は顔の彫りが深く,一見やや怖い印象も受けますが,話してみるとほとんどの人がとても温かく親切です。ただ米国人ですら通訳を必要とすると言われるスコティッシュイングリッシュには独特の発音や単語があり,理解にはしばしば困難を伴います。

 そんな田舎の小さな町ダンディーに1972年,医学教育研究を主な目的として,英国最初の医学教育センターが設置されました。初代教授のハーデン先生(写真)や現センター長のデービス先生をはじめとする同センターのスタッフにより,OSCEや螺旋カリキュラム・ポートフォリオ・BEME(Best Evidence Medical Education)など,多くの医学教育の先進的な試みがここダンディーから発信されています。また同センターは,欧州医学教育学会(AMEE)の事務局や医学教育学の国際雑誌Medical Teacherの事務局,またIVMED(International Virtual Medical School)の本部も兼ねており,文字通り欧州の医学教育におけるメッカであるとも言えます。

写真 Best Evidence Medical Educationの授業の後のハーデン先生(左)と筆者。医学教育の将来の夢を楽しそうに語られる姿はまさにロールモデル。

 またこのダンディー大学医学教育センターには医学教育学を学ぶための大学院課程として,Certificate・Diploma・Master・PhDのコースが設けられています。Certificate・Diplomaのコースでは,自分が実践している(きた)教育について振り返りながら,医学教育理論について学んでいきます。また医学教育研究の基礎についても若干触れ,それがMasterコースにおけるプロジェクトの実践へと繋がっていきます。私はこのコースをダンディー現地で履修していますが,クラスの仲間は世界中から集まってきており,同級生の顔ぶれとしては,アフリカから3名,中東から4名,アジアから5名,北米から1名というところでしょうか。コースの内容そのものも大変勉強になりますが,こういった医学教育に情熱を傾ける仲間と共有する時間こそが一生の財産になるとも感じます。また欧米の一部の医学教育先進国を除くと,多かれ少なかれ医学教育に関する問題はどの国も抱えているということを知り,日本だけの問題ではないということもわかりました。

 またこの大学院課程は遠隔学習(通信教育)によって履修することもできます。医学教育に関わる方々が現場からなかなか離れられない現状や,理論を教育現場の実践に結びつけることこそがアウトカムであるということを考えると,学んだ理論をリアルタイムに実践に反映させられる遠隔学習のほうが利点があるとも言えます。本コースは英国のみならず国際的にも評価が高く,現在,全英から約2000名,その他世界各国から約1200名,日本からも11名の方が履修中です。医学教育現場でいろいろ悩みを抱えておられる先生方,ぜひご一考されてはいかがでしょうか?

つづく