医学界新聞

 

変革進む英国の周術期看護

第20回日本手術看護学会の話題から


 さる10月27-28日,第20回日本手術看護学会が,久保田由美子会長(東女医大)のもと,幕張メッセ(千葉県)において開催された。「近未来の手術看護を創造する――手術室看護師の役割とコラボレーション」をテーマに行われた今学会では,海外から多数の演者を招き,未来の手術看護の「役割と責任」について意見が交わされた。本紙では招待講演のもようを中心に紹介する。


在院日数短縮化と看護の役割

 招待講演「英国の周術期看護――現在そして未来へ」に登壇したKate Woodhead氏(前国際周術期看護師連盟会長)は,英国医療の変遷と,周術期看護の未来像について語った。

 NHS(National Health Service;国民医療保険サービス)は,英国の医療制度の大きな柱となっている公的機構である。Woodhead氏は近年におけるNHSの変革の歴史を概観したうえで,まず,NHSの大きな特徴として「資金が限られた組織」であることを強調。

 NHSの財源のほとんどは税収であり,経済状況が予算決定の枠組みを構成する。そのためNHSの運営は本質的に需要に応じたものではなく,その現状は「かつてない国民の高齢化に伴って,医療需要が供給をはるかに上回っており,合理化を進めざるを得ない状況」であると解説した。

 そうした背景のもと,英国では地域・在宅で施行される医療処置が年々増加している。Woodhead氏は「病床利用率は収容可能数の95%に達しており,平均在院日数は4日程度になっている。こうした環境の変化の中で,私たち看護師に求められることは何か」と会場に問いかけた。

未来の看護師像?

 Woodhead氏が描く未来像は,看護師や,その他のヘルスケアスタッフが,手術や麻酔など,さまざまな役割をボーダレスに担うというものだ。

 英国ではすでに,付加的研修を受けた看護師が外科手術の一部を行っていること,また,先進国の80%以上において麻酔担当看護師による麻酔が行われている現状を紹介したWoodhead氏は「近い将来,日帰り手術を受ける患者さんにかかわる医療スタッフの中に,1人も医師が含まれない,というケースが日常的に生じると私は考えています。これを単なる空想だと批判するのは簡単ですが,大切なのは未来における根本的変化に備える心構えを持つことです」と述べた。

 Woodhead氏は,そうした未来の変化に対応するために必要なこととして「計画を開始する正しいタイミングに気付き」「自分の考えに賛同する支援者を見つけ」「ヴィジョンを持つこと」の3点を挙げ,講演をまとめた。

日本の周術期は変わるのか

 講演終了後,Woodhead氏の刺激的な議論に対し,多くの質疑応答が寄せられた。数名の質問者から寄せられた「看護師が手術を行うことの安全性」についてWoodhead氏は,「英国のナースが手術を許可されるには高い学位(博士号取得が要件),豊富な経験,数年にわたる研修が必要とされている。新人医師よりもむしろ資格としてのハードルは高い」と答えたほか,法整備についても,「現在認められている施術については整備済」と説明した。法的問題については「施術を行う看護師が外科医と同様に法的責任を負う」という解説には,英国と日本との状況の違いから,会場からはどよめきも漏れ聞こえた。

 Woodhead氏の講演はあくまでも英国の現状を紹介するものではあるが,看護師による麻酔が朝刊紙の紙面で報じられるなど,社会的関心の高い話題であることも確かであり,本邦における周術期看護についての議論を予感させる講演だった。