医学界新聞

 

【視点】

医師も病院の外に出て,救急患者の救命を
病院前救急診療研究会の創設

小濱啓次(川崎医療福祉大学教授)


 医師本来の姿は,村や町の診療所で毎日人々に接し,往診を頼まれれば出向き,患者を診療し,他に相談があれば応じ,村の先生,町の先生として地域医療に密着した診療を行うことにあったと思う。しかし,医学,医療が進歩したことによって,診療所が病院になり,病院は総合病院になって,地域に密着した医師像,医療は薄れていった。医師が病院の中で24時間患者のために必死に働いていても,その姿は国民には見えない。国民に見えるのは,マスコミを賑わす研究や技術向上のために起きてしまった医療過誤であり,医療事故である。

 救急医療は医(医師,医療)の原点と昔から言われている。しかし,今では,救急救命士の業務拡大が進み,除細動は当然のことながら,気管挿管,エピネフリンの使用など,本来,医師の業務であったことが,救急救命士の業務になりつつある。薬剤もエピネフリン1種類では救命に不十分と,アトロピン,リドカインの使用にと拡大しつつある。医師のなかには,救急患者発生現場に出向くのは救急隊員なので,患者の救命は救急救命士に任せるべきだと,救急救命士の業務拡大をさらに推し進めようとする動きもある。しかしながら,医師が救急患者発生現場に出動し,治療に当たれば救命率が向上し,予後も改善する。このことは,ドクターカーやドクターヘリの実績で証明されている。

 医師の本来あるべき姿を国民に示し,理解してもらうためには,医師が不足している今日,困難なことではあるが,医師会や学会が中心となってドクターカーやドクターヘリのように,医師が救急現場に出動し,患者の救命に当たるシステムを全国規模で広げ,国民に示す必要がある。このためには医師が救急現場に出動する病院前救急診療体制の確立が必要と考える。このことから,2006年12月15日13時から,東京ガーデンパレス(御茶ノ水)で,ドクターカーやドクターヘリなど,医師が病院前に出動し患者の診断・治療に当たるシステムを研究する病院前救急診療研究会が開催されることになった。この研究会が発展していけば,救急医療が医の原点であることが,医師にも国民にも理解されると思われる。


略歴
1964年奈良医大卒。65年聖路加国際病院インターン修了,69年阪大大学院修了。70年ユタ大メディカルセンタークリニカルフェロー,71年兵庫県立西宮病院救急医療センター医長。75年川崎医大助教授・救急部長,77年同大救急医学教授,83年同大付属救命救急センター部長を経て,2004年川崎医療福祉大教授。