医学界新聞

 

変化する環境-救急救命士の役割を考える

第7回首都圏救急医療ミーティング開催


 さる9月2日,第7回首都圏救急医療ミーティングがシオノギ渋谷ビル(東京都渋谷区)にて開催された。本ミーティングは「職種・職域を越えて救急医療の現状を討議する」ことを主旨としている。今回,「救急救命士の新たな職域を求めて」(座長=東医大・田口博一氏,埼玉医大・根本学氏)および,「ガイドライン時代の救急医療」(座長=埼玉医大・高平修二氏,東医大・太田祥一氏)をテーマに,医師・看護師・救急隊員などさまざまな視点から今後の進むべき方向性を探った。


 シンポジウム「救急救命士の新たな職域を求めて」では,救急救命士の置かれている現状について総括し,今後,救急救命士の活動の場をどのように広げていくか示唆に富むものであった。

救急救命士の新たな活動の場

 現在,救急救命士法第44条において,救急救命士が救急救命処置を行うには「医師の具体的な指示を受けなければならない」。また「救急用自動車等(搬送中)」に限定されている。このため,病院所属の救急救命士が院内で救命処置を行うことは不可能である。また,院内での立場は看護助手となり,救急救命士資格を生かせていないと言及された。そこで病院所属の救急救命士を活用するために「ドクターカー」「ドクターヘリ」などで院外出動や,救急救命士特有の技術を伝える場の創設,院内における役職の確保など救急救命士を活用する場を作る必要性が指摘された。病院所属の救急救命士を活用する場の例として,(1)学生・研修医・看護師などへの救急現場教育,(2)看護師・研修医の救急車同乗実習カリキュラムの策定と運用,(3)災害医療救護班のスタッフとして参加,など現場・実地に即した教育のほか,救急救命士の質向上を目的とした学会発表への積極的な参加を挙げた。

 また,救急救命士が,(1)病院の医師から少しでも早い指示が受けられる,(2)高度な救急処置を行った後,医師が専門的見地から検証する,(3)さらに高度な救急処置を行うための教育を実施する,メディカルコントロール体制の構築にも積極的に救急救命士自体が関わっていくことが重要と述べた。

 関連事項として病院主体の市民への啓蒙活動についても触れた。救急時における(1)市民ケア(preambulance care),(2)prehosipital care,(3)hospital care,の救急ケアサイクルが途切れないことが重要。サイクルを途切れさせないためにも,特に起点となる市民ケアへの啓蒙活動は病院所属の救急救命士が活躍する場となるはずと提言された。

プレホスピタルケアの高度化に対応するため

 救急救命士の業務拡大の流れ(表)を受け,救急救命士の質を保証する教育・養成のあり方が話題に上った。現在,救急救命士の養成機関には,消防機関・専門学校・大学があり有資格者は着実に増加しているが,知識・技術の質が十分満たされていると言い切れない。その理由として卒後教育システムが挙げられ,医師のように教育システムが整備されていないこと,そして実地において技術教育を医師-医師のように,救急救命士-救急救命士ですべて行ってもよいのかなど,難しい状況にあると報告された。そこでまずBLS(Basic Life Support)を基礎として,ICLS(Immediate Cardiac Life Support),JPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)など標準化された技術を習得していくことが必要と指摘。また事後検証制度の導入についても言及され,新しい知識・技術を持った評価委員が行っていくシステムの構築が必要との意見も出た。

 救急救命士の業務拡大の動き
1963年 消防任務として救急業務が開始
1986年 救急隊員教育課程
1991年 救急救命士制度創設
2003年 気管挿管が認められる
2006年 薬剤投入が認められる

 現在,医療に標準的な対応が求められている中,救急救命士にも(1)教育の標準化,(2)手技の標準化,(3)ガイドラインに沿って行われたかの検証,が求められていると発言があった。手技については,経験だけに基づいて行われていないか,ガイドラインに則っているか確認することが重要と提示されたが,「ガイドラインは道標であって,ガイドラインに則った対応をしていけばよい」というものではないと釘も刺された。

 最後に救急救命士の教育の場が専門学校から短期大学,4年制大学へと高度化していることは,医師・看護師・薬剤師等の教育に肩を並べたことを意味し,救急救命士への期待が高まっていることを明示している。救急救命士は「国民の要望を的確に汲み取り,国民の利益を守るために組織的に取り組むと同時に,自己研鑽していくことが重要になってくる」と根本氏が述べ,シンポジウムを閉じた。