第2702号 2006年10月9日


MEDICAL LIBRARY 書評特集


統合失調症の薬物治療アルゴリズム

精神科薬物療法研究会 編
林田 雅希,佐藤 光源,樋口 輝彦 責任編集

《評 者》石郷岡 純(東女医大教授・精神医学)

信頼性と実用性をバランスよく盛り込んだ書

 1998年に日本版の統合失調症と感情障害に対する薬物治療アルゴリズムとして,『精神分裂病と気分障害の治療手順』(星和書店)が刊行されてから8年が経過した。当時はまだ臨床の現場では治療を一定の手順に沿って進めるという考え方そのものが未成熟であったので,薬物治療の進め方に対する考え方とその根拠となるデータを整理して提示したという点で先駆的なものであった。しかし,その後,新規の抗うつ薬,抗精神病薬の発売が相次いだため早期の改訂が待たれていた。ひと足先に『気分障害の薬物治療アルゴリズム』(じほう)が出版されたが,このたび統合失調症のアルゴリズムを扱った本書が刊行された。

 アルゴリズムの作成法には,科学的根拠(エビデンス)を渉猟して,それを実証レベルによって分類し,中立的な視点で構成していく手法と,エキスパートなど臨床家の意見から構成していく手法に大別できるが,本書では前者を採用している。また,アルゴリズムの日本版を作成する観点から,わが国のエビデンスを中心に構成されている。この手法は客観性が高いという利点がある一方,エビデンスの蓄積状況は研究の進展如何にかかっているので,領域によっては,あるいは地域によってはエビデンスが不足していることもある。そのため,本書では,臨床家の意見も実証レベルの低いエビデンスとみなし取り入れることで,現実の臨床と乖離しないように配慮がなされているので,信頼性と実用性がバランスよく盛り込まれた内容になっている。

 本書は7章で構成されており,はじめの4章では有効性に関するエビデンスに基づいたアルゴリズムが示されている。第1章は急性精神病エピソード,第2章は維持薬物療法であり,諸外国の多くのアルゴリズムとも矛盾のない信頼のできるものである。第3章は慢性期の陰性症状に焦点を当てた,本書のユニークな項目であり,わが国で抗精神病薬の多剤大量療法がまだ一般的であることを背景にして作られた,実践的な内容となっている。第4章は治療抵抗性精神病エピソードで,わが国にはクロザピンがないため,抗精神病薬の併用といった,諸外国ではクロザピンの後に来るオプションが繰り上がって上位に位置されるなど,作成に苦慮した跡が忍ばれるものとなっている。第5章,6章は副作用に対する治療アルゴリズムで,有効性に比べエビデンスの質も揃えやすいので,記述もより明確である。

 アルゴリズムの書物はともすれば無機質なものになりがちであるが,本書では抗精神病薬の作用機序を説明した1章が最後に設けられており,これをアルゴリズム理解の補助とすることで,生きた臨床のための1冊にすることを可能にした,こころにくい編集である。

B5・頁136 定価3,675円(税5%込)医学書院


標準小児科学
第6版

森川 昭廣,内山 聖,原 寿郎 編

《評 者》伊藤 善也(日本赤十字北海道看護大教授・基礎科学)

臨床のすべての科で必要な小児の知識を収載

 小児医学は広い分野を包含しているので勉強しづらいと学生がよく嘆く。確かにその通りだと思う。500gに満たない超低出生体重児から生活習慣の改善指導に悩む100kgを超える学童までその裾野は広い。また小児科医を看板として掲げて診療していても出会ったことのない疾患が山ほどあり,これからも出会う可能性が低い疾患も数多い。しかし,だからといってそのすべてを捨てることはできない。日常診療で出会う些細な徴候から診断に至り治療へと結びつける醍醐味は何ものにも代え難いからである。このようなところに惚れて小児医学の深みにはまった方も多いと思う。

 さらに小児医学に関する情報は量的にも質的にも膨張し続けている。深みにはまった私たちは気がついたら溺れているというのが現状である。そのような時代だからこそ明確な羅針盤が必要であると感じていた。

 『標準小児科学』はそのような私の希望に叶うものである。本書を紐解くと森川昭廣教授の前書きがあった。「学生に“標準小児科学とは?”と聞くと,“正確で,欠落した部分がなく,そしてわかりやすい。少々細部にわたり過ぎる部分もあるが,臨床のどこの科へ行っても子どもはくるから,卒後も使える”という」。御意・ 本書は小児科のすべての領域を網羅する705頁の本文から成っているがそのなかに写真がいくつも配置されているのに加えて,冒頭にはカラー写真が14頁にもわたって掲載されている。言葉で覚えようにも頭に残らないが,写真はイメージとして脳に焼き付けられる。

 さらに,この版の新たな試みは「やってはいけないこと」,「アドバンス」と「参考となるホームページ」が追加されたことである。医療過誤が個人の責任として社会的にも追及される時代となった。そのような時代に小児を診る機会があるすべての医師に「やってはいけないこと」は役に立つ知恵となるに違いない。また医学生にとってはその一言が小児疾患とそのケアに興味を抱くきっかけともなろう。また小児医学を志そうとするものにとって「アドバンス」は教科書の後ろに広がる世界を垣間見させてくれるウィンドウになる。このような本書はひとつの読み物としてとらえることができるかもしれない。

 医学は日進月歩であることは論を俟たない。『標準小児科学』は今回の改版で89頁(本文)も頁数が増えた。これからも教科書に盛り込むべき内容は増え続けるに違いない。しかしこのような進歩を毎日の生活のなかで追うのは難しい。そのようなときに活用する手段のひとつがインターネット検索である。各分野の大家が推薦するサイトが「参考となるホームページ」として掲載されているので情報を入手するのにとても役に立つ。

 さて『標準小児科学』は表紙の子どもの写真がわれわれを和ませてくれる。第5版と比べると顔ぶれが一新された。これは編集された森川昭廣教授,内山聖教授あるいは原寿郎教授のお子さん? お孫さん? であろうか。想像をたくましくしながら書評の筆を擱かせていただく。

B5・頁792 定価9,240円(税5%込)医学書院


糖尿病療養指導士のための
糖尿病外来ケア・チェックシート

吉岡 成人 編

《評 者》朝倉 俊成(新潟薬科大助教授・薬学部)

CDEJの強力な味方 実践に即した着目点を収録

 2000年に発足した日本糖尿病療養指導士(CDEJ:Certified Diabetes Educator of Japan)は,多くの糖尿病患者さんの療養生活について糖尿病を専門とする医療スタッフでサポートするために誕生した。2006年で6年目を迎えるが,残念なことに臨床現場でCDEJとしての力を思いきり出しているスタッフは多いとはいえない。その最大の理由は,多忙な臨床業務の中で患者さんの療養生活や心理を聞き出しながら,糖尿病治療に関するプロブレムを整理する余裕がないからではないだろうか。特に,入院とは違って,患者さんとの1本勝負である外来でのケアは,“CDEJとしての視点(着目点)”の良し悪しが大きな鍵となる。すなわち,いくら有能であっても,現在の多忙な外来診療の中で,十分な時間をかけて患者ケアを考えることが可能なCDEJは少ない。

 そのような時に発売された本書は,CDEJのためにまとめられた実践書であり,これを活用することでCDEJとして必要な“着目点”を効率よく押さえることができる画期的な書籍である。決して初めから通し読みしなければならないという教科書ではない。したがって,本書の使用法は実践に即して多岐にわたる。外来患者さんにあわせてチェックシートを短時間で完成させることに用いるのもよいし,スタッフ間の啓発活動の一環として,模擬患者を提示しながらチェックポイントと解説を読みながらディスカッションすることで患者ケアの訓練を行うことも可能である。さらには,糖尿病のクリティカルパスを運用する上でのバリアンス評価の基準作りや,療養指導計画立案での項目作成に非常に役立つものと考える。つまり,本書は糖尿病療養指導の実践的ケアのエッセンスを非常に効率よく習得できるようまとめ上げられたもので,常に座右に置きたい1冊である。CDEJであっても,またこれからCDEJを目指すコメディカルや,専門病院のスタッフであっても,近くに糖尿病専門医がいない環境下であっても,本書が強い味方になることは間違いない。

B5・頁144 定価2,415円(税5%込)医学書院


レジデントのための
腎疾患診療マニュアル

深川 雅史,吉田 裕明,安田 隆 編

《評 者》小松 康宏(聖路加国際病院・腎臓内科)

自信をもって推薦できる腎臓内科の教科書

 米国で有名な医学ジョークに,腎臓内科医をネタにしたものがある。

What do you get if you cross a librarian with a nephrologist ?
All the information you need, but it won't do you any good.
「図書館司書と腎臓内科医に出会ったら何が手に入るか?」
「必要な情報はすべて得られるがあまり役に立たないよ」

という腎臓内科医からすると憤慨ものである。

 もっとも,腎臓内科医は何でも知っているとみなされているなら光栄ではあるが。

 腎臓内科が対象とする患者,疾患群はきわめて広い。私自身,毎日のように他科からのコンサルテーションを受けているが,すべての診療科,すべての病棟が対象となる。造影剤を使用するinterventionやNSAIDs投与の可否,化学療法・抗生物質投与の用量調節,輸液,栄養処方,体液量管理,血圧管理,電解質異常の診断と治療,透析の適応と選択など限りない。

 本書のはしがきにあるように,日本の大学病院での腎臓内科教育,あるいは日本の腎臓内科の教科書の記載量は必ずしも一般診療における腎臓内科に期待されるものとは一致しない。ネフローゼ,腎炎はそれほど多いわけではなく(重要な疾患であることに異論はない),むしろ病棟医にとっては軽度腎障害症例への対処,電解質・酸塩基平衡異常,急性・慢性腎不全の診断と治療に難渋することが多い。

 高齢化,糖尿病人口増加により慢性腎疾患患者が急増していることは社会的な問題でもある。米国の統計(NKF)によれば,中等度腎機能低下(GFRが60ml/min/1.73m2以下)を有する慢性腎疾患は人口の5%を占めるといわれ,筆者の病院の統計でもICU,CCU入室患者の2-3割はすでに腎障害を有している。今後,臨床に携わるからには診療科を問わず慢性腎疾患患者の診療を避けて通るわけにはいかない。ある意味で臨床医のたしなみ,初期研修で身につけるべき基本的知識,技術に含まれるであろう。

 臨床研修病院で指導医をしていると,研修医から腎臓内科の教科書は何がよいか尋ねられることが多い。残念ながらこれまでは,まずはこの本を,と自信をもって推薦できる日本語で書かれた臨床腎臓病学の本はなかった。初めてこの本を手にしたときに,ついに待望していた本が出版された,という感慨を抱いたことを覚えている。

 腎臓病学が初心者に取り付きにくい感じを起こさせる一因は,腎臓病の診療においては病態生理の理解が欠かせないことにある。病態生理の知識なしに「マニュアル」的な対応で高Na血症,低Na血症を治療した場合,ある程度の「適当な」治療でも,腎機能が正常であれば治療が奏功したかにみえることもあろうが,いずれ大きな痛手,iatrogenicな電解質異常を招きうる。

 本書がこれまでの日本語の腎臓病の教科書・マニュアルと異なるのは,臨床の現場で役に立つ疾患・症候群を網羅し,病態生理の理解のうえにまとめようとしている姿勢にある。院内に腎臓病専門医・コンサルタントがいない場合には,コンサルテーション腎臓病医の代用となるであろうし,より理解を深めたいときには最新の文献が示されている。研修医は,さらに自分の経験を書き加え,各章ごとに実際の経験した患者さんが思い出せるようになればすばらしい研修をしたことになるであろう。

A5・頁496 定価5,040円(税5%込)医学書院


麻酔科研修の素朴な疑問に答えます

稲田 英一 監修

《評 者》青山 和由(国立成育医療センター・手術集中治療部)

指導医と充実した討論後の満足感を読んで味わえる

 本書は,麻酔を核とした総合誌“LiSA(リサ)”において「研修医の素朴な疑問」というテーマで計5回に及んで掲載されていた人気シリーズをまとめたものである。このシリーズは,筆者が麻酔科研修を受け始めた頃に掲載されていた思い出深いものでもある。今回,本書を作成するにあたって当時掲載されていた内容に加筆・訂正が施され,また新たなテーマも取り上げられている。

 目次を眺めてみると,「素朴な疑問」は全部で83あるようだ。一つひとつのテーマを追っていくと,筆者が麻酔科研修を行ってきた中で抱いた疑問も多く含まれている。当時の疑問はすべて解決してきたのだろうかと思い返してみたところ,理解せずに覚えてしまっていたことが多いと気づく。本書をきっかけに多くの疑問を解決できればと思う。

 本書の全体的な特徴として,説明やコメント付きの図・表が多用されており,理解にかなり役立ちそうだ。B5サイズで256頁なので,麻酔科研修中に持ち歩くとしても不便さを感じない。値段は医学書としては標準的な設定である。ただし,内容を考えるとかなりお得感があるだろう。

 気になる疑問を見つけた。「静脈路確保に局所麻酔は必要か?」である。研修医時代ある指導医から,「リドカインテープなんて貼り付けが面倒だし,本当に効いているのかよくわからない」と言われたことがある。その時から,リドカインテープはあまり有効ではないと思い込んでいた。だから,自分で患者さんに試したことすらなかった。本書を読んでみて,しっかり貼れば有効なのだと感じた。そういえば,研修医時代に静脈ラインの確保で学童期の女の子を泣かしてしまい,術後回診で注射が痛かったと言われ落ち込んだ気持ちになったのを思い出した。やっぱり患者には優しくありたい。本書には根拠となるデータ以外にも実際のコツが多く書かれているので,指導医に難色を示されても進言しやすいかもしれない。

 懐かしい疑問を目にした。「硬膜外腔の見つけ方は空気か,それとも生理食塩水か?」である。麻酔科初期研修を受け始めた当時に“LiSA”で読んだ思い出深い文章である。当時の施設の指導医は全員,硬膜外カテーテルを留置する時は空気による抵抗消失法であった。当時の筆者は,硬膜外腔の見つけ方とはそういうものだと思い込んでいた。ただ,一人だけ非常勤の先生が生理食塩水を使っており,変わった方法だなと思っていた。刷り込みとは怖いものである。そんな時に目にしたのがこの疑問であった。内容は生理食塩水のほうがよいというものであり,もちろん筆者は翌日から生理食塩水を使い続けることになった。指導医が空気じゃないのだねと言ってきた時に,“LiSA”に書いてあったのでと応えた記憶がある。根拠となる論文が多数示されていることは大変有難いことである。本書はまさに多くの理論的根拠から構成されており,知的好奇心をくすぐると同時に日常診療を支えてくれる。

 本書を読み終えて感じたことは,日常診療の中で指導医と充実したディスカッションを行った後に得ることができる満足感を,読んで味わうことができるという点である。ふとした疑問に知的興味をかきたてる解答をしてくれる指導医のような一冊である。

B5・頁256 定価5,040円(税5%込)MEDSi
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