医学界新聞

 

Dream Bookshelf

夢の本棚 11冊目

渡辺尚子


前回よりつづく

■看護師(ナース)がいなくなる?

著:フェイ・サタリー
訳:田中芳文
西村書店
2005年
B6判,278ページ
1260円(税5%込)

 今日も,具合いの悪い患者さんが多くて,気がついたらため息をついていた。周りのスタッフも同じ。休憩室の椅子に座ると,雑談もせずみんな「ふぅ……」とためいきをついて,下を向く。そして,休憩時間にもかかわらず,ナースコールの音に引っ張られるように,ステーションに戻っていく。

 私はといえば,帰って食事もせずに眠りについた。「布団に沈む感じって,このことを言うのだわ」と思いながら……。

 「また来たね,あなたの書斎に……」あっ,先生!「先生,聞きたいことがあるんです。あの時なぜ?……」と思っている間に,書棚から一冊の本が私の足元に落ちてきた。走り回るナースの漫画が表紙に書いてある。書名はなんと『看護師(ナース)がいなくなる?』。

 「そうよ! こんなに忙しい状況では,ナースはいなくなるわ!」そう思いながら,著者紹介を見ると,「フェイ・サタリー:登録看護師,癌専門看護師,認定登録静注看護師。マーサ・ジェファーソン病院(ヴァージニア州シャーロッツビル)……」とあり,アメリカの看護師だとわかった。

 「はじめに」から,アメリカの厳しい看護師の職場状況が書いてある。そして,第1章「ある看護師の1日」。忙しく働く主任看護師カレンの様子が,さまざまな統計データをちりばめながら描かれている。第2章に読み進んでいくうちに「アメリカって,日本より進んでいると思ったけど,同じような問題があるのね」と,複雑な気持ちになってくる。

 第3章では看護師の視点ではなく,病院の経営者の1日が描かれている。「そうか,経営者も案外大変なんだ」。そして,第5章ではケアを行う時点での批判的なものの考え方や意思決定能力を行使できる機会を看護師たちに与える必要性やチーム医療によるアプローチの大切さが述べられている。次の章では患者の視点から,よいケアサービスを受けたケースと,そうでないケースが紹介されている。さまざまな視点から病院,そして医療を考える必要性が感じられてくる。「そうか,私たちは病院全体の中でどのように働いていくのかを考えていかなくてはいけないのね」ちょっと自分の立場を,客観的に見ることができた気がする。

 読み進めていくと「看護師の離職率が高い病院は,離職率が低い病院に比べて,患者の平均入院期間が長い」といったデータが紹介されていたり,「マグネットホスピタル」の重要性が指摘されている。スタッフ全員参加の管理スタイルを持つマグネットホスピタルでは,メディケアの患者の死亡率が低く,また看護師の針刺し事故が少なく,患者の満足度が高いこと。そしてそれがまたよい看護師をひきつけ,患者をひきつける病院になっていくと書いてある。私たちの考え方と動き方が,病院を,看護を元気にし,患者さんにとって魅力あるものにできるのだわ!

 目が覚めたら,ちょうど夜明けだった。私たちナースも,これからなんだわ,この夜明けのように! これから私たち日本の医療を元気にしていかなくちゃ! そんなスタートラインに立つ気持ちの朝を迎えた。

次回につづく


渡辺尚子
仕事量の増加とともに,いつの間にか,話す言葉も,行動も,そして目の動きも速くなってしまった自分をリセットし,また「穏やか」な私に戻りたい……,と「夏休み」に期待している日々である。