医学界新聞

 

激動の時代だからこそチャンスに

第10回日本看護管理学会開催


 さる8月25-26日の両日,第10回日本看護管理学会が鶴田惠子大会長(日赤看護大)のもと,都市センターホテル(東京都千代田区)にて開催された。メインテーマは「看護管理学の進化,さらなる変革への挑戦――激動時代を生き抜くために」。診療報酬改定での看護師配置基準変更など,看護師を取り巻く環境の変化を捉えた多くの一般演題が採択された。本紙では,看護師配置に関連した講演,シンポジウムを取り上げる。


 大会長講演「看護管理のパフォーマンスと知」で鶴田氏は,「看護師が本来の業務をきちんと行える環境整備をすることが重要」と語り,ベッドメイキングや外来の受付業務など無資格者業務の再構築の具体例を提示。

 看護管理パフォーマンスの「知」については,「すでに頭の中にある」と述べ,「必要としているものを整理し,それに基づいた目標の作成,実働人員の組織化を行い,組織には必ず権限を付与することが重要」と付け加えた。

 今後の課題として,(1)患者のニーズに耳を傾けた看護業務の拡大と専門看護師業務内容の発達,(2)卒後臨床看護研修や人事制度の検討などの人的資源管理,(3)看護管理者教育,(4)改革へ参画するためにも政策を提案していくこと,が必要と述べた。

 金井Pak雅子氏(東女医大)は「看護師労働環境の国際比較」と題し,Linda Aiken氏(ペンシルベニア大)との共同研究を報告。看護師の離職問題については,看護師を惹きつけるマグネットホスピタルの構築についても言及。はじめからマグネットホスピタルを目標に実行するのは難しいことを述べ,「まずマグネット病棟から開始し,最終的にマグネットホスピタルを作り上げる」と,小単位から徐々に広げていく方法を提案。そのためにも看護師が働く環境に関してサポート体制の充実や雇用形態の変革などが必要と示唆し,壇を降りた。

看護師の最適人員数・配置を探る

 シンポジウム「最適なスタッフィング構築への戦略」(座長=日本赤十字社・浦田喜久子氏,看護コンサルタント・北浦暁子氏)では,開催に先駆け浦田氏が,「看護管理のさらなる可能性,そしてこのような激動の時代をチャンスと捉え,よりよい看護へと進めるための方向性を見いだせるよう,会場全体で議論していきたい」と趣旨を語った。

 小島恭子氏(北里大病院)は,KNS(Kitasato Nursing System)を用いた看護業務量の可視化について口演。DPC(Diagnosis Procedure Combination)導入前後の看護業務量の変化について,(1)手術介助処置やチューブ挿入などのケア,(2)早期離床が行われるため,移動リハビリや歩行などの介助,(3)口腔内ケアや人工呼吸器ケア,(4)入院業務,入院歴の聴取やクリティカルパスの説明,を有意に増加したものとして挙げた。

 また入院患者の集中ケア・重症化が進む中,安全な看護を実践するためには看護師配置不足に至急対応するべきと指摘。まず各病棟ごとに看護必要度評価から必要な看護師数を算出。人員補充を要請する際には,(1)看護業務量から導き出した根拠のある可視化データ,(2)安全な看護業務を遂行するために必要な人員を確保,(3)産休育休・病欠,中途退職などを踏まえた逓減率を見越した計画の作成,(4)看護師の疲労・疲弊の改善,を示すことが重要と語った。

 梶原和歌氏(近森会)は,最適なスタッフィングについて,「赤字を出さない健全経営の中で,患者さんへの適切な医療サービスを提供,かつ職員の職務達成の満足感が得られる状況」ではないかと提示。そして診療報酬改定によりマンパワー面で改善がなされたため,今後は専門看護師の育成・配置を進め,看護の質を高めていくことが必要とまとめた。

 井部俊子氏(聖路加看護大)は,「看護人員配置研究の展望」と題し登壇。看護管理者を対象にした調査では,病棟業務の繁雑さの要因として,平均在院日数の短縮・病床稼働率の上昇,患者の高齢化・サービスへの期待,看護師の力量・業務量・人員不足などが挙げられ,看護部が主体的に人員配置査定に関わることや決定への影響力が重要という認識を示した。今後,医療・看護の安全と質を保証するためにも,看護師人員配置研究も進めていく必要があると語った。

 大串正樹氏(北陸先端科学技術大大学院)は,「看護師人員配置問題は政策的な課題であるため,政策過程論の視点が重要」と,政治・政策過程論の視点から口演。人員不足の現課題として,量的課題は,1.4対1看護により需要面は改善されたが,供給面においては看護師不足の深刻化を指摘。質的課題として,中堅看護師の離職により知の流出が起きているなか,新人看護師の実践能力不足に加え技術の進歩など,さまざまな要因が複合的に影響し合うため,量と質の両側面から総合的にアプローチしていくべきと語った。

 今後,看護の質を高めるマネジメントとして(1)能力差を補い合う人員配置やパートタイム・夜勤専従などを組み込んだ柔軟な勤務体制,(2)育児支援・福利厚生等の中堅離職者の防止や,復帰者教育など再雇用促進,(3)キャリアデザイン支援,の3つを挙げた。最後に全国の看護現場に適用可能な「患者本位の理想的な看護デザイン」の構築を期待し,口演を閉じた。