医学界新聞

 

「社会資源としての看護」をテーマに

第32回日本看護研究学会開催


 さる2006年8月24-25日,第32回日本看護研究学会が,松岡緑会長(大分大)のもと,別府市・ビーコンプラザにて開催された。

 「社会資源としての看護――激動の時代,看護に求められているもの」をメインテーマとした今回は,社会から看護は何を求められ,どのような貢献ができるかを議論する企画が随所にみられた。また,『ベナー看護論』(医学書院)等の訳書で著名なPatricia Benner(パトリシア・ベナー)氏(カリフォルニア大)の招聘講演もあり,1600名を超える参加者が集った。


看護は変革の提案者に

 メインテーマと同じタイトルを掲げた会長講演で松岡氏は,わが国の保健・医療・看護を取り巻く社会環境は歴史的変動期に差しかかっているとして,まず「私たちは変化に対応することはもちろんのこと,社会変革の提案者でありたい」と表明。それを具体化するために「保健・医療・福祉の21世紀のパラダイムシフト」を踏まえて,「国民の期待に応える看護」として,「少子化と子育て支援」「思春期の心と身体の健康相談」など8点を挙げた。そのうえで,「私たちはこのような仕事をしているという内容を国民へ詳細に伝えて,看護の社会化を一層強めることが重要」とした。すなわち,「社会の変化に対応し,社会的意義に呼応し,社会的要請を先取りし,その活動を国民に発信して,看護の中だけでなく社会的広がりの中で看護を位置づけていきながら,同時に国民から親しまれる変革の提案者になることが社会資源としての看護に期待されていることである」と強調して講演を締めくくった。

 続くベナー氏による招聘講演「ベナー看護論 看護師らしくみて考えるための学び――臨床的推論とケアリング実践」では,実践的学問である看護学においては経験的学習が可能となる条件をいかに学生に提供できるかが看護教員に求められており,そこでは「知識」「熟練したノウハウ」「倫理的態度」の「3つの見習い(apprenticeship)」が「継ぎ目なく統合されることが大事である」と指摘。学生が患者の苦痛を深く理解することを通じて,はじめは拒否していたNGチューブをその患者は受け入れるようになったプロセスがみられた,「卓越した教員」による実習指導の詳細を紹介しながら,わかりやすく解説した(ベナー氏の医学書院看護特別セミナーの講演については,こちらを参照)。

ユニークな交流

 「交流会」では,「学会誌への投稿から掲載まで」と題して,日本看護研究学会編集委員会を代表して川口孝泰委員長(筑波大)が同学会誌における査読プロセスの実際を紹介した。その中では,これまであまり公に議論されることが少なかった査読をめぐる課題も具体的に示しながら,今後のよりよい論文査読に向けての建設的な議論が展開された(資料等はhttp://www.jsnr.jp/gakai_annai/gak06_ichiran/shukai32/802903002.pdfに紹介されている)。

 また,実演交流会は2題用意された。「脆弱な皮膚に対する予防的スキンケア――高齢者のスキントラブル,尿・便失禁によるトラブル」「自立のための最新指導技術“排痰法”と“自己導尿法”」の2題とも,会場にベッドを持ち込み,手元の細かな動きも見えるようにビデオカメラで撮影した映像をスクリーンに映して,臨床場面でよく用いられている物品の特徴とその使い方を実演しながら紹介。さまざまな場面での対応の仕方を通じて,患者の状態を適切にアセスメントし,コスト面も考慮しながら適切なケアを選択していくことの大切さをアピールした。

 ジョイント講演「少子高齢社会で看護が果たす役割」では,Hoshihn Ryu氏(高麗大)が韓国の看護を取り巻く社会状況とそれに対応する看護教育の現状を紹介。続く村嶋幸代氏(東大)が「比較看護論とは,自国の看護に関わる現象を他国のそれと比較することを通じて,よりよい方向性をめざすこと」としたうえで,これから介護保険が導入される韓国では日本の経験が参考になるだろうと述べ,Ryu氏の講演を受けて「韓国からは法的位置づけを持つ専門看護師制度について,日本が学ぶところは多い」と指摘した。

実演交流会「脆弱な皮膚に対する予防的スキンケア――高齢者のスキントラブル,尿・便失禁によるトラブル」のもよう。臨床のよくある場面を舞台上に作り,予防的スキンケアを実演。

盛況だったプレカンファレンスセミナー

 また,学術集会前日の23日午後には,同学会主催によるプレカンファレンスセミナー「臨床に活かす看護研究」が開かれた。質的研究(講師:首都大学東京・戈木クレイグヒル滋子氏),量的研究(講師:岡山大・西田真寿美氏),統計学入門(講師:産業医大・中野正博氏)の3つのセッションに分かれ,各会場とも定員の約100名が参加した。それぞれ4時間の講義には,インタビューデータを実際に分析してみるグループワークや,参加者持参のパソコンに講師の用意したフリーソフトウェアをインストールして統計処理を行う実習,自分の研究についての質問・相談タイムなどが含まれ,密度の高いものとなった(『看護研究』第40巻1号〔2007年1月刊〕にこれらの講義を再構成して掲載する予定)。

 なお,第33回同学会は,2007年7月28-29日に,石井トク会長(岩手県立大)のもと,盛岡市民文化ホール・いわて県民情報交流センターにて開催される(プレカンファレンスセミナーは27日の予定)。