医学界新聞

 

清水貴子氏(研修センター長・副院長)
奥田希世子氏
(研修センター看護師)に聞く

研修医,看護師のWin-Winな関係づくり


研修医のメンタルヘルスに効果

――看護師を研修専任で配置するとそれだけ人件費もかかりますし,全国的に看護師が不足するなかで病院としては大変だと思います。それでも専任者を置くことのメリットについて,研修センター長・副院長の清水先生のお立場ではどうお感じですか。

清水 当初の意図としては,現場の看護師さんたちが忙しくて,指導医も診療に忙しいなかで,新制度によって12人の新人医師が入ってくるときに現場が混乱しないようにということで,また研修医が担当する患者さんのセーフティ・マネジメントという面もありました。そういう面ではもちろん役に立っていますが,私の立場としてもっとよかったことは,研修医のメンタルヘルスに役立っていることです。最初に意図した以上の成果です。

――以前の研修医に対するアンケートでも,「上級医に聞けないことを聞ける」という評価が多かったそうですね。

清水 患者さんと同じですね。患者さんは,医師に言えないことは看護師に,看護師に言えないことは薬剤師に言う。人を選んで話します。それと同じで,研修医が「こんなことを上級医に聞いては悪い」とか,「恥ずかしくて聞けない」と思ったとき,専任看護師に相談できる。あるいは指導医との軋轢があったとき,ストレスの発散ができる。

 普通は友人同士で話す以外にないですが,それではあまり解決にならないこともあります。研修センターにはこうして物理的なスペースがあって,なおかつ聞いてくれる人がいるのがいいと思っています(註:研修センターの事務室のドアは常に開いていて,お菓子などを置き研修医が気軽に話せる場にしてある)。

――研修医のメンタルヘルスの問題は研究報告などでも示唆されていますが,奥田さんにも実際にそういった相談がありますか。

奥田 今日もあったのですが,担当していた患者さんが亡くなったりすると,研修医はやっぱり落ち込むんですね。「大変だったね」と声をかけると,ポロッと弱音を吐くことがあって,そういうときに少しでも労ってあげることができればいいかなと思っています。あとは,ふだんとちょっと様子が違うと思ったら,「疲れてる?」という感じで声をかけると,やっぱりいろいろ研修医も話したいことがあったりします。

――患者さんも,担当看護師に言えないこと,主治医にも言えないことを専任看護師のおふたりに話すことがあるそうですね。

奥田 第三者だから話せることがあるんですね。

――そういう意味では,研修医にとっても,患者さんにとっても,話すルートが複数あるのはいいですね。

専任になってよかったこと,気づいたこと

――奥田さんが専任看護師となって,ご自身のキャリアとしてよかったことはなんでしょう?

奥田 いろんなことを勉強し直すことができたことです。医師の病気の診方・考え方を知って,実際,本を買う回数もインターネットで情報収集する回数も増えました。他には,「研修医はすごく勉強しているし,看護師と同じように患者さんを思っていて,同じように苦しんだりしている」と思えたこと。それと,研修での安全管理をするため研修環境の整備をきっかけに,病院全体の質の向上に繋がるということに気づいたことですね。

――清水先生から見て,専任看護師にはどういう適性が必要ですか。

清水 適性!(笑) いちばん最近入った中村さんで4人目ですけど,それぞれ個性がありました。それぞれのやり方で研修医に接してくれていますし,いろんな人がいていいと思います。ただ,少なくとも,人を育てることを面白いと思ったり,サポーティブな考え方をもっていたりするほうがいいかもしれません。

――奥田さんは,もともと教えるのが好きだったと。

清水 そうですね。私は彼女とはつきあいが長いのですが,彼女の後輩の育て方は,昔から見ていて素晴らしいと思っていました。私には真似できないといつも思っています。

――もうひとりの中村さんはNST専門療法士の資格を持っていて,栄養に関することは研修医もいろいろ聞いてくるみたいですね。

清水 そう。彼女はいままでにないキャラクターですよね。アカデミックでリサーチマインドがある。研修医にとって刺激になると思います。

――おふたりの特性が違うというのも,また面白いですね。

奥田 ですからなんとなく,彼女がそういう部分で動いていることが多いので,私は研修医と指導医,病棟の看護師との調整役,または環境整備のほうが多いですね。

研修医が講師で看護師との勉強会

――病棟の看護師と専任看護師では,研修医への対応は違ってきますか?

奥田 病棟の看護師は,直球で言うと思うんですよ。

清水 「それ,ダメ!」とかって(笑)。

奥田 でも,研修医なりに理由があるんですよね。私も病棟にいるときには,「先生,そういうことをされたら困ります」ってつい言っていました。でも,ここで専任看護師として研修医に話を聞いてみると,本当は何か思いがあったり,実際は努力していたりする。「本当は看護師さんに手伝ってほしかったけど,恐くて言えなかった」ということもあります(笑)。

――看護師からのクレームで,指示出しの遅れがありますね。それも指導医の判断を待っていて遅れたり……。

清水 それはありますね。

奥田 それも研修医としては,情報が足りなくて待っていることもあると思います。逆に情報の少ない看護師が,身体所見をしっかり取って情報のある研修医に問い合わせている場合もあります。看護師ももっとフィジカルアセスメントを勉強して,そういう部分をお互いにシェアできればいいなと最近思っています。

 ある病棟では,研修医が講師になって,看護師への勉強会を何回か開いたそうです。そのときはたくさんの看護師が集まって,最後にその研修医が研修を修了するときには花束をもらったみたいです(笑)。看護師も機会さえあれば,もっと勉強したいと思っているんですね。その研修医は「看護師さんに教えるのは責任があるから,すごく勉強した」って言っていました(笑)。

――人に教えると,自分も勉強になりますね。

奥田 看護師にとっても,研修医のそうした一生懸命さが伝わってくることがよかったみたいです。そういう相互関係ができてくると,医療の知識がすごく向上してくると思っています。

研修医にとっての“看護の視点”

清水 逆に看護師さんは,例えばスタンダード・プリコーション(標準予防策)は組織的に行き届いていますね。でもベテランの医師は,針や器材の処置,抗生物質の使い方にしても,自分のやり方をなかなか変えられません(笑)。

奥田 たしかに,感染対策やリスクマネジメントは,看護のほうが進んでいるかもしれません。こうしたことを研修医時代に身につけてもらって,あとは指示を出す責任上,看護師の療養支援の仕事もある程度は知ってもらいたいと思います。

――こうして,研修医が看護の視点を取り込んでいくなかで,今後は医師と看護師の役割はどう変化するでしょうか。

清水 それは私が10年前に持っていた疑問なんです。患者中心のチーム医療というのは当然で,そのマネジャー役が医師というのはたぶん変わらないでしょう。

 ただ,医師と看護師の違いを言えば,看護師さんは,病院であろうが在宅であろうが,患者さんが朝起きてから寝るまでの日常生活を人間的に暮らせるようにすることが重点目標だと思うのです。そういう視点は医師にはなくて,やはり病気を通して患者を診ているところがある。ですから,どちらが良い悪いではなく,患者に対するアプローチの仕方がちょっと違う。そして,医師は「看護師さんがそういう視点を持っているから,こういう要求をするんだ」ということがわかっていないといけないし,逆もそうだと思うんですね。

――相互理解がより進む,と。

清水 そうですね。いまみたいに「看護の視点」を取り込んでいけば,もっといいチーム医療ができると思います。

――ありがとうございました。

聖隷浜松病院(静岡県浜松市,堺常雄院長)
開設者は社会福祉法人・聖隷福祉事業団(山本敏博理事長)。同事業団の創立は1930年,結核患者の介護から始まったとされる。現在は,保健医療福祉をトータルで提供する国内最大規模の社会福祉法人に発展した。同事業団の中核を成す聖隷浜松病院は62年の創立。病床数744。「地域医療支援病院」として地域診療所との連携を重要視し,地域完結型・継続医療を実践している。