医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


ロービジョンケアの実際
視覚障害者のQOL向上のために 第2版

高橋 広 編

《評 者》田淵 昭雄(川崎医療福祉大教授・感覚矯正学/日本ロービジョン学会理事長)

視覚障害者への深い愛情を随所に感じ取れる書

 本著の第1版が2002年に発刊されてからちょうど4年になって第2版が出版された。私は初版を読んで,「実際の診療でロービジョンケアを主体としている眼科医(著者)の経験から書かれた,教科書的ではない実践書」として多くの方々に推薦した。今回はさらに内容の充実とともに,「視覚障害者への深い愛情を随所に感じ取れる書」として同様に推奨したい。

 版を重ねるにあたって今回著者が特に意図したのは,「連携」というロービジョンケアにおいて基本的な手順の重要性とその理解である。2000年に日本ロービジョン学会が創設され,また,全国的にも各地でロービジョンケアを行う施設が活動されてはいるが,著者の目から見て「まだまだ本当の意味での十分なケアができている施設は少ない。視能訓練士や看護師,リハビリ専門職,あるいは盲学校教師や福祉関係者への啓発および彼らとの連携がロービジョンケアをレベルアップする」ことを強調している。

 さて,本著では冒頭にカラー口絵の相当数がまとめて挿入されて非常にわかりやすくなっているが,第1-9章からなる本文は文字密度が高いため,読むのに若干疲れを覚える。しかし,豊富な内容であるがゆえのことで疲れを凌いでいただきたい。

 第1章「視覚障害者のQOL」では視覚障害者の実態や国際障害分類(ICF2002)の紹介,ロービジョンケアの担い手,「できる活動」と「している活動」の理解から「する活動」への展開が,第2章「ロービジョンケアに必要な基礎知識」では眼の構造や機能,視覚障害の検査,遺伝,教育,そして診断書の書き方などが微細に書かれている。第3章「補助具の選択によるQOLと視機能の増強」では,屈折矯正の大切さといかにうまく補助具を導入させるか,第4章「視覚障害者のQOL向上のための訓練と援助」では,さらに保有視覚をどう利用し訓練するかを紹介し,そして第5章「視覚障害者の日常生活援助」では視覚障害者にとってもっとも重要な日常生活;歩行,食事,身だしなみや衣服,排泄,居住環境,IT機器,余暇などのすべての生活場面の援助の仕方が記載されている。第6章「視覚障害者への年齢別対応」では,乳幼児,学童,中高生,成人,高齢者など,各年齢層に応じた問題に対処するそれぞれのケア法が紹介され,特に職業訓練および就労支援に関しての「連携」と事例,さらに激増している高齢者に対するケアはぜひ参考にしたい。第7章「代表的な疾患と対応」では,糖尿病網膜症,緑内障,白内障,網膜色素変性症および代表的網脈絡膜疾患,色覚異常などの疾患解説とそれぞれのロービジョンケアを,第8章「他の障害をもった人への対応」として重複障害者のロービジョンケアの問題点を明らかにしている。最後の第9章「看護・介護で必要な援助とくふう」では看護の面からみた視覚障害者への気配りや医師との連携による関わり方や,家族への支援のあり方が記載されている。

 付録として「弱視レンズの光学に関する基礎知識」と「社会福祉サービス」が紹介され,ロービジョンケアに関わる方々には,戸惑いをもった時点での必読の書として推奨する。

B5・頁328 定価3,990円(税5%込)医学書院


カラーアトラス神経病理 第3版

平野 朝雄 編著

《評 者》日下 博文(関西医大教授・神経内科学)

神経学の基本的知見を的確・明快に提示

 1980年『カラーアトラス神経病理』の第1版が出版された。膨大な数のカラー写真からなる神経病理アトラスはまさに圧巻,そして,他に類を見なかった。ちょうど神経内科の認定医試験をひかえており,早速に購入して平野先生の,もう一つの名著『神経病理を学ぶ人のために』と併せて勉強した覚えがある。同じような経験の方は多数おられると思う。その後,これほど多くの国で翻訳されたアトラスは他にはないということを平野先生に伺ったが,十分うなずける。文字通り神経病理学の世界的なベストセラーである。記念すべきことに今年その改訂第3版が出版された。

 「正常を知らないと異常は分からない」という平野先生の言葉どおりに,それぞれのセクションの冒頭に正常の肉眼所見(大脳の外観と水平断など)と正常の顕微鏡所見が掲げられている。そして,その後に貴重な病理所見が続いている。非常にわかりやすい構成である。血管障害,外傷,発達障害,腫瘍,感染症,脱髄性疾患,種々の変性疾患,代謝異常など多彩な症例が収められている。これらは長年Montefiore Medical Centerで毎週行われているbrain cuttingの膨大な症例の中から,選び抜かれた知見・写真である。それぞれに平野先生の卓越した観察眼に基づいた解説がついている。脳を観察する時の非常に実際的な注意点(例えば高齢者と小児の硬膜の違いなど),顕鏡する時のアドバイスに加えて,実地の臨床に役立つコメントも多数みられる。神経病理を専門にする者だけでなく,神経学を学ぶ人であれば誰でも参考にすべき写真・知見である。

 「脳・脊髄の肉眼所見」,「細胞からみた神経病理学」,「局所神経病理学」,「病因からみた神経病理学」と基本的な構成は以前の版と変わらないが,20年以上の進歩を反映して,第1版では470であった図が,第3版では599に増えており,新しい所見が多数追加されてきている。第3版では特にてんかんの神経病理(Ammon's sclerosis,dysembryoplastic neuroepithelial tumor,cortical dysplasiaなど),脳腫瘍(desmoplastic infantile ganglioglioma,pseudopsammoma body,central neurocytomaなど),進行性核上性麻痺,多系統萎縮症,筋萎縮性側索硬化症など神経変性疾患におけるGallyas染色やtauやubiquitinの免疫染色所見が追加されている。一方,第1版以来まったく変わらずに掲載されている“なつかしい”写真もたくさんある。私事で恐縮だが,Montefiore Medical Centerで行われたbrain cuttingの光景を,そして平野先生から折りに触れて伺った話が思い出される写真が多数ある。

 平野先生はいつも「真実の形態を写し出した写真は永遠である」といわれる。その言葉通りに,いずれの写真にも神経学を学ぶものにとって最も基本的な知見が,的確に,明快に示されている。簡潔な解説は,長年,透徹された眼で「脳」と対峙されてこられた平野先生ならではである。そして,それらの言葉は,「脳」を診るときに,われわれにいつまでも限りない示唆と「脳」を診る力を与え続けてくれるであろう。

A4・頁264 定価18,900円(税5%込)医学書院


片麻痺回復のための運動療法
川平法と神経路強化的促通療法の理論

川平 和美 著

《評 者》前田 真治(国際医療福祉大大学院教授・リハビリテーション学)

神経回路の再建強化を促進
川平法の技術体系を網羅

 本書は,長年の著者の研ぎ澄まされた感性と,最先端の研究への情熱,患者の詳細な観察から生まれた結晶ともいえる書物である。めざましく進歩した最近のニューロサイエンスの観点から現代のリハビリテーション技術を見直し,中枢神経の改善を科学的な根拠をもった技術体系で「川平法」として集大成したものである。リハビリテーションで用いられる神経促通法に注目し,患者が意図した動作を選択的に強化する方法により,損傷された神経の可塑性を最大限に発揮させ,麻痺を可能な限り改善させる手技が詳解されている。従来の促通手技を再評価し,「川平法」という思いの込められた治療手技をあらわし,リハビリテーションの技術として最も情熱を注ぐべき手技について熱意を込めて詳細に解説している。麻痺の改善に対するリハビリテーションの基本的手技に関して,一石を投じるものと思われる。

 本書に書かれた神経筋の促通反復療法は,従来のブルンストローム法,PNF(固有神経筋促通法)などにおける問題点を整理し,独自の観点で神経筋の可塑性のメカニズムを最先端の科学的な根拠と結びつけている。そして,神経筋の回復には,その使用法と頻度によって可塑性が促通されるとし,促通反復法を取り入れた画期的な手法が,豊富な写真とその手技のポイントが誰にでもわかりやすい表現で,要を得て書かれている。

 最初に,この療法の基盤ともなるべき機能局在,随意運動,可塑性などの説明が,医師のみならずリハビリテーションを行う誰にでもわかりやすく図説解説されていることより,後に続く実際の促通手技が非常に理解しやすくなっている。そして,まったく促通手技を行ったことがない人にとっても,容易に習得できるように,実際の手技が実に多くの写真とともに詳細に説明されている。注目すべきは,単に理論だけの手法を示すのではなく,客観的な改善のデータを示しながら科学的な立証をしていることで,この点でも本書は十分に読むに値するものと思われる。

 本書で,特に力を入れて解説しているのが上肢についてである。肩・肘の促通はもとより,特に手指に関して,懇切丁寧な解説を入れているのに目を見張るところがある。人の生活にとって上肢の機能改善は必須であり,まさに的を射たものとなっている。

 下肢に関しても,その機能改善の具体的な手法が股・膝・足の順に上肢同様わかりやすく解説され,立位,歩行の促通法へとつながっている。歩行の促通に関しても手すり,平行棒の使い方などをはじめとし具体的に記載されており,臨床や生活の場で役に立つ知識が豊富に凝縮されている。また,運動開始困難症,外眼筋麻痺に対して触れられているのは,特記すべきである。

 実際に役立つように治療プログラムの作成の仕方,留意点がまとめられており,患者のかたわらで見ながらでも使えるようにと配慮されている。そして,促通反復手技を紹介するだけにとどまらず,再評価,有効性の実証につなげたいとする筆者の誠実な思いは,この手技に込められた期待を感じずにはおれない。

 「川平法」が,新たな神経回路を再建強化するために最も力を注ぐべきリハビリテーション治療技術として普及し,患者・障害者の方々の治療に実践されることを願い,リハビリテーションに関わる方々にぜひお薦めしたい。

B5・頁192 定価4,410円(税5%込)医学書院


図で説く整形外科疾患
外来診療のヒント[ハイブリッドCD-ROM付]

寺山 和雄,堀尾 重治 著

《評 者》片田 重彦(医療法人かただ整形外科・理事長)

外来での頻度を考慮した類を見ない整形外科書

 外来で患者に図を描いて病気の説明をする機会は多いが,残念なことにわれわれはさほど絵の素養がないため,思っていることの半分も伝えることができていないようである。

 こうしたわれわれが長年の間,忸怩たる思いを抱いてきた難問を解決するひとつの手段として『図で説く整形外科疾患-外来診療のヒント』が生まれた。

 本書では,堀尾重治先生の描いた精妙で美しいたくさんの図がとりわけ印象的である。堀尾先生の描かれた図がどれほどすばらしいかはこの本をぱらぱらとめくっていただくだけですぐにわかる。私もしばし堀尾先生の絵にみとれてしまった。

 外来で診察する患者の大部分は手術をすぐに要するような重大な疾患ではない。従来の整形外科書のほとんどが手術を要するような疾患を中心に構成されていたが,本書では外来で頻繁に出会う病気から順に構成されている。そのはじめのページは“肩こり”である。このように“肩こり”から始まる整形外科書は他に例を見ない。“いわゆる腰痛”,“いわゆる五十肩”,“テニス肘”などの日常的疾患,骨折,脱臼などの外傷,神経麻痺,退行性疾患,先天性疾患および比較的稀な難病にいたるまでほとんどすべての整形外科疾患が頁単位に美しい図になっている。これに寺山名誉教授の適切な解説があって,絵に引き込まれながら解説を読むという疾患の理解には最良の方法が講じられている。

 本書の構成にひと際光彩を放っているのは疾患一覧表である。各章ごとに目次がわりに疾患が表になっていて,好発年齢や疾患の特徴が解説されている。この疾患一覧表を眺めるだけで整形外科疾患が俯瞰できる。これほど読者に親切な整形外科書は珍しい。

 もっとも現在は整形外科の疼痛性疾患の大部分はAKA-博田法で即時治療できるので,そのような場合の病態説明はあまり必要ではないかもしれない。しかし外傷,神経麻痺,腫瘍,感染性病変,小児疾患など詳しい説明を要する疾患には本書は大きな役割を果たすことができよう。

 さらに本書には寺山名誉教授の“ほっと一息”という欄外コメントがある。例えば関節痛の患者は動き出す前にいきなり動作を始めるのでなくアイドリングをするように2-3回自動運動をしてから動くとよいなど,ユーモアに満ちた,また長い経験からえた患者指導のヒントが数多く載せられていて,読んでいても楽しいのである。

 整形外科専門医だけでなく,研修医,看護師,リハビリテーションのスタッフ,そして日常的に整形外科の患者を診察せざるをえない内科,外科医の先生方にもぜひ診察机に常備していただきたい1冊である。なお本書には内容をそのまま電子化したCD-ROMが付属しているので診察机にパソコンとカラープリンターがあれば,該当頁をその場でプリントし患者に手渡すことができる。

B5・頁200 定価7,140円(税5%込)医学書院


ISCN 2005
An International System for Human Cytogenetic Nomenclature (2005)

Lisa G. Shaffer,Niels Tommerup 編

《評 者》舩渡 忠男(京大教授・情報理工医学)

実例が多く辞書を引くように確認できるハンディな好著

 1956年にヒトの染色体が46本であることが報告されて以来,細胞遺伝学の進歩は著しく,核型の記載について議論がなされてきた。1978年に表記について染色体核型記載法に関する国際常任委員会An International System for Human Cytogenetic Nomenclature(ISCN)が中心となってまとめ,統一化され,その後ISCN1985,ISCN1991,ISCN1995と委員会の開催に併せて,数度の改訂が重ねられており,今回のISCN2005版が出版されることとなった。ISCN1985では核型における染色体異常の配列順序(数的染色体異常,構造的染色体異常,染色体再配列,マーカー染色体など),ISCN1991版ではがん細胞における細胞遺伝学が加えられ,ISCN1995版ではin situハイブリダイゼーション法,高精度分染法などの新しい分析技術にまで及んでいた。ヒト染色体特有の表記について規則性をルール化したのがISCNであり「癌細胞遺伝子学のガイドライン-ヒト染色体に関する国際命名規約」と本邦では訳している。ISCNは本邦でも定着しており,各種学会の認定制度は本書の表記法を基準としている。

 今回の版では,さらにこれまでの歴史的経緯,正常染色体,用語,核型,とくに異常の定義を中心に十分に理解できるように書かれている。核型はよりわかりやすく詳しく図示されており,染色体に関することはすべて網羅する構成となっている。核型の表記は,臨床遺伝学における基礎となる知識であり,説明内容も充実している。さらに,今回は最近急速な進歩を遂げているFISH法やCGH法についてもスペースを割いており,それらの定義についてもわかりやすい内容となっている。

 本書の特徴は,簡潔に重要なポイントを解説してある点にある。日頃よく遭遇する異常について,正確に記載するにはどうするのか専門的に迷う場合でも,実例が多く辞書を引くように確認できるような親切な構成となっている。今回とくに目を惹くのは,写真と図のすばらしさである。随所で高精度のGバンドおよびRバンドの写真に変わっている。

 本書は現場での染色体検査に必携であるだけでなく,これから染色体を学ぶ者さらには細胞遺伝学の研究者にとっての手引き書としても,ハンディな好著である。論文において染色体の核型を記載する場合では本書は必須であり,染色体に関心を持つ読者にとってのバイブルとしてぜひ座右に置いておかれることをお薦めする。

頁128 定価5,187円(税5%込)日本総代理店 医学書院