医学界新聞

 

求められる視点,望まれる変革

第38回日本医学教育学会開催


 第38回日本医学教育学会が7月29-30日の両日,吉田修会長(奈良県立医大)のもと,奈良県新公会堂(奈良市)にて開催された。「いま,医学教育に求められるもの」をテーマとした今回は,「成人教育」「Population-based medicine」「新医師臨床研修制度によって生じた諸問題とその対応」などが取り上げられた。本紙では,reflectionに関するシンポジウムと,日野原重明氏(聖路加国際病院理事長)の講演のもようを報告する。


■医学教育の新たな視点“reflection”

 シンポジウム「より良い医学教育に向けての新たな視点――reflectionの位置づけ」(座長=岐阜大・高橋優三氏,天理よろず相談所病院・郡義明氏)では,ポートフォリオ,地域基盤型医学教育,シミュレーション医学などの医学教育の実践が,reflection(ふりかえり)の視点で紹介された。

シンポジウム「より良い医学教育に向けての新たな視点――reflectionの位置づけ」のもよう。本学会は能楽ホールをメイン会場として開催された。

 津田司氏(三重大)は,受動的な子ども教育学から能動的な成人教育学へ,知識ある(knowledgeable)人の育成から能力ある(competent)人の育成へと,医学教育のパラダイムシフトが起きていることを説明。成人教育学に基づいた自己決定型学習を行うためには,reflectionを促進するポートフォリオが有用であるとした。さらに,三重大のPBL-テュートリアルで用いられている実例を紹介した。

地域医療に求められる反省的実践家

 続いて,藤沼康樹氏(ほくと医療生協)が登壇。地域医療の現場では,予期せぬ出来事に遭遇する機会が多く,複雑系の環境のもとで決定不能な問題を取り扱わなければならない。そのため地域医療においては,フォーマルな教育で育つtechnical expertではなく,実践の中で経験しながら育つreflective practitioner(反省的実践家)が求められることを強調した。さらに,反省的実践家を育てる教育方略として,「行為中のふりかえり(reflection in action)」と「事後的なふりかえり」(reflection on action)の概要を説明。EBMとreflectionを統合したカンファレンス,“clinical jazz”を定期的に実践していることを報告した。

 志村俊郎氏(日医大)はシミュレーション教育の利点として,学習のパフォーマンスを評価し,教育上のニーズによるスタンダード設定ができる点やチーム医療を学べることを評価。日医大では,臨床シナリオによる状況再現型シミュレーション教育を行っており,AV装置などを用いたreflectionにより,さらに教育効果を高めていることを紹介した。

失敗に学び,喜びや驚きをふりかえる

 ディスカッションでは,会場の質問に演者らが答えながら,reflectionを促すコツが話し合われた。藤沼氏は「本来は驚くべきところに驚かない研修医もいるが,集団でふりかえって他の研修医の話を聞くことで,気づくことができる」と,集団でのreflectionの効用を指摘。その際は,「話したことで責任を追及されない,“no blame culture”が大事」と,学習者の安全確保に努めることが必要と述べた。また,ポートフォリオに関しては,最初のアウトカム設定の重要性が確認された。

 座長の郡氏は「指導医が困るのは,失敗する研修医ではなく,失敗に学ばない研修医」と自らの指導経験を語り,失敗から学ぶ環境づくりの重要性を強調した。また,問題を起こす研修医は他者評価に比べて自己評価が高い傾向にあることから,シミュレーション教育に関して「技術習得というより,自分の能力を客観視するところに意味がある」と意義を述べた。

 最後は,意欲ある学びを続けるために,喜びや驚きをふりかえることの重要性が確認され,盛況のうちにシンポジウムを閉じた。

■適性ある学生の選抜を――日野原重明氏講演

 日野原氏は「日本の医学教育に望むこと」と題して学会名誉会長として講演。「将来医師となり得る人間性と召命感を持つ学生が入っていない」と現在の医学教育に強い危惧を表明した。さらに,“医師としての適性”に不可欠なのは,(1)修得された知的職業(Learned profession),(2)使命感(Mission),(3)感性が豊かでいとおしむ心のある人間性(Compassionate),の3点であると述べた。

 では,偏差値過信から脱し,良医の資質を持った学生を選抜するにはどうしたらいいか。氏はオスラー博士など先人の言葉を紐解きながら「臨床医学は理科型人間が適する,と考えるのは誤り」と説明。理科系学科だけでなくヒューマニティ学科を組み合わせた実力評価法が必要であることを指摘し,中でも面接法の革新(早期から複数回の面接など)が急務であるとした。

 さらに,米国の例も示しながら,教育人員および方法,教授選考法などの革新を提唱。中でも,メディカルスクールに関しては,「10年間どこかで実験して6年制大学の卒業生と比較し,その評価を待てばいい」と提案。医学教育の改革に向けた熱い想いを語り,講演を閉じた。