医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


ポートフォリオ評価とコーチング手法
臨床研修・臨床実習の成功戦略!

鈴木 敏恵 著

《評 者》正木 治恵(千葉大教授・看護学部)

医療専門職の成長をガイドするポートフォリオ評価

 待望の医療人向けポートフォリオ評価の実践書が出版された。医師の卒後臨床研修の必修化が始まり,新人看護職員研修の必要性も叫ばれている昨今,医療現場ではまさに専門職として成長していく,そのプロセスの支援が求められている。そんな時代の要請に応えるように,本書が出版された。本書は,今までの“評価”に欠けていたものを明確に示す。すなわち,「結果」から「マイナス」を探すこれまでの評価に対して,ポートフォリオ評価は「プロセス」から「プラス」を見いだす。ポートフォリオは,自己の成長を見つめる評価を形成的に機能させることを可能にする。

 ポートフォリオとは,元来紙ばさみ,書類鞄など,バラバラの情報を一元化するためのいわばファイルのようなものを意味し,その人のこれまでやってきた成果や記録などの実績歴,あるいはその人自身が見えてくるような活動歴などを,未来に活かす意図で自分の意志で一元化したものとある。その具体的内容,効果については,鈴木先生ご自身の医療現場でのポートフォリオ適用例の展開から理解できる。

 本書を読み進めていくと,時折さりげない言葉に立ち止まる。「そこであなたがいかにキラキラと生き,人間を大切にしているかをどうぞ私にみせて欲しいのです」。医療人魂がくすぐられる。ついつい医療人として動き出したくなる。また,本書は,個々人の本来持っている能力や可能性を引き出すコーチングについても提示している。ポートフォリオ評価は医療人をreflective practitionerへと導く。本書が医療人の基礎教育や卒後研修の充実の一助となることと期待する。

B5・頁160 定価3,150円(税5%込)医学書院


看護現場学への招待
エキスパートナースは現場で育つ

陣田 泰子 著

《評 者》広井 良典(千葉大教授・法経学部)

「日本発」の看護理論の可能性

 この本はすごい本である。どういうふうに「すごい」のかを私の力では十分に伝えきれないことを承知のうえで,以下記してみたい。

 あらためて言うまでもないことだが,看護(学)という学問あるいは分野は,そのアイデンティティあるいはよって立つ拠り所,ないし理論的根拠をどこにおくかで苦闘してきた。加えて,日本におけるすべての学問分野がそうであるように,外国から輸入された用語や概念枠組みと日本という土壌に根ざした有効性との間のギャップや,その橋渡しに向かい合ってきた。

 看護の臨床現場と看護教育(ないし看護研究)という2つの領域を往復してきた著者の陣田氏は,看護という営みの持つそうした矛盾や奥行きの深さを,とりわけ柔軟な感受性や明晰さでもって受け止めまた追求してきた人である。著者の問題意識は,氏が常に意識してきたという「理論なき実践は盲目であり,実践なき理論は空虚である」という言葉によく集約されている。

 したがって,ここが1つのポイントなのだが,この本は単に「現場主義」,あるいは「事件は現場で起こっている!」ことを強調する,という趣旨の本なのではない。本のタイトルからそのような内容を想像する方がいたとすれば,それは修正が必要である。むしろ氏の関心の中心にあるのは,看護の臨床現場の営みの持つ豊穣さや同時にそれが抱える矛盾にしっかりと根ざしながら,しかもそれに流されてしまうのではなく,そうした臨床現場に有効な「概念化」の作業や改革のための方法論を確立していくことである。そこから,「動的・複雑系の現場」,「ナレッジ交換会」等々といった著者が経験の中で進化させてきた独自の認識枠組みや方法が具体的な事例とともに展開される。

 そして,冒頭に「すごい本」という表現を使ったこととも関連しているが,看護の臨床現場に真に力を持ちうるような理論を追求するという,著者の問題意識がもっとも鮮やかな形で結晶しているのが,「内発的発展論」の看護領域への導入・展開,という本書の後半部分の中身である。

 内発的発展論とは,国際的に活躍してきた社会学者の鶴見和子氏が発展させた議論で,もともとは途上国の「発展」のあり方を,“先進国”からの押し付けのような外からの(=外発的な)ものではなく,その地域の人々固有の(=内発的な)ニーズや志向をベースに考え実現していく,という趣旨のものだった。

 陣田氏は,この考えが看護あるいは医療の臨床にも有効性を持ちうると考え,ALSの患者さんの事例等とともに展開し,ひとつの新しい看護の理論枠組みを提出している。実は,上記の鶴見和子氏のもともとの関心も,(外からの近代化・西欧化がなされがちだった)日本という土壌を踏まえた独自の理論の構築という点にあったので,陣田氏の論の展開は,看護理論における数少ない“日本からの発信”という意味も持つものになると思われる。

 いずれにしても,看護の臨床・研究・教育,あるいはより広く「ケア」や医療,医学,科学の意味といったテーマに関心のある方に広くおすすめしたい。

B6・頁216 定価1,890円(税5%込)医学書院


一目でわかる生理学
Physiology at a Glance

岡田 隆夫 監訳

《評 者》渋谷 まさと(香川栄養学園女子栄養大教授・生理学)

初級者の確認用に適した良書

 本書は英国のJeremy WardやRobert Clarke,Roger Lindenらによって執筆され,順天堂大学医学部の岡田隆夫教授の監訳で翻訳出版された。“一目でわかる”シリーズには,基礎,臨床にわたって数多くのテーマの書籍がある。見開きの左側に図,右側に説明文の構成で,全シリーズが統一されている。今回,このシリーズに医学の基礎をなす生理学が加わったことは,医療系の学生だけではなく,生理学の教員にとっても大きな喜びである。

 オリジナリティのある図も多く,筆者の意気込みが感じられると同時に,初学者の理解を容易にしていると思われる。ただ,左側の図は1つの図ではなく,4-6個ほどの図を並べており,文章との対応に戸惑う読者もいるかもしれない。初学者の生理学への入門がより容易になるよう,今後のさらなる創意工夫に期待したい。

 体裁が統一されているにもかかわらず,本書の中で臓器ごとの内容のレベルはよくバランスがとれている。無理に膨らませた,とか簡略にしたと感じさせるところがほとんどないのである。また,心血管系や呼吸器系,腎臓,消化管などの臓器別にPartが構成されている。

 翻訳,編集のレベルも高く,翻訳者が異なる項目でも文体,用語などが統一されている。英国で使われている単位だけではなく,日本で一般的に使われている数値,単位も併記されている点などは,翻訳者が機械的な翻訳をしただけではなく,生理学教育ならびに医療系学生への行き届いた配慮と思われる。生理学用語が日本語と英語とで併記されており,医学英語の勉強にも適する。

 レベルとしてはコメディカルの国試受験や医学生の知識確認に十二分である。爆発的に情報が蓄積している今日,どのテーマをも詳細に記載するより,エッセンスを抽出して全体像が見渡せるようにすることの方が困難であるかもしれない。本書は,そのテーマに果敢に挑戦し,ある程度の成果をあげている。また,エッセンスを抽出したからこそ,ページ数もコンパクトである。多くの成書が,通読できるとは思われないようなページ数であるにもかかわらず,本書は全体で148頁であり,すべての医療系学生が通読「できる」だけではなく,通読「すべき」一冊といえるかもしれない。また,低価格であることは大変すばらしく,学生の自学自習に大いに貢献することが期待される良書である。

A4変・頁148 定価2,940円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/