医学界新聞

 

チーム医療にパスを活かそう!

2006年クリニカルパス教育セミナーの話題より

小西敏郎氏 岡田晋吾氏
池谷俊郎氏 堀田春美氏


 2006年クリニカルパス教育セミナー「現場で活かせる! クリニカルパス――チームで取り組む患者中心の医療」(主催:日本クリニカルパス学会・医学書院)が,7月8日に東京(ヤクルトホール),7月22日に大阪(WCTホール)で開催された。

 昨年に続き2回目となる今回のセミナーでは,医療現場で話題のNST(栄養サポートチーム),感染対策,地域連携をテーマに,パスでできる“患者中心の医療”が議論された。また,前回看護師を中心に関心を集めた「記録とパス」も引き続き取り上げられた。本紙では東京会場の模様を報告する。


感染対策とパス

 パス導入に批判的な立場の意見として,「パスで治療が固定化する」「医師の裁量権がなくなる」といった声がある。最初に登壇した小西敏郎氏(NTT東日本関東病院)は,パスはあくまでも“目標”であって,パスどおりに行う必要はないと指摘。大事なのは「必ず発生するバリアンスを早く見つけて,早く治療を開始すること」であり,「バリアンスの治療こそ“さじ加減”が必要で,“腕のみせどころ”」と発想の転換を促した。さらに,手術部位感染が起きやすい食道癌手術で作成したパスを紹介。ガイドラインを参考に感染対策を盛り込み治療を標準化,術後15日で退院するという“目標”を設定。バリアンスの早期発見・治療に取り組んでいると述べた。

記録とパス

 先駆的にパスを導入してきた済生会熊本病院では,オーバービューパスのほかに,“アウトカム志向”の日めくり記録が用いられている。これはすべてのスタッフの共有録であり,アウトカムと観察項目は予め設定するため,看護記録も変化することになる。同院のパス専任看護師・堀田春美氏は,パスと記録のあり方を考察した。

 堀田氏は従来の看護記録の問題として,「正常と異常の記録が混在」「判断の基準が主観的」などの点を指摘。日めくり記録においては,クリニカルインディケーター(合併症などの重要なアウトカム)や個々のアウトカムの適正値(例えば「呼吸状態が安定している」に対して呼吸数,酸素飽和度など)を設定し,記録内容の標準化・定量化を図り,患者状態の情報をチーム全体で共有していると報告した。また,「アウトカムが達成できなかったときがバリアンス=個別性への対応」であり,日々のバリアンスはSOAP形式で詳細に記録していると述べた。現在は,記録の電子化に向けてアウトカム用語の統一を試みているという。

NSTとパス

 池谷俊郎氏(前橋赤十字病院)は,近年普及が進むNST(栄養サポートチーム)をテーマに口演した。前橋赤十字病院のNSTは,事務員も含めた11職種83名から成る。栄養ケアマネジメントの実施者については,最初のスクリーニングは入院時受け持ち看護師,詳細な栄養アセスメントは病棟NST看護師,プランニング(必要エネルギー量の決定)は回診NSTメンバーで行っていることを紹介。続いて,褥瘡管理,周術期栄養管理など,NST活動の実際を報告した。

地域連携とパス

 地域連携の有力手段として最近注目されているのが,「連携パス」だ。今年度診療報酬改定において地域連携パスが初めて評価された。対象疾患は大腿骨頚部骨折に限られているが,次回改定以降は対象疾患の拡大も予想される。最後に登壇した岡田晋吾氏(北美原クリニック)は,「地域連携パスの前に,まずネットワークづくりが重要。その質がパスに影響する」と強調した。例えば,氏が紹介した前橋赤十字病院の乳がん治療連携パスの導入においては,術後患者の共同診療に参加できる提携医をまず募集。意欲のある医師を見つけたあとで,提携医との勉強会を開催し,協同でパスを作成している。病院は紹介状のほかにパス書類一式を添え,提携医がかかりつけ医として経過をフォロー。定期検査やバリアンス発生時の対応は病院の乳腺外来で行うという取り決めだ。連携パスを用いることで,患者の通院負担が軽くなり,経過中の見落としや検査の脱落も防ぐことができる。長期の経過観察が必要な乳がんにおいては,こうした連携は非常に有効だという。

 討論は,会場からの質問に演者らが答える形式で進行。チーム医療の進展に向け,実践的アドバイスがなされた。