医学界新聞

 

自殺は避けることのできる死

第3回日本うつ病学会開催


 さる7月27-28日,第3回日本うつ病学会が樋口輝彦会長(国立精神・神経センター武蔵病院)のもと,京王プラザホテル(新宿区)にて開催された。メインテーマは「うつ病を知る・いやす・支える――求められる多職種の関与」。ひきこもりや職場でのうつ病に関する講義,認知療法・臨床評価の講習会,6月に成立した自殺対策基本法とうつ病への課題・対策などが幅広く話し合われた。

地域全体で取り組む自殺予防

 シンポジウム「いま,自殺対策を考える」(オーガナイザー=国立精神・神経センター・山田光彦氏,慶大・大野裕氏)では,はじめに,山田氏が日本の現状,自殺予防に向けた対策などをシンポジウムに先立ち説明。「自殺は避けることのできる死」であり,自殺予防に携わるすべての個人・組織・指導者がそれぞれの立場で「今,ここでできることは何か」を考え,行動に移し,つながりあい,学ぶ必要があるのではないかと語りかけた。

 続いて大野氏が「地域における自殺防止への取り組み」と題し解説。自殺に至るまでには,健康状態,ストレス状態,自殺予備軍に分類でき,自殺予防対策には個人の気づきによる受診・相談,そして地域の総合的な取り組みが重要と述べた。地域の取り組みとしては,(1)正しい知識の啓発・普及,(2)スクリーニングによる早期発見・介入,(3)適切な治療,相談,支援等の受け皿づくり,を挙げた。

 また,うつ病の早期発見に役立つものとして,(1)健診時に簡易スクリーニング質問票を導入,(2)デイ・サービス利用者からみつける,(3)保健師の訪問指導時に見つける,などを挙げ,保健師・保健推進員・民生委員の協力が重要と述べた。注意点としてスクリーニングを行う前に,必要性・重要性をきちんと理解してもらうことが協力を得る鍵であると付け加えた。

 最後に自殺者の減少やうつ対策は「個人の力だけでは改善できない。地域全体の力が不可欠」と締めくくった。

救急における精神科医介入のメリット-患者へのアプローチ,スタッフのケア
 救命救急センターにおける精神科医の取り組みについて河西千秋氏(横市大)が口演。救命救急センターを拠点に精神科医が介入する理由として,(1)自殺企図者の多くが救急医療施設を受療する,(2)自殺未遂の既往は以後の自殺の最大危険予測因子,を挙げ救急医療施設を拠点にした精神科医の介入は実効的な自殺予防につながると言及した。また,自殺企図者の約8割はなんらかの精神障害を持つと言われており,救急において精神科医が自殺企図者・家族へ迅速かつ効果的な対応ができることを示した。その他に,医療スタッフへの精神的サポート,学生・研修医・スタッフの教育など多くの役割を同時に担えると述べた。

 海外の研究において,多くの自殺者が1か月前までにかかりつけ医のもとを受診していることから,「医療者が関心を持ち,行動することで患者の自殺を食い止めることができる」と指摘。そして「多面的かつ継続的な自殺予防対策を行うことが重要」と強調する一方で,医療システムを包含した地域ネットワークづくりや住民への啓発・自殺予防情報の提供,セーフティネットの構築とアクセス確保など取り組まなければならない課題が多く残っていると指摘し口演を終えた。

新しい『つながり』が新たな解決力を生む
 市民の立場から清水康之氏(NPO法人自殺対策支援センターライフリンク)が発言。自殺対策は自殺問題の捉え方が重要。「社会のあり方に関わる自分の問題と捉えるべき」であり共感できるプラットフォームを提供すること,そして自殺対策関係者だけでではなく,皆で共有し,実行していくことが大切と語った。そして自殺対策に必要な心構えとして,「自分の限界を認め,他者の可能性を尊重することにより,『つながり』が生まれる。その新しいつながりが新たな解決力を生む」と説明。自殺対策のグランドデザインとして,「いのちのつながり」「人間の安全保障」を見据えた「生き心地のよい社会」の実現であると強調し壇を降りた。

 口演後のディスカッションの中で,清水氏が「活動に興味がある人は多い。しかしアルバイトなどで生計を立てていかなければならない『不安定さ』に躊躇している」とライフリンクの活動を通した生の声を紹介。そのためにも市民ネットワーク・地域の支えあいの中核となる,NPOや市民団体などへの助成の必要性を訴えた。

 最後に山田氏が,「自殺は避けることのできる死」であり,一人ひとりが常に「いま,できることは何か」を考え行動していってほしいと再度語りかけ,シンポジウムを終えた。