医学界新聞

 

多職種チームによる介入が重要

第11回日本緩和医療学会開催


 さる6月23-24日,神戸国際展示場(神戸市)において内布敦子会長(兵庫県立大)のもと,第11回日本緩和医療学会が開催された。今回初めて看護職から会長が選ばれ,学会の内容も看護の特色を生かしたプログラムが組まれた。

 「ケアのパワー」と題した内布会長の講演では,緩和医療現場のパワーレスネスについて,患者個人が大切にしていることを大切にできない状況,緩和医療の理念が大切にされない状況から起きると指摘した。またケアにおけるパワーの種類について(1)統合的ケアリング,(2)代弁的パワー,(3)治癒的パワー,(4)参画的・肯定的パワー,(5)問題解決のパワー,などを提示した。

 そしてケアのパワーを生みだすには(1)パワーとパワーレスネスを理解し,意識化する,(2)パワーの基盤を作るために自分自身とスタッフ,そして患者を信じ,双方の価値を点検する,(3)双方の枠をはずし,体験世界を共有する,(4)ケアの技術を身につける,というステップがあると述べた。

チーム医療のメリット

 パネルディスカッション「化学療法の適応と限界」は,江口研二(東海大),小松浩子(聖路加看護大)の両氏が座長を務めて行われた。はじめに佐々木康網氏(埼玉医大)は,化学療法は従来一律に抗がん剤を投与していたのに対し,現在は血中濃度を至適化することにより副作用を軽減する試みや,がん細胞の特性を利用した抗がん剤の選択など個別化が進んだ現状を提示。そして現状を踏まえ,がん化学療法の真の到達点は「治癒,術後の再発予防,延命と症状緩和」にあると指摘した。課題として標準的化学療法の確立を挙げ,時代とともに更新され,より最適なものとしていくことを考える必要があると述べた。最後に「がん化学療法と緩和医療は表裏一体であり,緩和医療医,精神腫瘍医なども加わったがん治療チームの構築が必要」とまとめた。

 外来化学療法における緩和ケアについて松岡順治氏(岡山大)が,氏の病院における取り組みを紹介。外来時に看護師が患者に副作用や体調などの看護診断を行い,必要な場合には制吐剤などの追加増量を医師に連絡。医師は検査後にクリニカルパスの基準に従い薬剤をオーダー。そして薬剤師が医師の処方を確認し照会することにより,投薬が適正か確認している。また治療だけではなく,経済的な相談をソーシャルワーカーが担当することで,患者の心理的負担を軽減できるなど,多職種により取り組むことのメリットを説明した。

 本山清美氏(静岡県立静岡がんセンター)は,患者と医療者の化学療法の適応と限界のずれについて口演。治療効果が見られず医療者が治療は限界だと判断しても,患者が治療効果への期待や病状を受け止められないなどの理由から,治療の継続を希望するといったずれが生じると説明。患者・医療者間のずれを最小限にするために,(1)患者と家族の思いを理解する,(2)多職種で情報を共有し患者にとって最善の選択を検討する,(3)現実を受容し次のステップへの移行を支援する,(4)症状マネジメントと精神面のサポートを行うことが必要と強調した。また,患者が治療の限界をend pointととらえないように,治療前からBSC(best supportive care)の紹介も考える必要があるのではないかと付け加えた。

■患者を中心とした多職種の関与

 パネルディスカッション「ケアをつなぐ」(座長=愛知県立がんセンター愛知病院・渡辺正氏,横浜市民病院・小迫富美恵氏)では,最初に目黒則男氏(大阪府立成人病センター)が自身の経験をもとに,「チーム内でスタッフ各自が治療の方向性などの情報を迅速に把握し,全員で共有することが大切」と強調した。また情報をチーム内に留めず,院内・地域といったより広範な共有,連携が必要であると述べた。

 緩和ケアにおける望ましいチームワークとして「専門性と限界を認め合う成熟した人間関係と迅速な情報交換」を挙げ,(1)担当医・担当看護師を決める,(2)専用の経過用紙を用いる,(3)メールを用いメンバー全員が情報を共有,(4)介入の度合いは主治医と相談する,など活動の実例を示した。最後に症例検討や講演会,院内がん専門看護師への教育などの啓蒙活動を継続して行うことが重要と述べた。

 「緩和ケアチームナースが担うケアの橋渡し」と題し,梅田恵氏(昭和大)が口演。緩和ケアチームの活動として,(1)プライマリ・ケアの一部としての緩和ケア,(2)専門家の介入が必要な緩和ケア,(3)地域リソースの連携の必要な緩和ケアへの介入を挙げた。コンサルテーションすることによる橋渡しの効果は,病院全体に対しては,(1)チーム医療の推進,(2)プライマリ・ケアの充実,(3)急性期医療と緩和ケアの融合。またスタッフに対しては,(1)複雑な状況の理解,(2)ケースへの積極性,(3)専門性の向上などを列挙。最後に地域連携の問題点として,在宅医療では薬剤供給の困難さや家族の負担,往診医と訪問看護・介護支援の連携など,プライマリ・ケアユニット(PCU)では,PCUに対するネガティブな印象や対応の格差,病状説明の不足などを指摘した。

 篠道弘氏(静岡県立静岡がんセンター)は薬剤師のかかわりとして,(1)処方への参画,(2)患者・家族への説明やスタッフ教育,(3)電子カルテ上のツールの作成,(4)緩和ケアチームへの橋渡し,を挙げた。特に処方への参画については,的確なオピオイドローテーションのタイミング,副作用対策薬の使用,同一薬効の際に低コスト薬剤の提案など多数に及んでいると述べた。また診療報酬上の条件として,「薬剤師の参加が算定要件となっていないこと。緩和ケアに習熟した薬剤師を養成するための教育・研修システムが未整備であること。緩和ケアに携わっている薬剤師が意見交換をできる環境が少ないこと」を薬剤師に関する体制・制度上の問題点として指摘した。

 田村里子氏(東札幌病院)がソーシャルワーカーの役割として,(1)第三者的立場から患者と家族の気持ちを医療者につなぐ,(2)急性期医療の対象としての患者家族の意識を緩和ケアへつなぐ,(3)医療機関内の緩和ケアを地域につなぐ,の3点を挙げた。そして最後に有機的な医療チームアプローチのために必要なものとして,(1)互いの専門性に対する理解と尊重,(2)自己の専門性の向上,(3)メンバーの一員としての創造性の活性化,(4)共通言語の獲得と医療チームカンファレンスの重要性,を強調し壇を降りた。