浦部 大策(聖マリア病院国際協力部部長)
最近の医学生は海外での保健活動への興味が高いようで,国際保健活動に関わりたいという人によく出会います。しかし,今の日本では医師が国際保健に参加できる国内施設は限られます。聖マリア病院はこれまで20年以上の海外医療協力の実績があり,33か国に職員を派遣,100か国から研修員を受け入れてきました。その経験をもとに海外での医療協力活動に興味を持った若者を支援するような教育プログラムを設定しようという考えが以前からあったのですが,具体的な形にするまでには至っておりませんでした。一昨年2004年に新医師臨床研修制度がスタートする際に,理事長,院長からの強い後押しもあり当院の新医師臨床研修プログラムの中に国際保健コースの開設が決まりました。そして今年の3月,初めてこのコースの研修を実施するに至りました。国際保健コースなるものを実施するにあたり,われわれ指導者側にとっても手探りのプログラム作成でしたが,このコースで目指した「論理の組み立て」は単に国際保健という領域だけに留まらぬ一般的な事例への対応上にも有意義なものであり,結論から言えば大いに研修の成果があったと感じています。今回この場を借りて,われわれが実施した国際保健コース研修と経験について紹介させていただきます。
さて,われわれは1か月の国際保健コースに「Action Planが作成できる」という目標を設定しましたので,研修のプログラムは,このAction Plan作成に必要な知識・技術を修得させることを目指した内容で構成しました。Action PlanはFormatによって構成要素に多少の違いはありますが,基本的には「Back Ground」「Overall Goal」「Project Purpose」「Target」「Action」「Evaluation and Monitoring」などからなっています。われわれはまず,文書における言葉の定義や文書構成法等の基本的な演習を行いました。講義としてAction Plan文書の作成に必要な現状の問題分析の手法,リソースや人材育成の考え方,目標と活動の選定,評価手法などについて,われわれが過去に実際に海外の業務で経験した内容を題材として講義を行いました。問題分析の手法としてはPCM(Project Cycle Management)を取り入れ,当院が担当しているJICA(Japan International Cooperation Agency)集団研修コースで実施しているPCMワークショップに参加させました。以上のような基礎講義を経てAction Planというものを多少とも理解できたところで,ラオスでのフィールド研修を実施しました。フィールド研修(旅行日を含めて2週間)は,対象とする村で自分たちの選んだテーマに沿って現地で聞き取り調査を行い(今回研修医2名が選んだテーマは,それぞれ「母乳栄養の普及率の向上」「ビタミンAの投与率の向上」),調査結果に基づいてテーマに対する改善策をAction Planとしてまとめる,という手順で行いました。
このような論理の組み立ては特に国際保健の領域でのみ必要なものではなく,何らかの事例に対処しようとする際に常に必要です。しかし,日本の医学の基礎教育プログラムではこのような論理的な考え方を教えられる機会は少なく,日本人の苦手な領域の1つと言われています。研修医たちもこれらの作業を実際にやってみて,いかに自分たちが論理を構築する作業に慣れていないかを実感したようです。今回の一連の研修を通して地域活動を展開する際の論理的思考の組み立て方をかなり理解できたようで,研修医側から「他ではあまり勉強する機会のない“論理的な物の考え方と組み立て方”を学習できた。この思考の流れは地域保健に限らずいろいろな事例に出会った時に応用できるもので,研修内容に満足している」という意見が返ってきました。
今回われわれは,国際保健コースの研修医に対して,物事を考える時の「論理の組み立て方」を修得させることを目標にして研修を実施してきました。そして研修の経過を通して,若い世代に「考え方」を教えることの重要性を痛感いたしました。今回われわれが実施したような教育活動をさらに発展させていければ,国際保健に限らず問題に取り組む力を大きく伸ばすことができるのではないか,と感じました。