医学界新聞

 

総合診療誌「JIM」7月号特集「ジェネラリストのキャリアパス」座談会より
新制度下でめざす・育てるジェネラリスト

櫛笥永晴氏
(川崎市立多摩病院 総合診療科・研修医)
清水貴子氏
(聖隷浜松病院総合診療内科部長・研修センター長)
山本和利氏
=司会

(札幌医科大学教授 地域医療総合医学講座)
山田康博氏
(国立病院機構東京医療センター総合内科・研修医)


 総合診療誌「JIM」7月号の特集「ジェネラリストのキャリアパス――“初期研修”から“後期研修”へ」では,新医師臨床研修を総括し,後期研修でジェネラリストを育成するための展望が語られている。本紙では,指導医と研修医による座談会から,議論された内容を一部抜粋して紹介する。全文は「JIM」第16巻7号(2006年7月発行)を参照されたい。


【TOPICS】経験目標は多すぎた?

櫛笥 EPOCをつけていて思うのは,これを全部埋めるのは大変だということです。前半はここが到達しなかったから後半はこうしようと研修プログラムが変更されるわけではなく,やったことを打ち込んでいるだけなので,症例にムラがあったり,施設によってバラつきが出てくるのではないかと思います。また,患者さんとのコミュニケーションなどよりも,症例をこなしたか,ある技術をやったかどうかが問われます。〈中略〉

山本 清水先生からみて,2年間の研修を終えた研修医は期待された到達度までいきそうですか?

清水 〈中略〉新しい疾患にめぐり合った時,見たことも聞いたこともない病態に出会った時に,それをどうやって解明していくかを身につけることが,この時期には大事だと思います。ある疾患にたどり着いたら,その先は教科書やインターネットを使って調べればいいので,その前に病歴を取る,身体所見を取るといった基本的なことから,EBMの二次資料を使うといったノウハウまでを身につけることが大切です。それに加えて,患者さんとコミュニケーションできる,看護師やコメディカルの仕事を理解する,地域を含めた視点で患者さんのことを考えられる,ということを身につけることが要求されます。それがあって初めて経験目標になるので,何よりまず「行動目標」が一番大事だと考えています。

山本 制度を作る側は,明確なものを示したほうがやりやすいだろうと配慮したのでしょうが,あまりにも即戦力的なもの(ability)を求めているので,将来,ある場面で応用できる基本的な力(capability)をこの2年間で養う視点にしてもらいたいということですね。経験目標は,あまり細分化しないほうがいいかもしれませんね。

【TOPICS】後期研修プログラムへの要望

山本 それでは,ジェネラリストをめざすお二人が3年目以降のプログラムにどのようなことを望んでいるかを聞かせてください。

櫛笥 医局に所属するのではないので,これからの研修は自分でマネジメントしなければいけません。後期研修を3年間やって,さらにその先を,と考えるのはかなり大変です。レールに乗れないというか,レールがみえない不安があります。

 また,ジェネラリストをめざすとなると,さまざまな科や医療現場で研修しなければならないと思いますが,目標を見失ってしまわないかが心配です。3年間勉強するなかで,自分は何になりたいのかというアイデンティティが崩れてしまうようなことがあると,研修の意味が薄れてしまいます。メンターのような存在が1人いて,一定のフィードバックをもらえると,ジェネラリストのプログラムとしては適切かと思います。〈中略〉

山田 小規模なカンファレンスが何回もできるような体制があるといいです。教授回診ほどしっかりしたものでなくても,研修医を中心とした若い医師で自主的な勉強会をするのもいいと思います。病院側には1週間に1度程度でも,そのための時間を確保してもらえると助かります。

 また,私が後期研修を行う東京医療センターは比較的大きな病院なので,もう少し病床数の少ない病院に1週間に1~2回行かせていただけると,学んだことをフィードバックする場にもなりますし,さらに勉強しやすい環境になると思います。

【TOPICS】僕らのめざすジェネラリスト

清水 ところで,お二人はどんなジェネラリストをめざしていますか?

櫛笥 私は診療所ベースで働くジェネラリストになりたいと考えています。ひと口にジェネラリストといっても,どのフィールドに焦点を合わせるかで後期研修も変わってくるでしょう。診療所勤務を希望するなら外来を中心としたプログラム,ホスピタリストになるのであれば病棟を臓器別に回るプログラムがいいように思います。

山田 私は100床以上の総合病院でのジェネラリストを考えています。出身地の長崎では,診療所ベースの病院が減り,大型・中型病院が増えています。ですから,中型病院で外来診療をしつつ,より専門的な治療が必要であれば,自分の知っている“任せられる”医師にお願いして患者さんの様子をみていく,それが私のめざす総合診療医です。

山本 臓器専門医は,自分は動かず,今の自分を求める人に来てもらってその人たちを満足させられる人,ジェネラリストは,患者さんや住民のニーズに応じて変容して,「私の潜在能力を使って,あなたの健康問題を解決していきましょう」という人だと思うんです。〈中略〉

 後期研修のプログラム案では,将来大学病院に行きたい人も,山田さんのように中小病院の総合診療科でやりたい人も,櫛笥さんのように診療所でやりたい人も,ジェネラリストとして国民に共通のものを提供できるようにすることが大事だと思うんです。将来診療所をやらなくても診療所実習の体験は大事だろうし,在宅ケアや介護,内科,外科,整形外科,小児科などは共通で3年間やって,その先で分かれていくようなプログラムがいいと思います。今はそんな感じで動いていますね。

清水 ジェネラリストのアイデンティティという意味では,きちんとしたトレーニングさえ積んでおけば,診療所を開設するいわゆる家庭医も病院の中のホスピタリストも,これから先の道はあると思うんです。地域の医師や,小児科・産婦人科・麻酔科という特殊な診療科の医師が減ってきているなかで,ジェネラリストに求められることや期待される場所は,増えることはあっても減ることはないのではないかと思います。

 櫛笥さんと山田さんがおっしゃっている「軸がぶれないように」というのは,とても大事なことです。ローテーションで転々としているうちに,自分が何をやろうとしているのか,何になりたいのかがわからなくなったり,時にはサブスペシャルの高度医療が面白く思える時もあるでしょう。けれどそこで初心に戻り,自分のめざすものを常に心に留めておけば,先々のことは心配しなくてもジェネラリストの需要はあると思います。

(抜粋部分おわり)


櫛笥永晴氏
2004年横市大医学部卒。東京ほくと医療生協王子生協病院で初期臨床研修を受け,06年より川崎市立多摩病院総合診療科にて3年間の後期研修を予定。

清水貴子氏
1981年浜松医大卒。同大病院第一内科で1年間研修後,国立療養所天竜病院,国立病院医療センター(現国立国際医療センター)神経内科,浜松医大第一内科に勤務。94年聖隷浜松病院神経内科へ移り,2002年より総合診療内科部長,03年より副院長・研修センター長を兼任。

山本和利氏
1978年自治医大卒。スーパーローテート研修後,静岡県内の地域医療に7年間従事。94年京大総合診療部講師。その間カナダMcMaster大でEBMの教育法について学ぶ。99年より現職。著書に『脱専門化医療』『EBMを飼いならす』,翻訳に『ナラティブ・ベイスト・メディスン』『患者中心の医療』などがある。

山田康博氏
2004年久留米大医学部卒。同大にて初期臨床研修を受け,06年より国立病院機構東京医療センターにて5年間の後期研修を予定。