医学界新聞

 

【寄稿】

今回の診療報酬改定をいかに乗り越えるか
急性期病院の視点から

阿南 誠(国立病院機構九州医療センター診療情報管理室長)


 2006年度の診療報酬改定は,3.16%のマイナス試算である。しかし,この先を考えると3.16%どころか10%,いやそれ以上の,病院の存続に関わるほどのダメージを予感した病院関係者も多いのではないだろうか。その理由はいくつか考えられるが,紙面の都合もあるので,ここではわれわれの立場,すなわち急性期病院の立場に限定して考えてみたい。

当院にとっての大きなポイント

急性期医療の位置づけ

 われわれにとって改定の最重要ポイントは,急性期医療の位置づけと地域連携が根本的に変化したことである。少なくとも従来からの流れの方向性が変わったことだけは間違いない。より上位の看護配置基準を設け,平均在院日数の要件見直しがあり,急性期を担う医療機関への影響を少なく抑えようとする意図も見える。しかし,その設定された数値は,従来の平均在院日数短縮の趨勢を加速するような数値ではなく,病院に対してのインセンティブにはなり得ないと感じる。例えば,最上位の区分A,看護配置基準7対1(従来表記1.4対1)以上であっても,要件は平均在院日数19日以内。10対1(従来表記2対1)は21日に据え置きである。急性期の定義は難しいが,19日が求められる最上位の要件であるとするならば,あまりにレベルが低いと言わざるを得ない。実際,ほとんどの急性期病院は19日など易々とクリアしているのが現実であろう。看護師重点配置という意図は理解できるものの,昭和末期の特3類看護(10対1,従来表記2対1)誕生以来,連綿と続いてきた平均在院日数短縮の努力に水を差す結果にならないとも限らない。

地域連携-ネットワークへの影響

 医療機関の機能分化を目的に設定された紹介率への評価も潔く廃止となっている。「紹介率」が実態と乖離しているという指摘に基づいた改定だと推察するが,ここ数年,比較的小規模な病院でさえ地域連携室を組織することが当たり前となっており,連携のネットワーク構築が促進されている事実がある。誠意ある病院であれば,診療報酬の評価以前に,病院としてなすべきミッションは明確になっているはずなので,急激に連携のネットワークが崩壊することはないにしても,少なくともその大きなインセンティブの1つが失われたことは間違いない。

 結果的に,この2つの評価の廃止は,当院の経営にきわめて大きな影響を与えることになっている。当院は,地域支援病院であり(紹介率80%以上),急性期入院加算算定病院であったが,その影響は年間数億円にも上る。

 これらの評価廃止の一方で,周産期医療,病理診断,医療のIT化等が重点的に評価する項目として浮かび上がっているが,正直,対象数や評価レベル(1点や3点という評価)を考えると,病院の方向性を今すぐ左右するようなものではない。いずれにしても,重点的な評価という新たな材料は,失った評価と比較すると,あまり強い改善のインセンティブとなり得ないというのが現時点での印象である。今は,何かを変える,その過渡期の混乱の始まりなのかもしれないが。

DPCへの対応

目標は入院期間1未満

 当院は,1998年11月からの,「急性期入院医療の定額支払制度」試行から,現在のDPCまで,一貫して包括医療制度に関わってきており,出来高制度とは異なる対応をしなければならないことはわかっていた。DPCにおける一日包括制度においては,ドクターフィーと言われる出来高部分が残っているものの,その主体は包括部分にある。包括部分を3.16%マイナス改定されたが,これは誤差なくマイナスになることを意味する。従来のように,切り下げ率が低い薬剤等にシフトさせ,最小限の影響に食い止める裏技(?)は使えない。何が含まれようが,そのまま3.16%マイナスになるというきわめて単純明快な結果となる。そういう意味では抜け道を意識した小賢しい議論は不要である。

 周知のとおり,DPC包括部分の評価は,入院期間がすべてである。つまり,当該分類の患者分布の25パーセンタイル値でセットされた入院期間1と平均在院日数である入院期間2,さらには出来高移行となる特定入院期間がポイントである。話を簡単にすると,もし,入院期間1と2が均等な分類であれば,入院期間1の日からは,入院日と比較して,30%マイナス,入院期間2以降はさらに15%マイナスとされるから,入院日と比較するとなんと概ね45%のマイナスである。いくらコストを切りつめても,このレベルの患者ばかりであれば,経営は成り立たないだろう。むしろ,このような急激な変化が起こるルールを理解すればある意味,3.16%は誤差の範囲である。つまり,めざすべき目標は入院期間1未満であり,最低限のハードルは入院期間2未満である。

クリティカルパスの最適化

 これをどうやってクリアするのか,クリティカルパスの見直し,手術や検査スケジュールの見直し(在院日数短縮は診療密度上昇を意味するので),適正な診療計画の説明等が必須である。在院日数短縮のために多くの病院が血の滲むような努力をして来たが,今後は,漠然とした在院日数短縮ではなく,診断群分類ごとに注意と改善目標設定が必要である。

 そのポイントは診断群分類ごとの在院日数の的確な管理である。そのための強力なツールはクリティカルパスである。診断群分類ごとにクリティカルパスがマッピングできれば,原価計算のモデルになることをも意味する。すでに,DPC制度の下では,従来のような薬価差や購入差額を基盤にした原価管理は破綻している。最終的には,「どのような患者」を「どれだけ受け入れる」ことがわからないと経営は成り立たないこととなる。「どのような患者」はすなわちクリティカルパスである。

 少なくともこれまでは漠然と患者を受け入れ,薬価差や購入額の差を把握できる体制さえあれば病院の経営は十分にできたが,DPCの導入はそのような単純な手法では対応ができないことを意味する。さらに詳細な情報分析を可能にするのは,精度の高いICDコーディングを中心とした診療情報管理であり,優秀な診療情報管理士を中心にデータベースを解析する体制を作ることが急務である。

まとめ

 以上,述べてきたとおり,DPC導入病院としては,個々の診療行為の評価改定はほとんど意味を持たない。もともとDPCの導入は医療の透明性を高め,病院同士の比較を可能にし,自らの位置づけを明確にすることである。

 すでに,中医協等の議事録や病院データが公開されており,その中には,在院日数,疾患別の件数,さらには難易度別の手術の件数まで公開され誰でもが病院を比較する環境が提供されている。まさに当院は,そのまっただ中にあり,「本筋」を通すにはどうしていくのか,病院の診療における実力と同時にマネジメントの実力が試されている正念場であると考えている。


阿南誠氏
診療情報管理士指導者。2000年国立病院九州医療センター医事専門官。04年より現職。日本医療情報学会ならびに医療マネジメント学会の評議員,日本診療録管理学会理事,などを兼任。