医学界新聞

 

【投稿】

タイ研修を終えて
ホスピタリティとProfessional Spiritを持つタイの看護師たち

谷本 愛(日本鋼管福山病院健康管理科・保健師(岡山大06年卒))


 私の母校である岡山大学医学部保健学科では,2005年度に国際交流推進ワーキンググループという教員組織が発足し,JICAやAMDAなどを通じて国際的な活動を行っている先生方が中心となり,世界(主にアジアやアフリカ)の国々と教育・研究における交流を進めています。その活動の一端としてタイ東北部マハサラカム県への訪問研修(06年3月6-11日)が企画され,当時,看護学専攻の4年生であった私を含めた3名が運良く研修生に選ばれ,タイ国を訪問することができました。

 タイ研修では,マハサラカム看護大とマハサラカム総合病院の訪問,地域保健の現状や村での人々の生活の様子の視察など,多くのことを学びました。この素晴らしい体験をぜひ多くの方にお伝えしたいと思い,ご報告させていただきます。

ホスピタリティあふれるタイの風土

 日本から飛行機で6時間ほどのタイに着いてみると,首都のバンコクは岡山とは比べものにならないくらいの大都会で,これが日本の援助している国なのかと,まず驚きました。その後,地方都市のコンケーン県を過ぎ,マハサラカム県に近づいていくにつれ,もともとイメージしていた「タイ」ののどかな風景が広がっていきました。やはり,ガイドブックや本で読むだけではなく,現地に行かなければ実際の様子はわからないものだと感じました。

 タイを訪問する中で,強く印象に残ったことは「ホスピタリティ」の高さです。タイの人は,「人をもてなす」ということに非常に長けているなとさまざまな場面で感じました。マハサラカム県に到着した夜,看護大学の先生方と夕食会がありました。「どんな先生方が来られるのだろうか?」「うまくコミュニケーションできるだろうか?」などと不安でした。しかし,先生方は私たちの緊張している気持ちをときほぐすように温かく接してくださり,つたない英語とタイ語に熱心に耳を傾けてくださいました。夕食会の後には不安な気持ちは吹き飛び,これからのスケジュールを楽しみに思う気持ちでいっぱいでした。

 目上の方々は,その存在だけで相手を緊張させてしまったり,萎縮させてしまったりするものです。ですから,学生の側としては話しかけづらいと感じるのですが,タイの先生方は学生の雰囲気に合わせて,楽しい話題やくだけた話でリラックスできるように配慮し,一人の人間として尊重してくださっていることがわかりました。温かいもてなしをしてくださる先生方や学生の皆さんと一緒に過ごすうちに,自分自身も人に優しく温かく接したいという気持ちが自然に生まれてきたのでした。

自国の文化と看護への誇り

 翌日は,看護大学の1年生との交流会でした。ここでも学生たちは私たちを迎えるために事前に十分準備をしており,カレッジソングの合唱に始まり,円陣を組んでのエールを送ってくれたのです。一人の女学生はイサーン(タイ東北部)の民謡を披露し,看護学生が主体となって外国から来た私たちを迎えてくれました。このような楽しい歓迎を受け,非常に嬉しく思うと同時に,日本に来た外国の方々に対して,自分たちもしっかりとおもてなしをしたいものだと思いました。タイでは伝統文化が生活に根付いており,国や文化に対する愛着心や敬意,誇りのようなものを感じました。本来,文化とは先祖代々伝えられ,語り継がれていく教養の一つだと思います。日本は,経済発展と共に文化を軽んじてきたのかもしれません。

 学生や看護職の方々との話の中でとても印象的だったのは,「日本は豊かで看護師以外にもたくさん仕事が選べるのに,どうして看護の道を選んだのか?」という質問が多いことでした。看護学という学問を大学で学ぶことが重要なのであり,その後どのような仕事に就くかという選択肢は自分で探せばよいのです。

 タイでは,看護師はプロフェッショナルであるという世間の認識があり,とても尊敬されている職業の一つであるそうです。しかし,医療技術の進んだ日本では,まだまだ世間の認識が今ひとつのように感じます。タイで出会ったすべての人から,人と人の関わりが言葉や国境や民族を越えて,こんなに楽しいものだということを教えてもらいました。看護が人と人との関わりの中にあり,その向かい合っている人の健康を守るというプロフェッショナルな仕事であるという,看護の原点を再認識させてくれたのです。タイの看護師たちのような「人の健康を守るプロ」としての誇りを持って看護に関わる姿勢は,大いに学ぶべき部分だと思います。

Professional Spiritを持ち続けたい

 今回の研修でいちばん強く感じたことは,看護職者の看護に対する「Professional Spirit」の強さでした。看護が人を対象とし,その人があるべき姿で存在することができるように援助するという,明確なVisionやMissionを持たなければならないという思いを強くしました。そして,卒業にあたって,看護学を学んできたことにもっと誇りを持ち,ありったけの能力を発揮することを心に誓うことができました。

 看護が「人を対象とする」ということは,全世界共通です。国を越えて理解し合い,よいところを吸収し合いながら新しい学問を構築していくためには,国内だけではなく,もっともっと広い世界に視野を広げなければならないと痛感しました。今回,タイの看護教育や看護について少し知ることができましたが,日本が決して最先端を走っているわけではなく,変えるべきところ,他の国々から学ぶべきところがたくさんあると思いました。学生の立場では限界がありましたが,他の国々との交流に際しては,先方から学ぶことと同時に,日本の看護や保健政策を伝えていくことも重要になると感じました。

 最後に,学生にこうした貴重な機会を提供してくださったマハサラカム看護大学の先生方,マハサラカム県病院の看護職員の方々,地域住民の皆さん,岡山大学医学部保健学科および国際交流推進ワーキンググループの先生方,同じ学生として参加した榎谷優さん,天野レミナさんに心から感謝いたします。