医学界新聞

 

【投稿】

外勤前に知っておきたい
確定申告の基礎知識

大室 正志(大森赤十字病院・研修医)


 新臨床研修制度が施行されて以来,研修医のアルバイトは原則禁止となりました。研修修了後は後期レジデントに進む,研修病院でそのまま常勤として働く,大学の医局に入局する,など進路はさまざまですが,どの進路に進まれた方でも研修医時代との違いでほとんどの方が経験されるのが,外勤(アルバイト)です。特に大学病院の非常勤職員となる先生方にとっては,この外勤での給料こそが自分の生活を支える基盤となるということは,先輩などに聞いている方も多いと思います。  しかし外勤をするようになると確定申告が必要になってくるといったことまでは意外と知らない方も多いのではないでしょうか。社会人にとって確定申告は大事なものです。厳しい労働環境で知られる某大学病院外科系医局で平日に堂々と有休がとれるのは運転免許の更新と確定申告くらいという話からもその重要性が理解できるのではないでしょうか。  本稿では確定申告がなぜ必要なのか,どのように申告すればいいのかといったことはもちろん,アウトラインについて最低限の理解をしていただくことを目的に,基本的な事項について簡単に説明していきたいと思います。

なぜ確定申告が必要か

 日本では申告納税制度がとられており,納税者が自ら税法に従い,所得および税額を計算し,納税をすることになっています。ところが実際には手続きの煩雑さなどから,給与所得者の場合,基本的に所得税は毎月の給与から源泉徴収され,12月に年末調整で精算されています。多くの場合,後述する医療費控除など還付申告の必要がない限り申告の必要はありません。しかし,例外的に下記の場合には給与所得者でも申告が必要となります。

1)給与年収が2000万円を超える場合
2)給与や退職金以外の所得が必要経費を控除して20万円を超える場合
3)給与を2か所以上からもらっている場合

 つまり,勤務医の方で外勤もされている場合,3)に該当し確定申告の必要があるということになります。これは,主たる給与と,それ以外の給与(「従たる給与」といいます)では源泉徴収をする際の扱いが異なり,従たる給与については年末調整がなされないためです。

他に確定申告が必要となる場合

 前述した以外にも確定申告が必要となる場合があります。主なところでは株式や不動産などの売買をされている方,不動産収入がある方などです。なお株式,不動産については申告分離課税制度がとられており,これらの損益は通常の所得とは別計算になります。また,株式の売買について特定口座で源泉徴収口座を利用されている場合,申告は不要となります。

所得税の税率など

 日本では超過累進課税制度が採用されています。つまり,所得が高くなるにつれて税率が高くなります。ここでいう所得とは,年間所得から各種所得控除を差し引いた課税所得金額をいい,その額の330万円までの範囲には10%,330万円を超えて900万円までの範囲には20%,900万円を超えて1800万円までの範囲には30%,1800万円を超えるものについては37%の税率が適用され,ここからさらに税額控除などを差し引いた金額が納税額となります。

控除について

 所得税は,納税者それぞれの事情を加味し税負担を調整するために,年間所得から基礎控除,配偶者控除,扶養控除,給与所得控除,社会保険料控除,各種の保険控除,雑損控除などの所得控除を差し引いて計算されます。また計算された税額から差し引く税額控除に住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税)などがあります。これらの中でも特に注意をしておきたいのが医療費控除と各種の保険控除です。

1)医療費控除
 納税者本人や家族の病気やけがなどにより,支払った金額が一定額を超えた場合に所得から控除されるものです。特に確定申告が必要ない方でも,こちらを受けるためには申告が必要になります。ここでいう医療費とは診療代や治療費だけでなく,治療に要した薬代や入院費用,松葉杖や義足の費用,通院費用(ただし自家用車を利用した場合のガソリン代,駐車場代などは除く),医師の送迎代,また針灸師やあん摩マッサージ師などによる施術の対価(ただし治療に関するもの)なども含まれます。

 ここで注意したいのは申告の際に医療費の支出を証明するために領収書等が必要となることです。健康保険組合から送られてくる「医療費のお知らせ」といったものでは認められないので,領収書は大切に保管しておきましょう。これらの合計額から保険金などで補てんされた額を除いたものから,10万円または所得金額の5%の少ない方を差し引いた額が,最大200万円まで医療費控除として控除されます。

2)各種の保険控除
 生命保険や個人年金保険,火災保険などの保険料を支払うと,その額に応じて所得税から控除されるものです。年末調整によっても手続きが可能です。年末までに控除証明書が保険会社から送られてきますので,大切に保管しておいてください。ただし保険期間が5年に満たない生命保険などの中には控除の対象とならないものもあります。

申告の受付期間

 毎年2月16日から3月15日になりますが,税金の還付については年明け以降手続きをすることができます。申告期間を過ぎて申告を行ったり,申告をしないままでいると無申告加算税がかかりますので,必ず期限内に申告してください。

申告の方法

 税務署に出向くのが一般的ですが,郵送によって行うこともできます。この場合消印の日付が申告日とみなされます。国税庁のe-Taxソフトを利用してオンラインで申告することもできますが,ソフトの受領などに時間を要したり,システム要件があったりしますので注意してください。申告用紙は税務署に直接もらいにいかなくても,国税庁のウェブサイトからダウンロードすることができます。

所得税の納期限

 確定申告の期限が納期限となります。申告書の提出後に税務署からの納付書の送付や納税通知書などによるお知らせはありませんので,金融機関や税務署に用意されている納付書で期限までに納付してください。振替納税を利用すると4月中の振替日となります。納期限までに納付額の半分以上を納付すれば,残りの額を5月末まで延長できる延納制度もありますが,利子税が別途かかりますので注意してください。また,期限をすぎると延滞税がかかります。

おわりに

 ここまで確定申告について簡単に説明してきましたが,ご理解いただけたでしょうか。紙幅の関係もあり細かな部分には言及できませんでしたが,国税庁のウェブサイトにある税相談コーナー(タックスアンサー;URL=http://www.taxanswer.nta.go.jp)や市販の解説書なども参考になさってください。

 医師という社会的責任の重い職業であるといったことを自覚し,法令尊守の精神をもって,節税のつもりが脱税になるといったことのないよう確定申告に臨んでいただければと思います。


大室 正志