医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


産婦人科ベッドサイドマニュアル
第5版

青野 敏博,苛原 稔 編

《評 者》星 和彦(山梨大教授・産婦人科学/山梨大病院長)

新知見も余さず集録
臨床現場に即した携帯本

 新医師臨床研修制度が施行され,国家試験に合格した医師は2年間のスーパーローテートが必修化された。人口の半分を占める女性を診療する上で産婦人科の知識が重要であることは論をまたないが,女性の生理的・形態的・精神的・周期的特徴,さらには特有の病態を熟知しておくことは,他領域の疾患に罹患した女性に適切に対応するためにも不可欠なことである。このような観点から新しい研修制度の中でも産婦人科研修は必修科目となっている。

 徳島大学の青野敏博学長と,苛原稔教授をはじめ女性医学教室の総力をあげて作られた『産婦人科ベッドサイドマニュアル』第5版は,携帯型産婦人科診療マニュアルの待望の改訂版である。本書は,臨床の現場で活用できるよう編集され,産婦人科専門医養成研修課程の医師や実地医家を主たる対象としているが,すべての初期研修医,看護師,助産師そして臨床医学を学ぶ学生にも読んでいただきたい書籍である。

 箇条書きにまとめた記述,図や表の多用,2色刷等の構成は,見やすく,そして何よりも素早く理解できるよう配慮されている。一口に産婦人科といってもその領域は膨大なものになる。本書はテーマをベッドサイドで必要な事項に厳選してあるが,minimum requirementsはすべて網羅されており,コンパクトなサイズながら新知見は漏れなく収載されている。

 近年すべての医療機関において,「医療の安全」が最重要課題に取り上げられている。ヒューマンエラーをゼロにすることは難しいが,「思いこみ」,「過信」,「慣れ」といったヒューマンエラーに結びつきやすい要因を自覚して対処することが予防や防止につながる。日常の臨床現場で,「必要と感じたとき」,「困ったとき」,「迷ったとき」,「確認したいとき」,躊躇なく本書を開くという習慣が必ず「医療の安全」に役立つと確信している。

B6変・頁552 定価6,930円(税5%込)医学書院


医療者のための結核の知識
第2版

四元 秀毅,山岸 文雄 著

《評 者》森 亨(結核予防会結核研究所長)

再興する結核への実践的な手引書

 1999年7月,その3年前に始まった結核の逆転上昇傾向が最高に達して「結核緊急事態宣言」が当時の厚生省から出された。結核が「再興感染症」として各方面で注意が喚起され,対応が議論された。そうした中で刊行されたのが,本書第1版であった。その後,国でもこうした新たな事態に関して結核対策の包括的な見直しが進められ,結核予防法の大幅な改訂が行われた。本書もこれに対応して版が改められ,新しい対策やその考え方が取り入れられ,紙面が文字通り一新されている。

 著者は東日本を代表する2大結核診療施設(国立病院機構)の臨床,研究そして対策のあらゆる分野で活躍するリーダーである。本書の内容も「医療者のための」というキャッチフレーズにふさわしく,非常に実践的,現場即応的なもので,研修医や看護師にも噛んで含めるような心遣いが随所に見られる。たまにしか結核患者を診療する機会のない医師が参考書として開いても十分役に立つはずである。実地経験豊富な両著者の面目躍如というべきであろう。

 また所々に興味深い挿話や臨床を取り巻く公衆衛生上の話題がカコミでちりばめられていて,結核診療の奥の深さ,社会性を教えてくれる。きれいな挿絵や図表はそれらをぱらぱら見ているだけでも飽きない。

 さて,日本で発生する結核患者は3万人(2004年),結核で死亡するのがその8%にあたる2300人,しかも発見後1年以内に死亡する者は発生患者の5%であり,この数字は年々悪化している。それらの多くの患者が何らかの問題で医療の管理下にありながら結核を発病し,不良な予後をたどっているのである。

 診断の機会からすると,日本の医師(仮に内科系医師を10万人として)の3人に1人しか結核患者にぶつからないことになる。しかし患者を早期に発見し,救うためには,おそらくこの10倍以上の患者について結核を疑う必要があるはずであり,それならば,日本の医師が結核を意識すべき(「結核はまだある!」と)機会や必要性ははるかに大きい。

 本書は,そうした日常の,第一線の診療機関,福祉施設の医師や関連職種に広く読まれ,参考にされるべき貴重な手引きである。

B5・頁192 定価3,150円(税5%込)医学書院


レジデントのための
腎疾患診療マニュアル

深川 雅史,吉田 裕明,安田 隆 編

《評 者》深津 敦司(京大病院・腎臓内科)

診療を重視した実践的なマニュアル

 『レジデントのための腎疾患診療マニュアル』を一読して,深川先生ら編者に喝采を送りたい。これまで日本では腎臓分野で,このような臨床に即したマニュアルは定期刊行医学誌以外では見当たらなかった。実際に患者を目の前にした時に何を考え,何をすべきかという実践的なマニュアルに仕上がった。

 腎臓病の分野は,学生をはじめ,general physicianをめざす医師や研修を終了した医師に,何かわかりにくい,つかみどころのない分野であるという意識が生じて敬遠する人が多いように思える。これまでの腎臓専門医の責任であるが,腎疾患,特に腎炎の分類がわかりにくいこと,また病理から免疫,生理さらにはメカニックの知識まで必要とされる腎臓病学の幅広さによると考えられる。

 これまでのマニュアルはまず疾患名があって,それについての概説というスタイルのものが多かった。本書では見出しは疾患に基づいているが,内容はもっと実用的でこれまでの成書のスタイルとはまったく異なっている。例えば日本での一次性糸球体疾患として最も重要なものにIgA腎症があるが,本書ではネフローゼ症候群を生じうる疾患の一部として,多彩で複雑な病理やいまだ解明されていない成因についてはほとんど触れることなく,臨床医に必要な概念,診断,治療について簡略して述べてある。その代わり,専門医でも混乱しやすい,腎疾患の臨床的,組織学的分類の概念を理解しやすいように解説し,そのなかのIgA腎症の位置づけを述べ,さらに実際患者が目の前にいた時にどうしたらよいかをわかりやすく書いてある。

 本書の最も特徴的な点は,広範にわたる腎臓病学の分野のなかで,これまで腎専門家(臨床医,研究者)が興味を持ってきたことから離れて,診療をする上で何が大切であるかを考慮して,そのことを中心に編成されている点である。主要な症候や兆候をどのように理解し,それからどのような腎尿路疾患を疑い,疑ったらどう検査を計画し治療に至るかという観点から本書が構成されている。さらに水電解質平衡異常や酸塩基平衡異常など臨床上,実際にはよく遭遇する病態について詳しく述べられている点も本書の特徴である。

 一応,腎臓内科医を自認していた筆者にも改めて,あるいは初めて知ることが少なくなく,恥ずかしい思いをしたことを吐露したい。時に患者を診察していてその兆候,検査値を解釈する際,ふとこんがらがることがある。そういう時にもう一度頭の中を整理するため参考にするのに最適な書と思われる。

 わが国では研修を修了した医師やgeneral physicianをめざす医師が遭遇する腎尿路疾患を実践的に扱ったマニュアルはきわめて少なく,洋書に頼らざるを得なかった。日本の著者の研究指向が強かったためと思われるが,本書の登場によりようやく日本でも実践に即したマニュアルが使えるようになった。

A5・頁496 定価5,040円(税5%込)医学書院


救急研修標準テキスト

日本救急医学会 監修
島崎 修次,浅井 康文,有賀 徹,杉本 壽,前川 剛志,益子 邦洋,行岡 哲男 編

《評 者》相川 直樹(慶大教授・救急医学/慶大病院長)

新臨床研修制度に必須の知識を集約

 平成16年に始まった「医師臨床研修制度」の2年間の研修を修了した一期生が,18年にはいよいよ医籍に登録される。

 筆者は「医道審議会医師臨床研修検討部会」の委員として本制度構築に参画したが,「将来の専門性にかかわらず,2年間の臨床研修に専念し,プライマリ・ケアの基本的診療能力を身につけ,医師としての人格を涵養する」という基本構想から,内科,外科,ならびに救急医療(麻酔を含む)が「基礎研修科目」となったことは,わが国の臨床医育成にとって重要な改革であったと思っている。

 救急患者は,既往歴や現病歴が不明で来院時から重症であることが多く,診断と治療に緊急を要する。診断と治療とを並行して進める必要があり,時に,緊急手術など,突然の治療方針変更を決断しなければならない。インフォームドコンセントを得られない患者や,家族との連絡が取れないことも多く,届出や法的手続を要する傷病が多いことなど,救急現場では,内科や外科の患者への対応とは異なる対応が求められる。

 救急医療の研修が始まってみると,研修にはさまざまな問題があることが浮き彫りとなった。救急医療を体系づけて指導することのできる「救急科専門医」などの専任の医師がいない研修施設では,急遽,救急医療の研修指導者を確保する必要が生じた。さらに問題となったのは,「研修医向けのテキスト」がなかったことである。

 すでに,医学書院からは『標準救急医学』と『救急レジデントマニュアル』という救急専門書が発行され,改訂を重ねているが,この度「日本救急医学会監修」により上梓された『救急研修標準テキスト』は,医師臨床研修制度に則した救急医療の研修を効率よく行うことを目標として編集された点で,研修現場では使いやすいテキストであり,医学部を卒業したての研修医向けに書かれている良書である。

 執筆者は日本救急医学会の会員で,専任で臨床現場に従事している中堅の救急科専門医が多い。医師になりたての研修医に先ず何を教えなければならないかを心得た執筆者たちによる各章は,具体性に富んでいる。特に,Ⅵ章「頻度の高い症状の診断と対処」,Ⅶ章「緊急を要する病態とその初期治療」は,まさに,新臨床研修制度が求めている,「幅広い基礎的診療能力を有する臨床医の育成」に必須の知識が集約された研修指導書となっている点で,高く評価したい。

B5・頁420 定価5,880円(税5%込)医学書院


外科医のための局所解剖学序説

佐々木 克典 著

《評 者》市川 厚(横市大名誉教授)

外科医の視点から術式を加味した図を収載

 久々に解剖書を手にして,そのオリジナリティーに満ちたユニークな内容に強い感銘を覚えた。著者は小生が横浜市立大学医学部に在職当時,順天堂大学小児外科で大学院博士課程を終えた後,横浜市大の解剖学講座に助手として入って来られた。当初から資料の豊富な当講座でマクロの解剖を存分に究めたいとの意図を持ち,繁忙な講義と実習を終えた後,臨床解剖専用の解剖室で独り黙々と解剖に専念しておられたのを覚えている。

 各ページを埋める挿図は最終的にイラストレーターの手を借りたとはいえ,その原図はすべて著者のオリジナルであり,三次元的な描画は各臓器の相互関係を「膜」とその間の「隙間」を中心に,手術術式をわかりやすく解説するものになっている。また同時に,随所に添付されているCT画像は,これらの挿図と対比することによって画像の解読を一層容易にしている。CT画像解析のための図譜は,これまでにも数多く見られるが,概して平面的な断面図または縦断図と対比して解説するものが多く,これほど手術術式を加味したユニークな挿図と対比掲載されたものはほとんど見当たらないように思われる。この点,若い外科医のみならず,ある程度外科手術に習熟した人たちにとっても,折に触れて本書を手にすることにより,手技を一層確度の高いものにすることに役立つと思われる。特に近年外科手術に内視鏡が多用される傾向にあるが,このことは一層本書の有用性を高めるに違いない。

 また本書の特徴の1つに各章の末尾に「タイムクリップ」という囲み欄がある。これは外科学発展の歴史的なエピソードを述べたものであるが,筆者がHarold Ellisの著書Surgical Case Histories from the Pastをもとに多くの文献から引用したもので,きわめて興味深い内容が書かれている。

 日常われわれが用いているMcBurney's point,Billroth I法,II法などの言葉の起源と,その先人たちにまつわるエピソード,および外科手術発展の挿話が記されている。筆者はこれらの記述に興味を覚え,思わずこれらのページを初めから終わりまで一気に読み耽ってしまったが,外科医に限らず,医学を学び,医療に関わる人々に裨益するところは少なくないと思われる。

 本書を通読して,これは最近稀に見る好著であり,外科学や解剖学に携わる人々のみならず,多くの他分野の方々にもぜひ一読されることをお薦めしたい。

A4・頁288 定価12,600円(税5%込)医学書院


ハリソン内科学
日本語版第2版

福井 次矢,黒川 清 監訳

《評 者》寺沢 秀一(福井大教授・総合診療部/福井大病院副病院長)

黄色い表紙の『ハリソン』

 医学部卒業と同時に沖縄県立中部病院で1年間のスーパーローテーションをした。平均睡眠時間3時間で,さすがに本を読む時間も気力もない1年だった。2年目に内科の1年目の研修医(今でいう後期研修1年目)となり,常時25人の主治医をするという過酷な研修だったが,『ワシントンマニュアル』だけは読んだ。主治医となった患者の疾患に対応する部分を拾い読みするような読み方だったが,1年が終わる頃にはぼろぼろになった『ワシントンマニュアル』に愛着を感じ,長く手放せなかったのをよく覚えている。

 次の2年間で内科のシニア研修医として,中部病院の内科のすべてのサブスペシャリティを数か月ずつローテーションした。今思い出しても豪華な米国帰りの指導医軍団と,1年目の内科研修医の間に立つシニア研修医として後輩を教える立場となり,その2年間で必死に『ハリソン』を読んだ。神経内科をローテーションしている期間には神経内科の部分を,消化器内科の期間中には消化器の部分をと,患者が入院するごとに『ハリソン』を読み,翌日その知識で1年目の内科研修医を指導する2年間であった。患者のほとんどが内科1年目に主治医を経験した疾患であったため,『ハリソン』を読んでいて砂が水を吸収するような勢いで知識が自分の中に入り込んでくる実感を味わった。生涯で最も自分が伸びた時期であり,この時期が今の自分を支えていると確信している。内科研修の1年目の経験があったからこそ『ハリソン』を読みこなすことができたと思っている。

 当時の黄色い表紙の『ハリソン』を閉じて机の上に置くと,ローテーションし終わったサブスペシャリティに相当する部分が手垢で汚れ,読んでいない部分との境界が鮮明となり,それぞれの部分を読み終えた達成感にひたった。汚れていく部分が次第に増えていくことを無邪気に喜びながら,しばしば『ハリソン』を撫で回して一人でニヤニヤしていたことを覚えている。『ハリソン』の同じ部分を何度も繰り返し読み,本に愛着をもてるくらいに読み込むことが臨床医としての自信を生むことも知った。

 自分のどこかで,あの膨大な『ハリソン』を日本語に訳すなどということは不可能だと決めつけていたので,日本語訳が出版されたのを見て愕然としたものである。訳された方々と出版社の方々のご苦労に心から敬意を表し,一人でも多くの医学生,医師に『ハリソン』を読まれることをお薦めしたい。

A4変・3152頁 定価31,290円(税5%込)MEDSi
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