医学界新聞

 

Dream Bookshelf

夢の本棚 9冊目

渡辺尚子


前回よりつづく

■「やさしさ」と「冷たさ」の心理

著:加藤諦三
PHP研究所
1993年
文庫,249ページ
510円(税5%込)

 人を注意するって,難しい……。今日は病棟で後輩を怒った。だって,私たち看護師はチームワークが大切なのに,彼女は同僚がどんなにフォローしているかまったく気にもとめず,自分勝手な言動ばかりが目立つのだもの。最終的には患者さんに迷惑がかかる,そう思って彼女を傷つけないように注意したつもりだったのだけれど。そうしたら彼女,逆にプイッと怒って帰ってしまった。私の言ったことが伝わったのか否かもわからないまま……。きっと彼女もいやな気持ちでいっぱいだったでしょうけれど,怒った私のほうもエネルギーを消耗した……。怒られるのもいやだけど,怒るのも大変だわ……。そんな気持ちで眠りについた。

 「また来たね,あなたの書斎に……」あっ,この声!! と思ったら,小さな単行本が本棚から飛び出して目の前に落ちてきた。思い出した声の主のことも忘れ,本を手にとって書名を見ると『[やさしさ]と[冷たさ]の心理』。いかにも「今知りたい!」と思う気持ちを代弁する書名だわ。早速,その本を読み始めた。

 章立てをみると,「生きることが楽になる自分と他人の見方・考え方」「気が楽になる〈人づき合い〉の方法」「気が楽になる自分と他人の心の読み方」と,なにかワクワクする言葉が出てくる。人の怒り方についても書いてあるのだろうか? では早速,と一章を読み始める。「不機嫌な人は,相手の不機嫌に敏感になる」とか「気むずかしい大人というのは,甘えの欲求が満たされていないだけの話」と書かれている。なるほど……確かに子どもに置き換えるとよくわかる。「気むずかしい」というのは大人に使う言葉だけど,自分の欲求をうまく言葉に伝えられない大きな子どもなのだわ。

 本を読む前は気楽に読める内容かと思っていたが,読んでいくうちにいろいろ考えさせられ,少し腰をすえて読まなくては,という気持ちになってきた。さらに読み進めていく中で「生きるということは,受身で耐えているほうがよいなどというものではない。もっと興奮に満ちた挑戦的なものである」という言葉に,力を与えられたりもする。

 気が付くとじっくり,ゆっくり時間をかけて読んでいた。そしていよいよ最後の章。「他人の中に不快な感情を引き起こすことで,自分はダメな人間であることを確認しようとする……」そんなことあるの? 相手を不快にさせることで自己否定をしていくなんて。なんとお互い生産性のないことだろう。でも良く考えるとそのことが納得できる場面を思い出したりする。なるほど!

 読み終わって,椅子に深く座りなおし,背もたれにもたれかかる。いつも読み終わった後はすぐ目が覚めるが,今回は読んだ後の自分の心に耳を澄ませたくなった。今日怒った後輩の背景を想像しては,「彼女自身も大変なんだな。早く自分の気持ちに気づいてくれるといいのにな……」と思ったり。そしてまた,自分の心を見つめることができた。でも最後は,自分が単に感情で怒っているのではないこと,それを伝える価値,つまり患者さんの命を守るために必要なことかを確認して,言うべきことは言わないといけないのだ,と思えた。

 後輩を怒ったあの時,私はどう感じていただろう。そう,あの時は自信をもって怒ってよかったのだわ。それに私は私でしかありえないんだもの! 彼女を怒ったことで不安になった気持ちは,私自身に対する不安な気持ちだったのだ。

 すがすがしい思いで目が覚めた。「さあ,今日も一日がんばるぞ!」そう口に出して,朝日を浴びながら背伸びをした。

次回につづく


渡辺尚子
今バナナに凝っている。しかしすぐ黒くなってしまうのと,それを人にあげると迷惑そうな顔をされるのが玉に瑕だ。だが先日,その黒くなったバナナに栄養があると知った。これからは自信を持ってあげよう! 私の周りの皆さん,ご迷惑をおかけします・・・!?