医学界新聞

 

日本の医療が進むべき方向を探る

第26回日本医学会総会ポストコングレス公開シンポジウム開催


 さる3月16日,杉岡洋一会頭(九大名誉教授・前総長)のもと,有楽町朝日ホールにて第26回日本医学会総会後のポストコングレス公開シンポジウム「どうする日本の医療」が開催された。日本の医療はWHOで世界一と評価される一方で,患者の満足度は低い現状がある。今後,日本の医療が進むべき方向について討議された。

 米国型医療を後追いする医療改革について李啓充氏(医師・作家)は,日本の医療費の対GDP比は先進国の中で平均以下であることを示したうえで,「社会保障還元率,企業の公的負担率が諸外国に比べ著しく低いにもかかわらず,小さな政府の名の下に自己負担をさらに増加させようとしている」と言及した。

 そして混合診療導入については(1)財力によるアクセスの不平等を容認,(2)似非医療が横行する危険,(3)医療保険本体が悪用される危険,(4)保険医療が空洞化する危険,を挙げ「有効性・安全性が確認されている医療を保険診療に含めるのが本筋であり,必要な治療が保険診療に含まれていないことが問題」と混合診療導入議論の根底が間違っていると指摘。日本の医療は“患者の権利”と“医療の質”から取り組むべきであるとまとめた。

 近藤克則氏(日本福祉大)は,効率(efficiency)・効果(effectiveness)・公正(equity)のすべてが同時に満たされないことを示し,「医療費抑制のみを議論するのではなく,医療の質の向上や受診のアクセス面の確保,健康格差是正など多面的な議論を行い,社会保障制度の拡充を目指すべき」と述べた。

 医師の絶対数不足による過剰労働の危険性を本田宏氏(済生会栗橋病院)が指摘。「36時間勤務は多量のアルコールを摂取した時と同程度に判断能力を低下させる。このような状態で診療をさせることは患者の身も危険な状態である」と述べ,常態化している長時間労働による危険を回避するためにも医師を増やす必要性を訴えた。

 また本田氏は,現在の医療不信を払拭するためにも,患者と医師の間にある深い溝を埋めるためにも,“医療現場の真実”を医師・患者双方が直視し,理解し合うことを求めた。

 飯野奈津子氏(NHK解説委員)は,今日の医療制度改革が財政再建を中心に行われていることを危惧し,本当に必要なことは「患者が納得する,患者本位の医療を実現すること」と強調。そのためにも(1)確かな技術と安全な医療,(2)納得して医療を選べる,(3)安心感とくつろげる環境,(4)生活の質を高める,これらをクリアすることを挙げた。さらに患者と医療提供者の信頼関係がもっとも重要であり,そのためにも権利ばかりを主張するのではなく,患者も自身の病気について勉強する必要があると述べた。

 最後に杉岡氏が医療のあるべき姿を決めるのは医療提供者や官僚でもなく国民自身であることを強調し,「日本・外国の医療の現状を正しく理解し,質がよく,信頼され,平等な医療が受けられる制度を維持していくための行動を起こしてほしい」とシンポジウムを締めくくった。